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山田 武

スレ46 定番の学園バトルイベント



 数日後、俺のキャンパスライフは色取り取りな明るい物へと変化していた。

「あら、おはよう。サーシャ、アサマサ」
「ようサーシャ、それにアサマサ。なあアサマサ、ちょっと試してぇ魔法があんだが試してもいいか?」

「お、おはよう」
[おはよう]

 まず二人、挨拶を交わしてもらえるようになった。

 えっ、それだけだと?
 今まで存在感がないせいでスルーされていた、それが解消されて気づいてくれるだけで感動するもんだぞ。

「なあ、いいだろ? やらせろよ」

「ちょっ、その言い方止めろ!」

「あぁん? なんか問題あったか? ──とりあえず、挨拶代わりに一発!」

 結局ブラストの掌から、燃え盛る炎が放たれた。
 通常は球として放たれるそれを、どうやら渦巻く螺旋のように放っているようだ。

「サーシャ様、ヘルプミー!」
[かしこ]

 いろいろと短縮形を覚えたサーシャが、ブラストの放った魔法を盾で防ぐ。
 魔法自体は“虚無鎧ホロウアーマー”で防げるが、副次的に生まれた熱エネルギーは防げない。

 なのでそれも防げるサーシャに任せ、俺は後ろで待機していた。

[ガード]

 できるだけ虚無の魔法は隠しておきたいので、“虚無壁ホロウウォール”は使えない。
 俺は学園では無属性と魔力操作、そして気の運用しかまだ使っていないのだ。

 おまけで言えば、闇魔法も魔道具を介して少しだけ使っているけどな。

「おいアサマサいいのかよ、自分のご主人様に防がせてよぉ」

「いや、死にたくないから。サーシャ様に防げて俺に防げない。なら、サーシャ様にお願いするのは当然だろ」

[次は自分で]

「……へっ?」

 一瞬で俺の背後に立つサーシャ。
 それを咎める暇も与えられず、ブラストはニヤニヤと笑みを浮かべ始める。

「おっ、そういうことならもう一発ぶぅう」

 再び掌に魔力を溜め始めたブラストに、どこからか小さな水球が飛んでいく。

 水道を捻れば出てくる水滴を、やや大きめにしたほどのサイズの水は、それだけでブラストを弾き飛ばす威力を有していた。

「やりすぎよ、ブラスト。……いつもこのバカがごめんね、アサマサ」

「い、いや、大丈夫。毎度のことだが、サーシャ様に守ってもらっているし」

[問題なし]

 ブラストが仕掛け、俺が逃げ、サーシャが防ぎ、フェルナスが止める……この一巡が朝のパターンとなっていた。

「あ、グリアルムとファウルムもおはよう」
[二人とも、お早う]

「ああ」
「……んぅ」

 金髪二人とも挨拶(?)を交わし、ようやく席に着く。
 これまでよりも時間が掛かるが、これこそが求めていた生活なんだろう。

 アキたちに出会ってから、こうして誰かと話すことが増えていたからか……こうされた方が、案外落ち着くのだ。

「さて、今日も頑張りますか」

 予鈴が鳴り、一日の開始を告げる。
 それとほぼ同時にキンギル先生が登壇し、朝のHRが始まる。

  ◆   □   ◆   □   ◆

「えっと……クラス対抗戦?」

「お前らはまだ一年目だけど……別の国に居た時に聞いたことないのか?」

「ありますか? サーシャ様」
[いいえ、誰でも]

 まあ、言葉の響きでなんとなく内容が理解できたんだが。

 キンギル先生のためになる授業が終わり、気づけば帰りのHR。
 そこでブラストが率先して、このイベントのメンバーを決めるために盛り上がった。

「要するに、クラスの中から三人出して闘うイベントだ。このXクラスからも当然三人出すんだが……先輩の大半が登校拒否だから、俺たちはこの中からメンバーを出す必要があるんだよ」

「去年はワタシとブラスト、それに一人教室に居た先輩に出てもらったけど……途中で乱闘になって失格になったわ」

「何があったんだよ、その闘いに」

 訊いたら駄目、そう思ったがつい呟いてしまった。
 幸い誰の耳にも入らなかったので、話はそのまま進んでいく。

「今回はサーシャとアサマサもいる。せっかくだし、アルムとファウも出てみない?」

「断る」
「……んん」

「そう、残念ね」

 金髪組はあっさり却下。
 なら出るのはブラスト、フェルナス、サーシャの三人になるか。

[ブラスト、フェルナス]

「あぁん──ぐぼぅっ!」
「どうしたの? サーシャ」

 ヤンキーみたいな返事をしようとしたブラストが水魔法をくらった直後、うちの鎧騎士がとんでない発言をした。


[メンバーは、グリアルムとファウルム──そしてアサマサでFA]


 さ、サーシャァァァァァァァァッ!
 お前さんは、何を言うてはりますのっ!

「お、おい貴様! 私は出るなど──」
「……んん」
「ちょ、おい、サーシャ……様!」

 俺たちの苦言に、サーシャは長文を打って返答する。

[ブラストとフェルナスは去年出た。なら、二人が出るべし。残った人枠は、従者であるアサマサが代わりに出るから問題なし]

 などと言いやがった。
 前半の部分は納得がいくが、後半はいろいろとおかしい!

「先生、学生でない従者が対抗戦に出るのは間違ってますよね!?」

「──いえ、問題ありませんよ」

「そうですよね、問題ないですよ……え?」

「そうした例もあります。ただ、それは試合に出るのを面倒臭がった、大貴族のドラ息子でしたが。それでも前例はありますし、アサマサ君が出るのは可能なことです」

 Oh! ……少しずつ逃げ道が減ってる。
 だがまだ希望の星、金髪組の反論が残っているじゃないか。

「ふざけるな! 私は出ないぞ。こんな茶番など、そこの二人に任せておけばいい」
「……ん」

[負けるから、そう言っている]

 ちょっ、挑発はいけないよサーシャさん。
 こめかみを引くつかせる煽り耐性が無さそうなグリアルムが、勢いのままに応える。

「参加するだけ価値がないだけだ! 貴様の挑発なぞ、引っかかるか」

[なら、賭け]

「賭けだと?」

 ……ヲイ、ちょっと待て。
 なんだか凄く嫌な予感が──

[アサマサと二対一で勝負。負けた方は対抗戦に参加する]

「お、おい、ちょっと待ってサーシャ様、それって俺が勝っても負けても、全然意味ないじゃない──」

「良いだろう! それで構わない」
「……ん」

 テメェラァァァァァァッ!
 絶対グルだろ、どうせグルなんだろ?

[勝ちなさい、アサマサ]

「……はい」

 そして、キンギル先生が訓練場の予約を取れた翌日、俺と金髪組との戦いが幕を開く。


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