俺と異世界とチャットアプリ
スレ25 折れる精神
急に力を得た反動か、セリさんはなんだか傲り高ぶった状態になっていた。
一人称が『私』から『余』になっていないのは、まだセーフの証拠だな。
もうその段階まで行くと、逝っちゃってる人認定をされてしまうところだった。
「……まあ、こっちの世界の人にとってはそれが普通なのかもしれないな」
「バカな、どうして!?」
「俺の知り合いに、魔王が居るんですよ。少し……というかかなり俺に対して強く当たってくるんですけど、それでもちゃんと接すればいろいろと教えてくれるんです」
「何を……何を言っている!」
俺の意図が伝わっていないようで……セリさんは動かしている手を止めない。
「魔王という存在は、勇者との闘いを運命に強制される役割です。だからこそ、魔王は誰からも恐れられる力を有しているし、勇者はその魔王に対する特別な武器を持ちます。本来の仕事は管理や統制ですけど……今は説明しなくても良いですよね。それよ理──」
「喰らえ!」
話している最中だというのに、セリさんが黒い波動を飛ばしてくる……便利だな。
現在、セリさんが俺と自分を闇色の空間に隔離してため、辺りには邪魔となる物は何一つ存在していない。
──受け継いだ魔王の力はチートすぎる。
本来魔王とは、一つ奥義のような物を持っているのだが、彼らの一族はその宝珠の力によってかつての魔王が有した奥義が使えるわけで……つまり、凶悪な奥義が複数発動可能なのだ。
「しかし、時には勇者が敗北する時もありました。勇者が油断する場合や魔王が予想以上に強かった場合……結構あったそうですね」
アキもたしか、そのときの魔王はちょっと面倒だったと言っていたな。
……ちょっとで済むんだから、チート勇者は凄い。
──おっと、攻撃が来てるんだった。
持っていた錫杖のような物を地面に突き、シャランと音を鳴らす。
その波紋は振動となり、黒い波動を打ち消していく。
「な、なぁあ!?」
「世界によっては、勇者ではなく別の存在が必要とされる場合もありますが……今は置いておきましょう」
「アサマサ、いったいどうやったんだ!?」
「……素に戻ってますよ」
ハッと言うような表情をしているのだが、今は説明を行っていこう。
「魔王には聖属性以外の属性攻撃に対する耐性があります。闇なんて、もう無効化に近い程の親和性があるそうですね」
「……そうだ。だからこそ、魔王は聖属性を持つ相手を警戒する」
「では、属性ではない無の属性は警戒していないのですか? 今まで魔王の中にも、そうして無属性の使い手に倒された者は居たと聞いていますが」
「無属性は、持ち主の魔力で性能のすべてが定まる。相手の方が魔力を有している場合、ほぼ無効化されるのが当たり前だ。魔力が高い者が多い魔王に、無属性を懼れる者はいない……なのに、どうしてアサマサは……」
いや、俺も溜め込んだ魔力を使わないと魔王の魔力なんて超えられないぞ。
黒い槍や黒い砲弾を飛ばしてくるセリさんの攻撃を、取り出した無数の武器に溜め込んだ魔力で防ぐ。
……幸い、ストックは大量にあるからな。
俺のストックが持つか、セリさんの説得を終えるのが先か。
ここが勝負どころだな。
「先ほども言った通り、俺には頼もしい味方がいるんですよ。それじゃあ、そろそろ話を始めたいんですけど……」
「アサマサ。お前は、相手が絶対的な余裕を保ったまま話をしているというのに、黙って引き下がれるというのか?」
「ええ。……昔、体験したから良く分かりますよ」
やさぐれていた中学生に挑んだのだが──まったく勝てなかった。
最後には、眼鏡の少年がガキ大将に勝った場面の劣化版を行うハメになったんだぞ。
「では、どうしますか? 魔王様ともあろうお方が、俺のような凡人相手に最強の一撃をぶつけ合う……なんて展開にするおつもりでしょうか?」
「うぐっ。わ、私の……一族の力を受けて生きているアサマサに、凡人と自身を称する資格などない!」
「無属性しか使えない、ただの無能ですよ。しかし、一撃はさすがに勝てないですし……ここはいっそ、別の方法で解決しましょう」
「別の……方法?」
現状ではどうしようもないことを分かっているからこそ、セリさんは乗ってきた。
少々心苦しいが……それっぽく聞こえる内容を伝えようじゃないか。
「簡単です。それぞれが持ち時間を決めて、攻撃をするんですよ。指定する時間は自由ですけど、持ち時間が合計で1000を超えるか、相手がその前に戦闘不能かギブアップをした場合はそこで決着をつけます」
「なるほど、それなら私に困ることはない。良いだろう、その決まりを受けよう」
ありがとうございます、と言ってからもう少し細かい説明を行っていく。
まあ、思う存分やって良いぞ、って感じのルールだな。
ああ、ついでに順番も決めよっか……。
話し合いの結果、まずは俺からとなった。
「では、行きますよ」
「…………」
集中しているセリさんには、俺の声は届いていないようだ。
大量の防御系の魔法が展開され、完全に警戒しているのが良く分かる。
俺もまたそんな防御魔法を警戒して、少し多めに魔力を籠めていく。
「じゃあ、五秒です」
(──“虚無限弾”)
「……ッ! ゥウウウウ!!」
何だか獣染みた声を上げるサリさんだが、やはり俺の魔法なんかでは全然防御魔法を壊せていない……罅は一瞬空くのだが、唸り声と共に高速で修復されている。
そして、五秒の時間が過ぎ去り──
「さすが、魔王ですね。さあ、次はセリさんの番ですよ──」
「無理無理ムリムリむりむりぃぃぃ……」
「セ、セリさん?」
頭を抱えたセリさんが、俺の足元で蹲るという状況が生まれた。
えっと……どういうことだ?
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