最弱属性魔剣士の雷鳴轟く

相鶴ソウ

253話 空と海

「皆様、さすがのお手並みです」


 しばらくシーサーペントの動向を伺っていたが、周辺にその気配はなく、ようやくエレルリーナさんたちに終わったと伝えた。
 エヴァは先程の部屋に寝かせ、俺達はその隣の部屋で作戦会議の続きをしていた。


「いえ、不意を突かれたとはいえ正直舐めてました。海上の戦闘は陸地とはまるで違う 何より船という生命線を守りながら戦うとなると……」

「……お帰りになられますか?」

「いえ、まだ帰るほどではありません。さっきの戦いで海上の戦闘はある程度把握出来ました。後はうちの智将が作戦を講じてくれるはずです」


 不安そうに見るエレルリーナさんをその意思はないと伝え、安心させる。舐めていたのは事実だが、だからと言って討伐が不可能なわけではない。
 船の防衛、地の利、数的不利。単に戦うといっても考慮しなければならない点は多いが、逆にそれさえどうにかすれば単純な戦闘力ではシーサーペントなど敵にならない。


「わかりました。こちらも気になることがいくつかあります。まずはレヴィアタンの縄張りにはまだ一日分の距離があります。しかし、それにしてはシーサーペントの出現が早すぎます」

「たまたま近くにいたんじゃないの?」

「それもあり得ません。シーサーペントは本来温厚な魔物。攻撃されたならまだしも、自分から攻撃してくることなど……それこそ女王の命令がなければ」

「もしもレヴィアタンが既に我々に気付いているとすると……」

「かなりまずい状況です。レヴィアタンは頭も切れますから、我々の隙をついた攻撃を仕掛けてくるはずです」

「一先ずいつでもレヴィアタンといつでも戦えるようにしておきましょう。俺達が交代で見張りに立ちます」

「わかりました。こちらで調べられる範囲で調べてみます」


 作戦会議を一旦終え、俺達も見張りの順番を確認する。


「そういえばサエの魔術はどうなってるんだ。元々すごいとは思ってたけど……」

「この眼よ」


 自分の両手で目を広げて綺麗な青色の目をぎょろぎょろと動かす。


「この眼、確か海神の万操眼ポセイドン・オール・オペレーション・アイって名前で、右が『操作』の力を持ってて、左が『万物』の力を持ってる。で、普段使ってるのは『操作』の方ね! 海神の操作ポセイドン・オペレーションっていう海術が使えるわ」

「海術って言えば水属性の最上位の魔術だろ!? すごいな」

「それで触れた液体を操れるんだ!」

「その通り! まぁ本気を出せば触れてなくても操れるんだけど……」


 人差し指を突き出し、嬉しそうにフフンと鼻を鳴らす。
 多少の液体を操るだけならまだしも、海のような大規模な液体も操るのか。


「左の力は? 万物って言ったっけ」

「それが私も数回しか使ったことないのよ。説明も難しいわ……なんかドーンとなって、ギュルンってなるのよ!」


 なるほど、わからん。
 だがまぁ、頼れる力がまだあるのはこちらにとってはメリットしかない。


「とりあえず、俺はエヴァを連れて外に行くよ。見張りもかねておくから、二人は今のうちに休んでくれ」

「はーい」

「了解」


 二人をその場に残して俺は隣の部屋で寝ているエヴァの様子を見に行く。どうやら起きていたらしく、俺が入ると体を起こした。


「どうだ? 様子は」

「うん、今はちょっとマシかな」

「そうか、とりあえず外の空気でも吸おうぜ」


 そう言ってエヴァを外に連れ出し、甲板に出た。先程と違って海は穏やかで、当然シーサーペントも居ない。


「う、やっぱり気持ち悪い……きゃっ!」


 雷化し、エヴァを抱えて一気に空へ飛びあがる。船から出れば酔いも治まるだろう。


「ちょっと楽かも……」

「しばらく空を飛んでよう」

「うん! ありがとう、クロト」


 空から見た海はまた綺麗で、どこまでも続く海と空の境目には何があるんだろうとつい好奇心に駆られてしまう。見張りも兼ねているので船から離れることは出来ないが、それがなければ飛んで見に行きたい気分だ。


「クロトのそんな顔、久々に見たよ」


 不意にエヴァがそんな事を言う。


「そうか?」

「うん、今までは敵だ、魔族だ、戦いだーってなんか切羽詰まってるような雰囲気があった。皆と居る時も、笑顔の裏で別の事を考えてるみたいで……でも今のクロトは出会った時みたい! 好奇心が強い、少年の頃のクロト」


 確かにあの頃の俺とは変わったのかもしれない。リブ村で過ごしていた時は漠然とした夢を見ていて……でもあの日、すべてが俺の前から消えた日。そして最愛の師を亡くしたあの日。
 そこから少しずつ、仇を取る事に囚われて、夢なんてとっくに忘れていた。


「ありがとうエヴァ」

「……どういたしまして。でも、こちらこそだよ! ありがとう」

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