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山田 武

スレ52 誰でもできるカウンター



 その文面を見た瞬間、すぐさまスマホを隠して叫ぶ──

「Oh、jesus!」

「どうしたんだ、急に叫びだして」

「い、いや……その、なんでもない」

「……本当に大丈夫か?」

 物凄く怪訝な眼なんだが……そこは、気にしないでおこう。

 まさか、このタイミングで『面倒事対処シリーズ』が届くとは思ってもいなかった。
 サーシャのときもそれ以前の旅でも、一度たりとも来なかったその通知が……。

「ここで来るとはな……」

 内容は簡単、優勝しろ。
 そこに少しだけおまけのようなことが記されていて、達成すれば良いことが起きる……かもと書かれていた。

 うん、こういう場合はロクなことが起きないことは経験上よーく知っている。
 剣士の争いに巻き込まれたり、谷底へ叩き落されたり……いい思い出が少ないな。

「二人共……この戦い、絶対に負けられないみたいだ」

「ふっ、ようやくお前にも覚悟が定まったみたいだな」
「……少し、頑張る」

「優勝しよう。その方が、Xクラスの底力を見せつけることができる」

 嗚呼、せめてリア充君のように覚醒イベントでも存在してくれれば簡単だったのに。

 魔力チートに気づこうが、そういう輩が複数のチートキャラが入り混じる中で勝利を掴むパターンはかなり少ないのが、創作物の王道だろう。


≪それじゃあ一回戦第一試合──2-Dvs1-Cの始まりです!≫


  ◆   □   ◆   □   ◆

 それからは、控え室で他のクラスの戦闘を観察することになる。

 今回のイベントはトーナメント形式ではなく、総当たり戦が採用されていた。
 つまり敗北は敗退とイコールではなく、作戦の一つとなるのだ。

 さらに言えば大将を倒せば勝利の1on1ではあるが、出る順番は自由というなんだか適当なルール。

 ──いきなり猛者が出てきて、無双を行うなんて展開もありえるのだ。

「グレイル=レイル……凄いな」

「奴の実力は、やがては高みに到達すると言われる程のものだ。それは映像越しであろうと理解できるだろう」

「ああ、こうやってみるだけでも末恐ろしいと感じるよ」

 能力をセーブし、魔法も使わず剣を振って戦っていた。

 デモンストレーションなのかどうかは分からない──それでも一回戦から大将である彼が出る理由が、俺にはさっぱり分からない。

「……ああ。あれはたぶん、教師に出ろと言われたのだろう。自身のクラスが優勝する。それだけで、教師が優秀だという証明になるらしいからな」
「……力の誇示」

「彼自身、そういうことはしなさそうな感じだしな。あっ、でもキンギル先生は?」

「さあな。何か考えでもあるのだろう」
「……自信あり?」

 まあ、あの人は俺の魔力チートにある程度気づいているみたいだしな。
 少しいい成績が取れる、とでも思っていてくれたのだろう。

 ……それならサーシャを出してくれれば、間違いなく優勝だったのに。


≪勝者は1-S! 続いては3-BvsXクラスの勝負です! 二チームは、すぐに入場門に向かってください≫


「出番、みたいだぞ」

「これぐらいの相手ならば、私独りで充分だろう。二人はここで寝ていてもいいぞ」

「そっか、じゃあそうするか」
「……なら、兄さんに甘えて」

「…………自分で言った言葉だ。今さら止めることもないか」

 なんだか寂しそうな背中を見せながら、グリアルムは控え室を後にする。

 残ったのは俺とファウルム。
 彼女は瞳を閉じて眠りに着き、俺はカメラに引っ付いてグリアルムの闘いに集中した。

  ◆   □   ◆   □   ◆

「相手は三年なのに、グリアルムって凄いよな。何、あの無双っぷり」

 俺との戦いで見せた亜光速は使わず、ひたすら刺突剣だけで勝利していく。
 まるでグレイルへの対抗意識を燃やすように、同様の方法で勝っていったのだ。

「ここからまだ亜光速があるんだから、恐ろしい。勝てる奴なんているのかよ」

「……ん」

「いや、俺とか指さなくて良いから。というかファウルム、グリアルムってグレイルと因縁でもある?」

「特にない。けど……兄さんは、強い人が大好き。同じくらい、強くなりたくなる」

「えっ、戦闘狂なの?」

 ならベストな人を紹介するよ。
 たしか、『戦闘狂』って呼ばれてたから。

「なあファウルム、それってお前もか?」

「……ファウで良い。私は別に、強いかどうかはどうでもいい。しいて言うなら、寝ながら戦えるようになりたい」

「そうか……ならファウ、今度少しで良いなら教えるよ」

 寝ていても、殺気に反応して無意識の内で攻撃に対応するなんてことができる。

「…………えっ、あるの?」

「ああ、ただ能動的な戦いじゃなく受動的なもの──カウンターしかできないけどな」

 これは結構早めに技術として習った……そうしないと、疲れ切った体で不意打ちに対応できなくなるからな。

「特に難しいことはない。極限まで体を追い込んで死にかけた状態で、何度も殺気を浴びるだけで覚える。俺は三日かかったけど……ファウなら数時間でできるさ」

「……やっぱり、止めとく」

「そうか? まあ、やりたくなったらいつでも言ってくれ。俺の殺気なんてほぼ皆無だから、簡単に覚えられるぞ」

 おっ、グリアルムが勝ったみたいだ。
 この調子で、どんどん勝ってくれよー。


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