俺と異世界とチャットアプリ
スレ20 間が空く敬語
それから、しばらくの時が過ぎていった。
結局時間って過ぎていくんだよな。
嫌だ嫌だと思っても、生きている限り時間は必ず経過していく。
……まあ、いろいろな事情があって『時間は平等』とか『形あるものはいずれ壊れる』等の発言には賛成できなくなっているがな。
地球に居るアイツらの助言も受けて、国を出るための準備を行い続けていたんだ。
──そう、この国から出ることになる。
もともとあんまり好印象は感じていなかったので、それ自体は構わないのだが……この日までの俺の扱い、あの模擬戦からだいぶ変わっていた。
兵士たちは『アサマサ……様』とやけに行間が空いているが『様』を付けたり、無属性の魔法士を用意してくれたり──まあ、いろいろとされたな。
用意された無属性魔法士も実は……みたいな展開が遭ったり、お偉いの方々が憎しげな眼で俺を見ていたりとイベントも多かった。
「……!」
召喚者からも、たまに声を掛けられるようになったな。
──『お前、いったいどんなチートを持ってるか言えよ』って。
俺がチート持ち? まったく、全然違う。
チートってのは、俺よりリア充君の方がふさわしい単語だな。
俺にピッタリなのはあくまで『無能』であり、あんな仰々しい言葉は似合わない。
「……い!」
だいたい、強奪系のチート持ちがどこかに隠れているはずなんだ。
細心の注意を払わなければならない。
俺のスキルはどうせロクなものが無いから要らないだろうが、必要なスキルを周りから集め、リア充君のスキルを奪うようになった時が一番不味いな。
──『面倒事対処シリーズ』によると、すでに被害者はいるがそれに気付いていないという変な事件が起きているとのこと。
スキルに本来レベルがあり、下がらないギリギリまで経験値を調整して奪う能力……だとか書かれてた。
そこで思ったことは二つ──
・どうしてそんなに知っているのか
・レベル? ナニソレオイシイノ?
これらのことである。
そこまで強奪系の能力に詳しいヤツを、俺は一人しか知らない。
だがソイツも奪うのはアイテム系であり、スキルは奪えないと言っていた。
嘘を吐いているということもあるが、まあ俺は信じているということで。
……うん、たぶん書いているのは女神なんだろうけど、
ってか、もう一週間過ぎてるぞ。
今さらだがこのサービス、いつまで続くんだろうな。
そして……あれ?
ステータスを開いても、そんなもの見つからないよ。
レベルまで、俺はバグってるのか?
「……まっ、慣れてるからいいや」
いや、なんでそんなにあっさりと……的な台詞は聞き飽きているのだ。
……本当、なんでだろうな。
俺自身は普通なはずなのに、なぜか知り合いが関わるイベントに巻き込まれるんだ。
あくまで俺は──主人公の居るクラスの二つ離れた教室で、ただ影になっているだけのモブ的な存在なはず。
なのに、いつの間にか友人が大量にできて異世界にまで召喚されてしまう。
いろいろと心当たりが無いでもないが、そこは今は良いか。
「あっ、スキルが増えてる」
そういえば、すっかり忘れてたな。
最近、またどんなスキルが欲しいトークをしたんだけど……さすがにそのスキルがあったらアイツらを疑っていたかも。
だがそんな都合の良い展開など存在せず、ついでに今調べた称号と連動したスキルが手に入っていた。
新たな称号の獲得もまた、『面倒事対処シリーズ』に記されていたことだが……本当に手に入るんだな。
いいのかな? そんなに教えちゃって。
俺って、そこまでしてもらわないと死ぬって思われているのか?
あながち間違っていないのがとても悲しいが、事実だしな。
それに、保険はどれだけあっても構わないし……できるだけ手札は増やしておこう。
「──おい! 聞いているのか!!」
「……ああ~すみません。ステータスの確認に集中していたので、すっかりです」
「き、君は……!」
小説とかだったら、絶対に次のシーンに移行する瞬間だったよな。
それなのにここで割り込んでくるとは……まったく。
現れたのはリア充君、あれからちょくちょくチョッカイを掛けてくるんだよ。
お前は嫌がらせをしたい小学生男子か! と言いたくなるぐらいに面倒な奴だ。
適当にあしらっているのだが……コイツ、全然諦めない。
いつまでも俺に勝負を仕掛け続け、その度に逃げなければいけない俺の身にもなってほしいよ。
「今日こそ勝負するんだ!」
「あっ、いえ。嫌です」
「ぼ、僕をここまで貶しておいて、君と言う奴はまだ逃げるのか!」
「あっ、はい。そうですね」
回答も適当になるのは当然だな。
……ハァ、俺はここから出るまでコイツに付き纏わられるのかよ。
◆ □ ◆ □ ◆
ちなみにだが、脱出をするとは言ったがいつ出るかは決めていない。
──なんだか、タイミングの良い脱出の機会が無いんだよな。
城から出たことは一度も無いし、出ようとすると必ず止められる。
そんな状況で消えようとしたら、すぐに勘付かれるしな。
だが、ついにそれが来たのかも知れない。
──迷宮へ行けと言われたのだ。
この世界の魔王は迷宮内に居るだの云々と言い、召喚者たちをお偉い様方はそこへと連れ出そうとしている。
偉大なるリア充君は当然それを受け入れ、他の者たちもそれを承諾した。
俺もまた、それを是として肯定するのだけれどな。
「[迷宮で死んでも、誰も困らない]。それも書かれてたしな。……どんだけ先を見ているんだよ。あの女神、未来を視る能力でもあるのか?」
まあ、それはそれとして迷宮へ行くのだ。
きっと機会を求めるのは、間違っていないのだろう。
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