俺と異世界とチャットアプリ

山田 武

スレ22 奪われた二つのスキル



 召喚者たちの勢いは凄まじく、ボスだろうが雑魚だろうが問答無用で殲滅していった。

(──“虚無限弾ゼロバレッド”)

 俺もまた、魔法を発動させて魔物を殺し尽くしていった……独りで。
 だんだんと国の態度が露骨になっており、俺のポジションは最後尾となっている。

 そこには先ほど説明した不意打ちをしてくる魔物が随時現れてくるので、ため息を吐きながら丁寧に対処しているぞ。

「そもそも、どうしてここまでやって能力値が上がらないんだろうな……」

 レベルが上がると能力値は上昇する。
 それこそが、この世界では常識とも言えるような事象だ。

 説明によると、レベルとは肉体の限界突破数を示しているそうで。
 数字が多ければ多いほど解放される肉体の最大出力は上昇し、より強大な力を振るうことができる。

 上がる条件はそのまんま、何かしらの形で限界を突破することらしい。
 なので勉学でも武術でも、世界がそれを一皮剥けたと承認してくれれば……何であろうとレベルは上昇するのである。

 俺も、いちおうは壁を超えていると認証はされている。
 されているのだが……肉体の最大出力が上昇していないんだよ。

 レベル上昇に用いた行動に伴い、本来はそれは加算されていく。
 異世界から現れた者は、その上昇率がこちらの世界の者よりも高いので呼ばれた……はずだったんだけどな。

 俺の体質は異世界でも通用したのか、レベルの数字は種族レベル以外変動しない。

 それでもリア充君に勝てたのは、あくまでそこまでレベルが高くなかったからだ。
 スキルでもない、ただの技術で戦えるのは最初だけ。

 レベルが高い者は、物理限界を超越した動きを取れるようになるので……俺のような凡人では、絶対に勝てなくなってしまう。

 ――理不尽なレベル差、それが露見する前に安住の地を見つけなければな。

  ◆   □  50層  □   ◆

 はい、ついにイベントが起きましたよ。
 公式に知られている最後の層である50層目で、なんと通常と違う魔物が出てきた。

 そ・れ・も、自分を魔王様の幹部だとかほざいている魔物がだったのです。

 その魔物のことを、邪龍とか騎士たちが呟いてたな。
 たしかに西洋風のドラゴンっぽいし、そういうものなのだろう。

「おっかしいな~。まさか本当に迷宮ダンジョンの底に魔王がいるなんて……これも計画の一つなのか?」

 召喚者や騎士たちは既に臨戦態勢。
 邪龍の方は『先に攻撃してみろ』的な発言があったので、何もぜすに俺たちが動くのを待っている。

 ──そして、色取り取りな輝きが邪龍へと飛び交っていく。

 魔法やスキルなどを発動しての、一斉攻撃が始まったのだ。
 ドドドドドッ! と効果音が鳴りそうなほどに、邪龍へと攻撃の嵐が到達する。

 その威力の強さは、立ち込める煙の量が裏付けていた。

「……や、やったか?」

 しかし、召喚者の誰かがテンプレの発言をしてしまったことから、これが邪龍を仕留め切れていないことは証明されてしまう。

 邪龍は平然と立ち誇ったまま、ジッと俺たちの方を見ていた。
 いかにも『今、何かしたのか?』的なオーラを醸し出しているのがカッコイイな。

「だがまあ、う~ん……そろそろ俺もやろうかな? (──“虚無剣”)」

 今までは遠距離攻撃だけで戦いに参加していたが、邪龍が動き始めると分かったので武器(魔法)を取って近接戦闘を始めていく。

 突然前に進み出たわけだが、俺のような雑魚に構っている暇は相手にもない。
 リア充君や騎士長の方を注視している邪龍の隙を伺って、チマチマと攻撃を行った。

  ◆   □  現 在  □   ◆

 そして、俺は地の底へと落ちている。

 邪龍を攻め立てていた俺達だが、突然本気モードに入った邪龍に猛攻に遭い、あまり強くない召喚者のためだとか言って逃げることが決定された。

 俺と騎士長、リア充君と数名の者が時間を稼ぐ役割に就いて抗っていたのだが……。

「──チッ、何か仕掛けがあるみたいだな。あの勇者をやったスキルは唯一スキルか。当然と言っちゃあ当然か。他のスキルは……特典だけか。まっ、熟練度稼ぎに貰っとくか」

 と、いう言葉と共に迷宮に在った穴の底に突き落とされた。
 予め分かっていたこととはいえ、失礼なヤツだよな。

 下手人は恐らく、成人した男だと思う。
 隙を見せるための演技のせいで顔を視ることはできなかったが、魔力の方はバッチリ視たので、会えば犯人か分かるようにできた。



 そして、高速で落下している最中、俺はスマホを片手にブツブツと呟いていく。

「ステータス……うわ、言語理解と鑑定の両方持ってかれてるじゃん。他のスキルは奪われてないみたいだけど。言語はとっくにスキル無しで理解できるし、鑑定は無くても自分のステータスだけは見れるから良いけどさ」

「熟練度? えっ、そんな便利なシステムがやっぱりあったの? 使えば使うほどスキルは成長してくれたの? ……なのに、どうして俺のスキルは何も成長しないんだよ~」

「なんかもう嫌になってくるな。どうせなら俺もそういう数字を上げてカンスト、とかそういうのやってみたかったのに……」

 アキたちは俺を困らせないように秘匿していたのだろうが、まあその事実も事実で心に刺さる物があるな。

 アイツらが優しいことは分かっているから誤解はしないが、そんな世界にとっての当たり前も不可能な自分に少々嫌気が差す。

「……ハァ、確かこの先にある物で変われるらしいし……楽しみにしておくか」

 暗くて昏い箱の底は、もうすぐ見えてくるだろう。


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