最弱属性魔剣士の雷鳴轟く

相鶴ソウ

256話 『万物』の力

「雷帝流奥義……雷神式・霹靂神はたたがみ!!」


 激雷を両刀で導き、レヴィアタンに叩き落とす。
 レヴィアタンは氷から解放されたばかりでそうすぐに自由は効かない。脳天に俺が使える最大の雷を落とせば流石にノーダメージとはいくまい。


「クロト、待って!!」


 エヴァの叫びと眼前の光景に理解が追いつくよりも先に体が動き、霹靂神はたたがみの軌道をレヴィアタンから離れた海面に変え、落とす。霹靂神はたたがみは海面に多大なる衝撃を与え、消えた。絶好のチャンスを逃してしまったわけだ。


「なんのつもりだ……スーサ・・・!!」


 俺の目の前に突然と現れたスーサは両手を広げてレヴィアタンを守ってるように見えた。その真意はわからないが、これまでの態度から考えてもすぐに答えは出る。
 少なくともスーサはレヴィアタンが討伐される事を望んでいない。


「すまない! だが、私にもここは譲れない!」

「……仕方ない」


 空中に身を投げ出したスーサをそのままにするわけにもいかないので、甲板までスーサを抱えて戻る。サエ、リュウ、エヴァも船の付近に帰ってくる。
 レヴィアタンは少し離れた所で恨みの篭った視線を向けている。


「話は後で聞かせてもらうぞ」


 スーサが何故ここに居るのか、何故止めるのか……そしてエレルリーナさんの事も。すぐにレヴィアタンに向き直ろうとした俺達を、再びスーサが行く手を阻む。


「討伐の依頼を出しておいてこんなことを言うのも嫌なんだ。だけど……仕方ないんだ。私よりも強いクロト達が現れてしまった以上は」

「争ってる暇ないわよ! 来るわ!」


 リュウに抱えられたままのサエが指差す方を見ると、レヴィアタンが何か仕掛けようとしている。
 口元が青く光り、体内からものすごい魔力を感じる。これはサラマンダーやグラキエースドラゴンの時にも感じたことがある。


「ブレスだ、まっすぐこっちを狙っている」

「ブレスはまずい……レヴィアタンのブレスは船一隻を丸ごと消しとばせるだけの力がある!」


 スーサの説明通りなら不味いどころではない。
 船を急速に動かすことは不可能だ。つまり船でブレスから逃げ切るのは諦めた方がいい。ならば相殺するしか無い。


「どうする?   クロト」

「同じ力をぶつけて船を守ろう」

「不可能だ!   あのブレスの威力は実際に見た私が一番よく知っている。とても受けれるものではない」

「そもそもスーサが飛び出して来なければもう倒していた。それに船で逃げ切るなんて無理な話だ。それもお前らが一番わかってることだろ」



 少し不機嫌気味に返すと、スーサは萎縮して何も言わなくなる。悪いが今は一刻の猶予もない。俺達四人の全力を合わせても止めれるかどうかわからない。おまけに地獄の門を解放し、霹靂神も使ったせいで俺の疲労も無視出来ない。


「サエ、船を動かせるほどの海水を操れるか?」

「クロト、もしかしたら私がどうにかできるかもしれないわ」


 俺の質問に対し、どこか上の空といった様子で全く違う回答をする。


「一人でか?」

「ええ、三人はそのあとの事を考えて! 策はあるけど、一発が限界。それ以上はどうにもできない」

「わかった。と言ってもこの局面を乗り切るには……」


 スーサの話を聞かなければレヴィアタンを倒す事すら出来ない。レヴィアタンの縄張りから逃げるしかない、か。


「クロト、作戦出来た! 逃げればいいんだよね」

「何も言ってないのによくわかったな」

「まぁね」


 そうこうしている間にレヴィアタンはとっくに準備を済ませ、今にも打ち出そうとしている。
 ここまで来たらもうサエを信じるしかない。


「どうするんだ? サエ」

「私のこの左眼の『万物』の力。今ならはっきりとわかる、この眼の力。全ての物は海より生まれ、海に帰る……全ての物の終着点」

「ギャオオオオオオオオオス」


 レヴィアタンの咆哮と共に大量の水がこちらへ迫る。視認するだけで理解できる。水とはいえこの水圧にこの威力。当たればただでは済まない。


「どんな攻撃もどんな術も、母なる海の前では全てが無力。海術超奥義 万物の帰還リターン・オブ・オール


 サエが祈りを込める様に指を組むと、海水が周囲から柱の様に立ち昇り、螺旋を描きながら俺達とレヴィアタンの間に円を描く。水柱で出来た円の中を、薄い水の膜が張って盾の様に展開する。
 薄く張られた水にレヴィアタンの高水圧ブレスが直撃し、思わず目を瞑る。


「大丈夫よ、皆。『万物』の力は、力で打ち破れるものじゃないもの」


 眼を開けると、高水圧ブレスはサエの作り出した薄い水の膜にぶつかり、衝撃もほとんどなく消え去っている。盾というよりは吸収している……いや、分散させているような。


「クロト、私達も行くよ!」

「ああ」

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