俺と異世界とチャットアプリ
スレ23 深淵の邂逅
──チュドーンッ!
俺が地に着いた音を、擬音で例えるならばこんな感じだろう。
ズドンとかドスンでないのが、やけに威力が高めだったことを示している。
なんせ俺、風属性とか重力属性の能力は所持してないからな。
ただただ身を堅くして耐えるしか、選択肢が無かったのだ。
「これで、俺は晴れて自由の身だな。……場所的に全然、解放感はまったくないけど」
これが青空が視界いっぱいに広がっている時であったらならば、さぞ表現のし甲斐があるだろうが……俺が居るのは、暗い昏い箱の底である。
感情を表そうとしたら、ほとんどネガティブなモノとなるだろうな。
「しっかし、やっぱり暗いな。スマホがあるから光源には困らないが、さすがに無魔法で光を創る? ………………“虚無照球”」
スマホ一つでは光が足りないと思ったのだが、あっさりと簡単に創れてしまうようだ。
そういえば今さらだが、創作物でも無魔法で創る球が光を放っているのを見たことがある気がする。
だからそれが作用した結果、イメージしやすかったのかもしれない。
「えっと、たしかこの後はこの証印を使って中にある物を取るんだったよな……どこにあるか、教えてくれなかったけど」
転送機能を使用して送られて来たハンコのような物には、見たことのある気がする剣のデザインが施されていた。
先日、ダンジョンに関する情報交換を行う最中、アキがこれをくれたのだ。
[いいか? 必ず必要になる……ってわけでもないが、あったらあったで便利だから持っておいた方が良いぞ]
この後、それが『面倒事対処シリーズ』に新たに必要な物として記されたことには大変驚いたものだ。
──女神様、こっちのことを監視しているのかよ! ってさ。
……本当、どうしてこうもアプリに干渉しているんだろうな。
まあ確証は無いんだけど、普は神って人に干渉できない……とか無いのだろうか。
いくら一週間の安全の約束云々があろうとも、さすがにそれって関係ないよね?
閑話休題
並み居る魔物を無魔法とスキルにもならないお遊びの武術で倒していき、かなり深い所まで来たと思われる。
「やっぱり、鑑定スキルはあった方が良かったか? ステータスだけしか見れないし……あとで、できるかだけは訊いてみるか」
動画視聴機能と異世界の仕組みを同等で図るのはかなり問題な気もするが、製作者がハルカだと分かっているしな。
通常の方法――“鑑定”を二回重ねることで視ることができる[メニュー]はもう使えないため、こちらは本当に方法が無い。
ハルカができないと言うのならば、俺はステータスが見れるだけ満足という考えに落ち着くのだけど……。
なんか、やれる気がするんだよな。
ここから出たら、話してみるか。
そうしていつも通りブツブツと呟いていたのだが──突然、今までに倒して来た魔物とは比べ物にならないほど、強力な魔力を帯びた一撃が飛んでくる。
(──“虚無庫”)
だがそんな一撃も、いきなり突き付けられる銃口よりはマシだろう。
思考を加速させ、頭の中で発動させた魔法によって攻撃を別の空間へと隔離する。
「バ、バカな! 消失しただと!?」
「言語は……これかな? あっ、どうも。貴方も上に居た邪龍と同じで、魔王の幹部みたいなポジションの方ですか?」
「ぽ、ぽじ? いや、そうではないのだが」
「そうですか。しかし、まさかこんな場所で人に会えると思いませんでしたよ。貴方もこのダン……迷宮には、大切なことをするために来たので?」
「そうだな。ここに眠るとされる宝の内の一つが、我が家に伝わる家宝とされる物の可能性が高いのだが……その、宝物庫の場所が分からないのだ」
「ああ、そうなんですか」
さて、俺の話にしっかりと乗ってくれる目の前の優しい人。
──なかなかお目に掛かれないほどの美人さんです。
黒色をベースとしたコートを羽織り、その下にはこれまた黒と紫の比率がなんだかカッコイイ感じを醸し出す鎧を付けている。
髪と瞳の色は暗闇に映える紫電のような色で……スタイルもスラッとして抜群だ。
しかし、家宝ね……それはそれは、手助けしたくなるよな普通。
「なら、いっしょに探しませんか? ちょうど俺も、ある物を探していたんですよ」
「……私、さっき不意打ちしたんだが」
「結果的に何も無かったんですから問題なしです。それに、慣れてますから」
「慣れるものなのか!?」
結構、慣れるものなんだよ……。
うん、何度かリバー・オブ・サンズを経験していればな。
「……まあ、それに関しては家宝が見つかってから問いただすとして。貴公は……」
「ああ、言い忘れてましたね。俺の名前は朝政って言います」
「私は……セリとでも呼んでくれ。それで、アサマサは何を探しているのだ?」
うん、間違いなく偽名だな。
予想だと『セリなんとか』か『なんとかセリ』的な感じの名前なのだろうか。
……まっ、今はいっか。
「俺は──これが使えるという場所を探しています。心当たりは?」
そう言って、ハンコを取りだして見せる。
すると、セリさんの顔が何かに気づいたような顔になる……なぜか嫌そうに。
「この印……確かにこの迷宮の中で見つけた物と同じだ。それも、私が宝物庫であろうと予測した場所に在った」
「本当ですか!? それはいったいどこで」
「ここから少し下にある場所だ。すでに私が階層主は倒してあるから、アサマサが倒す必要は無いだろう」
「……そっか。凄いんですね、セリさんは」
この世界に来てからハッキリ分かるようになった魔力の波動。
セリさんはそれを何種類も持っている……つまりリア充君同様、多様な属性適性を宿しているのだ。
「そんな私の攻撃を、一瞬で消し去ったアサマサの方が凄いじゃないか。それに、私はセリで構わんよ」
「ど、努力はします。そういえば、ここっていったい何層なんですか?」
目的地へとセリさんの案内の下、移動を始めた。
……今さらなんですが、それに気付いていなかったんですよ。
「……ここは第98階層だが」
「へー、98階層なんですか………………って、ここが98階層!?」
あまりにデカい数字を聞いて、挙動不審になってしまう俺。
……いえ、ですがそんなにビックリしないでください、セリさん。
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