俺と異世界とチャットアプリ

山田 武

スレ03 アプリ起動



 次の日から、いろいろと勉強をさせられることになった。

 魔法や戦闘、歴史など、こっちの世界の基本をとことん叩き込まれた……が、要領の悪い俺には、全然分からない物ばかりだ。

 ──そして、現在は戦闘訓練中である。

「アサマサ君。……君、真面目にやっているのかな?」

「お、俺だって、ひ、必死に頑張っているつも、つもりなんだよ」

「なら、もっと頑張ろうよ。アサマサ君なら絶対にできるはずだから」

「(できないからこうなっているんだろう!)あ、ああ、分かったよ」

 現在行っているのは、木剣を握ったの剣術の習得だ。
 この世界ではある程度数をこなせば、子供でもスキルが習得できると言われている。

 異世界人はそれが目に見えて早いらしく、彼らの目的のために召喚されたってわけだ。

 魔法に長けている者は、先に魔法の訓練をやっているのだが……俺は魔法の発現を最初からできていなかったので、剣術スキルの習得を先にやらされていた。



 ──そして今、俺はなぜか【勇者リアじゅうくん】直々に扱かれている。

 普通こういうのは苛めっ子がやるものだと思うのだが、生憎俺の知っている苛めっ子はここにはいないので、代わりに俺を鍛えてくれているのだろう(年齢も近いしな)。

 だがコイツ、全然指南役に向いていないタイプだった。

 何をするにもやればできるだのなんだのと言って……お前は修造かよ! と何度ツッコみたくなったことか……。

 ──俺が相手じゃなかったら、たぶんギブアップして気絶するんじゃないか?

「それじゃあ、もう一度やってみるから──次こそは、ちゃんとやってくれよ」

「……あ、ああ」

 俺、これが終わったら、アプリを試してみるんだ(昨日はメイドが部屋の外にずっといたから試せなかったんだ)。

 そんなフラグを考えながらも、俺は再び手に持った木剣を強く握り、リア充君へと駆けていった。

 ──スキルなんてなくても、剣術ができると証明できればよかったのに。

  ◆   □  自室  □   ◆


「ハァ、疲れた。アイツ、俺に恨みでもあるのかよ。あの子が来るまで完全に苛め抜いてきたくせに、来た途端に態度を改めたな……本当に何なんだよ」

 今日の訓練が終了し、俺は今部屋のベットに突っ伏している。

 先ほど分かりやすく愚痴った通り、リア充君は……たしか、アヤさんが別の所で行っていた魔法の訓練を終わらせ、訓練場に来るまで永遠と俺を扱き続けたよ。

 メイドがいないことは何度か確認したし、しばらくは大丈夫だろう。
 俺は一人でいる時と同じように、独り言を言い続ける。

「疲れた疲れた、せっかく異世界に来たんだからアイツら・・・・の伝説でも聞けるかと思ってたんだけど……全然無かったな」

 今日の歴史の授業で教わったのは、いかにこの国が素晴らしいか、そしてその国に襲い掛かる脅威についてのみだ。

 アイツらも、自分たちの経験に関して具体的なことはあまり説明してくれなかったし、実はあんまり強く無いのかな?

 凄いことができるって、例は教えてくれたのに……。

『いいか朝政、異世界なんてロクなもんじゃない。俺も最初は教わったことを鵜呑みにしていたけど、実際はその情報が全然違ってて大変な事態に……なんてこともあってだな』

 アイツも俺に暇潰しにそう教えてくれたので、情報はしっかりと纏めたい。

「──そんな俺に便利なアプリ~(濁声)。出でよ、マイタブレット!」

 俺がそう叫ぶと──掌に使い慣れた俺のタブレットが出現する。
 ポンッと軽快な音が付いていたのは、女神の洒落た演出だろうか?

「まあ、さすがファンタジー! 出現から手がこんでいるな~」

 俺は一人でそう呟きながらも、チャットアプリ以外のアプリが起動できるかを確認していく……やっぱり、オフラインで使えるヤツしか使用できないようだ。

「さってと、お目当てのチャットアプリを起動するとしますか」

 女神様は何もツッコンで来なかったが、実はこのアプリ──チャットアプリとは名ばかりの超万能アプリなのである。

 どうしてこれを使用禁止にしなかったかは分からないが、使えるモノは使っておこう。

「でもこのアプリ、どうやって作ったんだろうな。詳細を聞いてもまったく教えてくれなかったし、ネットで検索してみても何故か都市伝説の類を集めてるサイトでしか見つけられなかったし……やっぱり、世の中は無料通話ができる方が人気なのか?」

 俺の使うアプリ――『A.C.』はハルカが教えてくれたアプリだ。

 たしか……『とても便利なので、知り合いにも教えてあげてくださいね』と言っていたので周りにも広めていたが、俺の交友関係は恐らくリア充君には届かないものだからな。

 ハルカには悪いが、ほんの一握りの人にしか広めることができなかった。

「それじゃあ、さっそく助けてもらおう!」

 一番最初に目に入った友の名前を押して、チャットを始める。

 ここら辺は普通だよな……タブレットの召喚がチートなのであって、それ以外は普通なわけだし。

  ◆   □   ◆   □   ◆

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参加者:アサマサ/アキ


アサマサ:異世界なう

アキ:おめ~

アサマサ:軽ッ!?
せっかく最初に連絡したんだから、もう少しテンション上げてくれよ!!

アキ:いや、それなら一気に全員纏めて連絡すれば良かっただろう

アサマサ:だって……急にこんなことを言ったら普通疑うだろう?
それならとりあえず質問に答えてくれそうな頼れる友に、連絡をしたんだよ

アキ:本音は?

アサマサ:空間を切り裂いてこっちに来そうな奴とか、魔法で次元に穴を開けて来そうな奴ばっかりで恐い

アキ:……俺もできるって知ってるよな?

アサマサ:本音を言うと、ちょうど職業が勇者な奴に扱かれてたから、善い勇者であるお前にアドバイスを貰いたかった

アキ:……ちょっと待ってろ、今すぐ神剣を召喚するから

アサマサ:何でそうなる!?
違う、違うから!
俺が求めたのは冷静な判断だから!!

アキ:ジョウダンさジョウダン

アサマサ:本当かな~?
まっ、いっか
俺が訊きたいのは異世界に行ったらやるべきことだな
アキが俺に異世界が碌なものじゃないって教えてくれたんだ
責任を取って説明してくれよ

アキ:はいはい、分かった分かった
それならちゃんと俺の説明を聞けよ?

アサマサ:り

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 そしてこれは、アキが朝政とのトーク中に同時に行っているチャットの画面である──

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参加者:ハルカ/ナツキ/アキ/フユツグ


アキ:やっぱり頼られるのは俺みたいだな

ナツキ:何でアキが最初なのよ!
ここは、頼れる私の出番じゃない!

ハルカ:ぷっ

フユツグ:聖女様ほどじゃないが、俺も少し悔しいな
頼まれたらすぐに駆けつけたのに

ナツキ:ちょっと賢者様、何を笑っているのかしら?
アンタだって頼られなかったくせに

ハルカ:このアプリを使っている時点で、私の勝ちは決まったようなものじゃないですか

フユツグ:……まあ、プログラミングからすべて賢者様の手作りだからな

ハルカ:今の私はプログラミングなんて、朝政さんを探すための魔法を創る片手間でもできますよ
指を動かすだけで作れるんですから、簡単ですよね

アキ:朝政は今、剣術のスキルを習得するための訓練をやってるみたいだが……勇者の職業に就いた奴に嫌がらせを受けているらしい

(リホが参加しました)
(ユキが参加しました)

リホ:勇者……殺す

ユキ:某としては殿がなぜ剣術の鍛錬をしているのかが分からぬ
殿は基礎から抜け出せぬ、故に某には想像の付かないものを発揮する
某が鍛えようとしても変わらなかったのだから、絶対不変とやらは殿の変化を拒むであろうに

アキ:はいはい、二人とも落ち着け
特に暗殺者、俺まで殺そうとしてないか?
侍は侍で淡々と書いてて怖い

リホ:キノセイ

フユツグ:侍、アイツが自分の能力のことを全然知らないって前に説明しただろ……
それと、いちおう異世界人ボーナスのスキルは入手できていたみたいだから、アイツでもスキルとして剣術を取れる可能性はある

ユキ:それは楽しみだな
殿にも某の剣術を教えて差し上げられる

ナツキ:相変わらずな二人ね

ハルカ:二人とも、朝政さんが関わらない事柄には普通の応対をするんですがね……


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