俺と異世界とチャットアプリ
スレ75 迷宮は宝の山
八十一層、ようやく第二……というか第一のスタート地点まで戻ってきた。
両刃斧という、壊れても構わない武器が思いの外役に立ったからだろう。
五十層以降のボスが落としてくれたアイテムを有効的に活用し、漁った宝箱から見つけたアイテムも使用している。
その光景を、レイルたちはどのように観ているのだろうか……ズルいとか言っているのかもしれないな。
「罠はお見通し、というかしばらくは常時意識しておくか……」
ボス階に罠が無い、という常識染みたルールもそろそろ信じられない。
むしろ、そういった風に思わせておいたからこそ、ここから設置されると思った方が当たっていそうだ。
魔力と罠対処で二割を使い、残った三割を戦闘系の処理に使う。
無意識の五割が思考を繋ぐが、解除するまでは俺の内面の動きが外面に出ることが無くなる……無表情にも使える便利な機能だ。
「…………」
地球で習った罠の見つけ方、そしてそれでは発見できない魔力を用いた罠の捜索。
これら二つを行いながら、現れた魔物は薙ぎ払うように振るった斧で対処する。
幸いにして、フルスペックである四割でないと対処しきれない魔物はまだ出てこない。
冷静……を通り越して冷徹な戦いで、少しずつ最深層に近づいていった。
◆ □ ◆ □ ◆
九十一層からは、ボス戦を繰り返す仕様となっていた。
これまで十ごとの層で出てきたボスの強化個体が、そのボスを複数配下として操って殺そうとしてくる。
「まあ、どうとでもなってるけど」
罠が完全に無くなったようなので、戦闘を四割にして一割を緊急時に対応できるように温存して戦っていた。
次々と振り下ろされる鋭い斧を、同じく古びた斧を振り回して破壊していく。
「斧技──“災断”」
気を流し込んで強化をしてから、仕込まれた型通りに斧を振り回す。
暴れ回るように、ブンブンとあらゆる角度へ刃を向ける……だがそれは、どれを取っても無意味ではない。
愚かにも近づこうとした魔物──九十五階層ボスの配下であるミノタウロスは、刃の軌跡に触れ……細切れとなった。
『ッ……!』
知性が低い魔物でも、その一瞬の現象に恐れを感じだす。
触れただけで切られるのだから、御免被ることこの上なしだろう。
しかし、いつまでも終わらない暴虐の嵐に痺れを切らす魔物たち。
だが、ボスである一番大きなミノタウロスは恐れることなく前に突き進む。
『ブモォオオオオォ!』
配下は両刃斧だが、その個体だけは魔石が嵌められた巨大な大剣を握っている。
勢いよく吶喊してくるその表情は、負けるはずがないという傲慢さが表れていた。
「──よし、これで終わりか」
大剣を避けるように軌道が変わり、ミノタウロスの両腕が切断される。
悲鳴を上げず、むしろ怒りで力を増した状態で角を突きだす。
硬さに自慢でもあったのだろうが、そちらはスライスハムのように綺麗に切断される。
そしてそのまま、頭部が……といったところで再び軌道が変更され、体を代わりにスライスされて絶命した。
「さすがに頭部がスライスされるのは、いろいろと猟奇的だしな……」
アイテムを回収し、再び歩を進める。
大剣も拾えたし、あと少し……気を引き締めていこう。
◆ □ ◆ □ ◆
九十六層、大剣でぶった切った。
九十七層、大剣でぶった切った。
九十八層、また罠だらけ……だったが、大剣で破壊し尽くした。
そして、現在は九十九層。
大剣を用いてボスの首を全部切り落とし、解体して仕舞っているところだ。
「まさか、物理的に繋げてくるとは……」
ヒュドラ、多頭で有名なドラゴン。
立ちはだかったその魔物は、何度首を切断してもすぐに再生して俺を襲ってきた。
──要するに、素材を回収し放題だ。
再生スキルは生命力も癒してくれていたので、本当に俺が飽きるまで首を再生させた。
龍の素材はレアなので、あとでみんなにお土産として渡す予定である。
そうして生かさず殺さずの行為を続けていると、ヒュドラの心が折れたのか再生を止めてしまった……ので、気功術の一つを使って強引に体を動かし、再生を使わせて素材の回収を続けていた。
これで(生活が)助かる、という一心でやり続けたからだろうか、せっかく手早く勧めていたはずなのに、すでに夕暮れ時であるとスマホがアラームを鳴らしてくれる。
「ダンジョンマスターめ、まさかこんな戦略で俺を足止めするとは……最初のワープ罠よりビックリしたな」
こればかりは、地球で引き籠もっているであろうアイツよりも優れているだろう……主にコスト的な面で。
「しかし、これもそれで終わりだ。百階層はゴール、だからボスは用意できない」
核を置く部屋なので、たとえさらに地下があろうとボスは配置できない。
……置いていたら、あからさまにまだ隠し階層がありますと言っているようなものなのだからな。
「次の階層は……まあ、全部でいっか」
レイルも待っているし、これ以上は夕飯に差し支えてしまう。
迅速な行動をせねば……気を引き締め、再び階段を下りていった。
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