俺と異世界とチャットアプリ

山田 武

スレ17 面倒事への対処法



 さて、【勇者】であるリア充君に勝負を挑まれたわけだが……非常に遺憾ながら、俺の答えは決まっていた。

「──あっ、はい。よろこんで」

 俺のあっさりとした許諾に、周りの者たちは騒めき立つ。
 当然だ、スキルもロクなものがないバグ野郎が調子に乗っているんだからな。

 それは目の前の男も、同様のようだ。

「……本気で、そう言ってるんだね?」

 鋭い視線の中に、殺意が混ざっている……ただまあ、難癖を付けてくるヤンキー程度なので気にせず、一度呼吸を整えてから伝えたいことを一気に伝える。


「もちろんそうですけど。あっ、もしかして俺のためにわざと芝居を打ってくれようとしたんですか? 俺が偉大なる【勇者】に御就きになられた崇高なるユウト様に戦いを挑まれ、周りの空気に合わせて仕方なく戦った後で完膚なきまでに負けて俺を、他の奴はイジメなくなる……みたいな感じですか? ならゴメンなさいです。俺、ユウト様のことはそういう風に見れないんですよ。だって……心から、俺は男ですから」


 長ったらしい俺の発言に、リア充君のこめかみがピクピクしているのが目に見えた。
 ……ああ、なんでこんなことを言わなければならないのか。

 それもこれも、昨日見てしまったチャットのせいなんだよ──

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参加者:面倒事対処シリーズ

ケース01:模擬戦関連

STEP01:偉い人から模擬戦を挑まれましょう
黙って従うのがベスト 条件はそのままで
貴方ならきっと勝てます、友達を信じて

STEP02:調子に乗ったウザいヤツからの勝負に応えましょう
そのまま従うのがベスト 魔法と気力は解放
ついでに挑発もするとプラスポイント

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 誰が送ったかは知らないが……あのアプリには俺の知り合いしか登録されていないはずなので、おそらく誰かが載せたのだろうな。

 なので俺はそれの指示に従い、リア充君を挑発したわけだが……マジでヤバいよ。

「じゃあ、ルールは相手に『参った』と言わせる以外は無制限……それでイイよね?」

「……ええ、それで構いませんよ。あっ、気絶も敗北条件に足しておいてください」

 目が脅してるぞ。
 俺に『YES』の答えしか求めてないんだけど、リア充君。

「うん、そうだった──」

「ユウト様の意識が無くなった時に、処理できなくなりますから」

「……言ってくれるね、アサマサ君」

「えっ、何をですか? 俺はただ事実と真実と現実を、誠実に伝えているだけですよ。ユウト様が地面を舐めるのは決まっていることですし、当然のことじゃないですか」

 ドドドドッと言わんばかりにリア充君から神聖なオーラが発生し、それに影響された人たちが竦んでいる。

 いやー【勇者】って凄いな、そんなこともできるのかよ。
 アキがそんなことをしている様子は……俺へ攻撃してきたヤツにしていた気がする。

「……しかしまあ、思った通り上手く引っかかってくれたな」

 言葉でおちょくれば多少冷静さを失うとは思っていたが……まさかここまでとは。
 あっ、ちなみに俺の微妙な挑発も、地球にいる商人から教わった。

 アイツ、Sの気があったからな。
 微妙な毒舌しか吐けない俺に、ベノムなポイズンをめっちゃ吐いてきたよ。

 俺、何回orzの体勢ごたいとうちになったことやら。

「さぁ、準備をしましょうよ。ユウト様は早く本物の聖剣を装備してください。後から偽物を使ったから負けた……だなんて、一々聞かされるのは面倒なんですよ」

「……君がそれを望むなら、僕もそうする他ないね」

 そう言って、リア充君は右手を前にスッと出して叫ぶ。

「来い、[リースレング]!」

「うわー、引くわー……」

 棒読みで言ってしまったが、さすがにないと思う──雑魚相手に聖剣を振るうのは。
 まず右手に光の粒子が集まって、それは剣の形になっていった。

 白をベースに黄金や白金の装飾が施された鞘に仕舞われたその剣を、リア充君は一瞬の内に握り締めている。

「これが僕の聖剣──リースレングさ」

 俺の感想も気にせず、リア充君はそれの調子を確かめるように、ぶんぶんと振り回す。
 ……いや、そのたびに残る光芒がウザい!

 アキやフユツグたちの剣は、どれだけ見ていても困らない美しさを持っていたけど……使い手が素晴らしいからか?

「アサマサ君は……武器は必要ないよね?」

「えっ? 使いますよ、ちゃんと」

「なら、すぐに準備を──」

「いや、自前のを使うから」

 無魔法を発動すると、俺の右手にもどこからともなく剣が出現する。
 違いは剣に何の装飾も無く、ただただ無骨なデザインになっているってことかな?

「君は剣術スキルを持っていないように視えるけど……」

 たしかに持ってない。
 素振りをすればすぐに手に入ると言われたこともあったが、残念ながら数千回繰り返しても手に入っていないのだから無理だろう。

 コホンッと咳払いをして、軽く一息ついてから──舌を回す。


「剣術スキルが無いと、剣を使えないだなんて誰が言ったんですか? ここはゲームの世界じゃないんです。適性があろうがなかろうが、持つことは誰でも可能ですよ……あっ、ユウト様の聖剣(笑)は違いましたね。選ばれし者(笑)だけが使えるんでしたか」


 前にも言ったが、聖剣は特別な材料を使用しただけの白く輝く魔法剣だ。

 使われた材料の所為で非常に燃費が悪いのだが、【勇者】だけがその燃費を気にせずに扱える……まあ、そういうスキルを持っているらしいし。

 そんな選ばれた者だけが使える聖剣を、今回の指示通りならば……うん、嫌な予感しかしないな。

「試し振りはしないのかい?」

「何を言ってるんですか、ユウト様のちんけな玩具と違って、俺の剣は──」

 試し斬りというわけでもなく、ただ手首を振っただけ。
 しかしそれだけで斬撃が空を飛び、武舞台の床に痕ができた。

「何でも斬れちゃうんですよ。ですから、ユウト様や子供のように、責任も持たずにそのようなことをするなど、俺にはできません」

「──ッ!」

 まっ、あとで“原点回帰リセット”で元に戻すし、戦闘が始まったら四方を“虚無結界ニヒリズム”で包み込むから大丈夫なんだけどな。

「ユウト様、そろそろ──」

「いい加減、僕を様付けするのは止めてくれないかい?」

「……なら、ユウトさん。早く始めましょうよ。みんな、早く見たいって顔してますし」

「……良いだろう。君は僕をここまでコケにしたんだ。幸、優秀な回復魔法の使い手も居ることだし、君には完膚無い敗北を味わってもらうよ」

 たしか……アヤさん、だったかな?
 あの人のスキルなら……うん、きっと大丈夫だろう。

「では、胸を貸してもらいますよ」

「いつでも掛かっておいで」

 そして、俺とリア充君の勝負ケンカが始まった。


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