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スレ56 強奪はネタを知られています
激しい剣戟が舞台の上で鳴り響く。
一定のリズムなど存在しない、だがその音色は聴く者の心を奪う。
「あの者たち、名前はいったい……」
VIP用の観客席でもそれは同じで、王族の一人がそれを従者に尋ねていた。
「『グレイル=レイル』と『アサマサ』という者です」
「レイル……聞いたことがあるな。ホロムに生まれた鬼才の持ち主だと」
そう言って視線を向けた先には、ゆったりとした紫色のドレスの上に鎧を纏った女性が座っている。
その視線を受け、女性を口を動かす。
「グレイルがどうかしたか? たしかに、うちの国が推薦した子ではあるが」
「あれだけのことをできる者が、いったいどれだけ居ると思っている」
「さあ、私には図りかねるな。今の私はただの観客、武にそう詳しくはないのだ」
(よく言うわ、『武鬼』の名を継ぐ者が)
かつて、一人の騎士がとある国に居た。
あらゆる武器を使いこなし、いかなる逆境に陥ろうと勝利を国へ捧げた武人。
魔法を使えないとされたその者は、それでも戦場に生き残り続け……最後の最期まで、同胞に、国に裏切られようと戦い続けた。
その鬼のような闘いぶりから、後世においてこう語り継がれていた──『武鬼』と。
某国の王が視線を向けた女性は、その名を継いだと世に認められるほどの戦上手だ。
その騎士が持っていなかった魔法への適正も有しており、初代を超えた武の鬼として隣国から恐れられている。
「これは私の私意だが……あのグレイルという少年は、千年に一度の天才だ。六大魔法に加え回復魔法への適正、武器も私……いや、あの『武鬼』から仕込まれたらしいからな」
(完全に言ってるではないか)
「だからこそ気になるのだ。それと釣り合うあのアサマサという少年が……」
そういって女性もまた、別の者が座る席へ視線を向ける。
「何か知らないだろうか──アインの姫よ」
ビクッと肩を震わせるのは、黄金を梳かしたような髪を伸ばす美しい少女だ。
神が造形したとも思える至高の美貌は、その質問を受ける前から真っ青に冷めていた。
「アインでは魔王の誕生に合わせ、異世界人の召喚が行われている。呼びだされる者たちの特徴は……ちょうど、黒髪黒目だったはずだが?」
彼らが観戦する舞台では、片方の少年がその特徴を満たしている。
何度も呼ばれた異世界人の血が、後世においてその特徴を発露させることもまたよく知られていた。
(だが、すでに異世界人たちを呼びだしたことは事実。あの者もそうであるならば……何かしらの力を持つということだ)
武人として、スキルに頼るだけの者たちはあまり好まない彼女であったが、自身の弟子とも言えるグレイル相手に喰らいつく様子を見ると考えも改まる。
(スキルに突き動かされるだけでは、グレイの動きを捌けないだろう。完璧にその動きをコントロール、あるいはまた別の方法で合わせているのか──)
「ど、どうして……」
「?」
「どうして、生きているの……」
(たしかに殺したはず。その報告は、コウダ様が……まさか、虚偽の報告を? いや、それはない。生き延びた? あの迷宮を!?)
自身の口から言葉が漏れることにも気づかないまま、王女は思考を巡らせる。
その声は誰にも聞こえないとても小さなもの、だが隠しきれない真っ青な顔こそが何かあることを周囲に示す。
邪魔者でしかない異世界人。
扱いやすい【勇者】を捻じ伏せる異常な力は、アインにとって殺す選択肢を取るしかない存在となっていた。
故にアサマサは、コウダと呼ばれるあるスキルの持ち主によって迷宮の底へ落とされることになった。
(あの塗り潰されたスキル。あれが死ぬ前に正常に作動した? 強奪の力は認識していないスキルは奪えないと言っていた……)
コウダと呼ばれる男は、強奪という稀有なスキルを世界を渡る際に獲得していた。
発動条件はスキルの存在を、正確な形で認識すること。
一度失敗した相手からは二度と奪うことはできないため、本来であればそう簡単に挑むことはできない。
──だが、異世界人には識る術がある。
スキルの詳細を調べることで、確実なスキルの剥奪が可能となっていた。
そういった観点もあったため、アサマサのステータスは過保護な友人たちから偽装を施されていたのだ。
あらゆる異世界の経験は、友人を救うために一つに集められ……完璧な防衛を整える素地になっていた。
(……それより、今は策を整えなければなりませんね。初代勇者は、迷宮の地下に己のすべてを封印したという。それをあの男が手に入れていたなら……真実も知ったはず。殺さないといけないわね)
「……アインの姫、どうかしたのか?」
「! い、いえ、なんでもありません。それよりあの方のことですね? ええ、知ってますわ。あの方は、たしかに召喚に応じてくださったお方ですわよ」
隠したときのメリット、そして開示した際のメリットを天秤にかけ、王女はアサマサに関する情報を開示することを決断する。
「やはり異世界人か……だがお前たちは、まだ全員を訓練中だと伝えていたはずだな。どうしてこんな場所に、アインに居るはずの異世界人が居るのだ?」
「少し、長くなりますわよ?」
「構わない。試合のつまみに、ぜひ聞かせてもらおうか」
その会話を耳にした周囲の貴賓たちは、全員が情報を得ようとするのだった。
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