最弱属性魔剣士の雷鳴轟く

相鶴ソウ

261話 親睦会

 目を覚ますと、まだ船の中だった。
 体は重く、気分も鉛の様に重くのしかかって思考がはっきりしない。感覚的にわかるが体内の魔力が極端に少ない。最後の無茶をしたその代償だろうか。
 船内には波のさざめく音とゆらゆらと揺れる感覚だけが感じられ、恐ろしく平和だ。安定した波に揺られ、隣で眠るエヴァにも変化はない。まるで、レヴィアタンとの戦いが夢だったかのようだ。


「……おまけに頭痛か」


 体を起こすと、ズキッと頭が痛む。
 レヴィアタンはどうなった。ここに無事に居るという事はどちらの作戦が上手く行ったのか。状況を確認しようとエヴァを揺らすと、ややあって目を覚ました。


「クロトっ! もう体は大丈夫?」

「ああ、すっかり全快だ」


 ここはあえて嘘をついておく。
 エヴァにまで嘘をつくのは忍びないが、いつも戦いの後はこの程度の後遺症があった。まだ心配するほどの事ではないはずだ。……戦闘中の吐血と獄化・地装衣インフェルノトールの強制解除は確実に異常事態だが。


「よかった! 明らかに様子がおかしかったから、何かあったのかと思って……」

「ちょっと調子が悪かっただけだよ。それより、俺が気絶した後はどうなった?」

「二つ目の作戦、リュウの捕食者ドラゴン・イーターでレヴィアタンを鎧に閉じ込めるって作戦が成功したよ。エレルリーナさんも鱗とかはまだ残ってるけど、元気にしてる」

「そうか、なら良かった」


 今回ばかりは強いとか弱いだけの話ではなかった。
 最後は運に近い形ではあったが、俺達のいずれの勝利も「幸運だった」事は確かだ。今回も偶然リュウがいて、偶然レヴィアタン化を防ぐ力があった。


「幸運だったな」

「ん?」

「いや、ちょっと外の風に当たりたい」

「わかった、上行こっ!」





「まさかこのメンバーで食事を囲む日が来るとは思わなかったわ~!」


 同時刻。ケルターメン、〈シルク・ド・リベルター〉本テント内にて。
 〈風神〉のマスターボウはシエラの献身的支援もあり、出歩ける程度までに回復していた。


「それはこっちのセリフだぜ、ザシャシャ」

「おれは戦えれば何でもよかった」

「レオは戦い以外のコミュニケーションを少しは学んだ方がいいでありんす」

「私も舐められっぱなしはやだから一度勝負してみる?」

「いい、戦わなくてもわかる」

「何よ! 私だって強いわよ!」

「レオが戦いを拒否したのは初めてでありんすよ」


 すっかり打ち解けた三極柱、マスターボウ、レオらは親睦会と称した会食をここ数日ずっと続けている。


「おやおや、相変わらずにぎやかですね」

「レオさん、シエラ。今帰りました」


 その時、買い物に出ていたサーキンとリンリが帰ってくる。
 三極柱の中で唯一顔があまり広く知られていないのがサーキンで、尚且つ食材を正しく購入するなど三人の中ではサーキンにしかできない。
 マスターボウは未だ休養中。シルク・ド・リベルターのメンバーは評判の回復したサーカスの準備で手一杯。なのと、三極柱と急速な仲の深まり方に若干恐れおののいているというのもある。
 必然的に雑務はサーキンやリンリに回ってくるわけだ。


「今夜はシチューと行きましょう」

「あ、私も手伝います!」


 サーキンが厨房に向かうと、リンリもついてくる。
 サーキンはこの戦いを終え、冒険者から足を洗うことにした。元々老骨に鞭打って仕事を続けており、今回の影魔人や絶影の連発がかなり長期的に体に響いてくるとシエラが診断した為だ。それがなくとももう暗殺業はやめると決めていた様だが。
 本人は力が必要とあらばいつでもはせ参じると言っていたがもう体は無理の効かない状態なのは間違いない。


「ずいぶん打ち解けられたようでよかったでありんす」

「ああ、あとはクロト達の帰還を待つだけだ」

「それまではパーッとやりましょう~!」


 この数日間で三極柱が占拠していた街の区画を解放、『STRONGER』の取材対応、正規冒険者としての活躍。急激な手のひら返しに一同戸惑いを隠せていなかったが、それもすぐに歓喜の声に変わり、今までオリハルコンがいなかったが為に解決できていなかった依頼が急減。
 マスターボウ弁明のもと、これまでの贖罪として尽力すると宣誓した。


「これでめぼしい戦力は集まったかしらね。あとはクロトちゃんがどうするかだけど……」

「そろそろ帝国も戦争おっぱじめる気だぜ」

「それまでに事を済ませようとしてるのかしらねん」


 クロトが帰還するのはここから更に数日後ではあるが、それまでの間、シルク・ド・リベルターのテントからどんちゃん騒ぎが収まる事は無かった。

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