Sランクパーティーを追放された暗殺者は、お世話になった町で小さな英雄になる

白季 耀

町の人々との再会と、孤児院経営話

ディノサイドンの群れを退けてから、かれこれ1時間が過ぎた頃、目的の地プレイテスに着いた。

プレイテスは別名泉の街と呼ばれている。
その所以は、街の中心街に立つ豪勢な噴水もそうだが、何よりも街の少し外れた鬱蒼と樹立する森林内部にあると言われる【ウンディーネの泉】がそうだ。

一時期【ウンディーネの泉】が大ブームを起こし、各地から観光客が押し寄せたが、今ではそのブームもとうの昔に過ぎ去り、現在はその時の恩恵もあり一応は中規模の街を保っている状態だ。

本来は田舎なので、仕方ない部分もあるけど、俺はやっぱりこの街が好きだ。


プレイテスの停留所に着いたので、馬車から降りておっさんにお礼をする。

「ありがとなおっさん」
「いやいや、兄ちゃんがいなかったら今頃は道中に遭遇したディノサイドンの腹の中さ。それにしても、まさか兄ちゃんのジョブが暗殺者だったとは驚いたな。その外見や態度からじゃ全く想像できんわ」

おっさんはとても上機嫌な様子でそう言った。

「良く言われるよ、お前は暗殺者には向かないってな。…本当にありがとうおっさん。ここまで連れてきてくれて」
「例には及ばんよ。これも仕事の内さ。まだ名を名乗ってなかったな。俺の名前はバッカスだ。実はこう見えて流浪の商人だぜ!」

やっぱり商人だったのか!
ディノサイドンの群れに遭遇した時、おっさんは不安な表情はしても、たじろいだりはしていなかった。だから、何かそういった襲撃や不意打ちが日常茶飯事な商人なんじゃって思ってたけど…。

「その様子じゃ、兄ちゃんは気付いてたんだな。流石は暗殺者だ」
「いやいや、俺はそんな大層な人間じゃないよ。俺の名前はルシアだ」

するとおっさんは先のディノサイドンの襲撃の時よりも驚愕の念を浮かべた。

「待て兄ちゃん!今、ルシアって言ったか?ルシア、暗殺者…。あんた、まさか!あの【蒼穹の牙】の暗殺者のルシアか!」
「なんだ、知ってるのか?」
「当たり前だろ!【蒼穹の牙】ったら、超有名の迷宮攻略専門のSランクパーティーじゃねえか!なんであんたこんな所にいるんだ?」
「追放されたんだよ。攻撃力が低いからってな。つい昨夜の事だ」

おっさんは俺の悠然と言った発言に、少し難しい顔をした。

「そうか、大変だったな。まぁ、なんだ。その…元気出せよ!兄ちゃんは下向くより笑ってた方が似合うぜ!もし何か、お困りの事がありましたら、我が商店にお越しください。それじゃ達者でなルシア!」

何処まで気の良い人なんだろう。赤の他人である俺の事で、あんな表情してくれる人は、いなかった。

いや、もう赤の他人じゃないか。

「ああ、バッカスも元気でな!生活が落ち着いたら訪ねてみるよ!じゃあな」

俺はバッカスが見えなくなるまで手を振り続けた。

短い旅だったが、楽しい時間だった。




 ️ ️ ️



まずは町長の家を訪ねることにした。

この街の人とは実は殆どの人と顔見知りで、町長に会いに行くまで随分懐かしい顔ぶれに話かけられていた。

「おっ!よぉ~!久しぶりじゃねぇかルシア!」

道行く人に挨拶をしていると、遠くの方から俺の名前を大声で叫ぶ声が聞こえて、その声を聞いた時俺は素直に嬉しくなった。

「ケイン!久しぶりだな~!」

ケインと呼んだ男は俺を見るや否や走ってきた。

「ルシアお前成長したな!おいこら!一丁前の男になりやがって、元気だったか!」
「当たり前だろ!それよか、お前だって変わったじゃねえか!その格好、もしかして念願の店でも開いたのか?」
「おう!遂に夢が叶ったぜ!」

ケインは俺の親友で、昔っから「将来は酒場を営むんだ!」と息巻いていた事を覚えている。

俺と違って自己実現に向けて頑張っている姿はとても好ましく思うが、その反面、親友が何処か遠い場所に行ってしまったような、そんな喪失感を感じた。

「なぁ5年ぶりだ!今日内の酒場でパーッとやろうぜ!」
「いいな、それ。でも今から町長の家訪ねるから、それからな」
「そっか。分かった、特別うまいメシ作って待っててやるよ!」
「期待してるぜ、コックさん」

俺はケインに手を振りながらその場を後にした。




 ️ ️ ️



この街ではおそらく一番立派な家が、町長の家だ。
敷地は他の家の数倍位の大きさで、良く目立つ。

町長の家のドアをノックする。

「ハァ~い!」

軽快な声がドア越しから聞こえる。

「あら、ルシアちゃんじゃない!久しぶりね!」
「うわっ!ちょっと…ニコルさん?」

金髪のおっとり系美人が抱きついてきたので、優しく引き剥が…あれやば!離れない!
ちょっ!やめってやめろ~!」

首が…締まる、うぇぇ!

「こらこらニコル、ルシアが苦しそうにしておるぞ、やめてやれ!」

無精髭を生やした黒髪のまだ50代ぐらいの外見のおじさんの一喝で首を絞める力が弱まる。

「あらごめんなさい!ルシアちゃん大丈夫?」
「はぁ~はぁ~はぁ~、死ぬかと思った」

こんな時でも付いて回る俺の筋力。不甲斐なし。

「良く戻ってきたなルシア!さぁさぁ中に入りさない」

部屋に入るよう促され、高そうなソファに座り、町長は向かいのソファに座る。
ニコルさんは俺にお茶を注いでくれると座りはせずに町長の側に立つ。

懐かしむように町長が話す。

「よく戻ってきたなルシア。どのくらい…この街に滞在するのじゃ?」
「予定はない。だから、もうこの街に住み着こうかと考えている」

その言葉を聞くと、町長もニコルさんも表情がパァッと明るくなる。

済むと話した時、迷惑そうな顔をされると思っていたので喜んでくれるととても嬉しい気持ちになる。

「そうかそうか。よし分かった!今宵は宴だ!我が町の期待の新星の帰還を祝して乾杯じゃ!」
「いや、俺としてはそんなに目立ちたくないし、宴はしなくていいって」
「そっ、そうか」

すると町長があからさまに落ち込み、ニコルさんが町長の背をさすっている。

(俺がこの街を出るって言った時もこんな反応してたな)

「だったら、住まいだけは!せめて住まいだけは用意させてくれはしないか?」
「えっ?いいのか?」
「勿論じゃ!」

それはかなりの好待遇なのでは?
俺としては願ったり叶ったりなんだが、まぁ町長とこう言ってる事だし

「じゃあ、お言葉に甘えようかな」
「任せろ!決してお前が苦悩の生活を送らないよう最高の家を用意しよう!」

いや別にそこまでしなくても…。

頼んでしまった手前、今更断るのも申し訳ないし、もういっかな。

そこで俺は、当面の課題を思い出し町長に話す。

「そういえば、町長。俺今仕事探してるんだけど、何かいい仕事とかってないかな?俺にも出来そうなやつ」
「おおっ!それなら丁度良い!実は、お前さんにやってもらいたい仕事があるんじゃ!」


その仕事の内容は、孤児院の経営だった。

この街はとっくにバブルの時代は過ぎ、今ではお金に少々難儀しているとか。
それで孤児院の維持費が払えず、現在孤児院はピンチなのだそうだ。
役人も不足しているため、その孤児院の経営を俺にしてほしいとの事。

孤児院が無くなるってことは、そこにいる子供達の居場所がなくなってしまうという事だ。
それは可哀想だし、なんとかしてやりたい。

「分かった!その仕事、俺が引き受ける!」
「おお!やってくれるか!それは良かった」

これで俺の職場は、Sランクパーティー所属の一流冒険者から、孤児院の経営者になりました。

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