最弱属性魔剣士の雷鳴轟く

相鶴ソウ

250話 明けの明星

「先程ミストの言った事は間違っていません。今の私の姿を見て、エリが喜ぶわけもないでしょう」


 仰向けに倒れたままのサーキンは悲しい顔をしながらそう呟く。
 リンリは倒れたまま、レオですら座り込んでいる。ミストは絶影で吹き飛ばされていたが、近くまで戻ってきている。誰も戦闘を再開しようという雰囲気にはならない。


「実に空虚でした。家族を失った悲しみを受け入れられず、殺戮に身を投じることで安寧を得ていた。無意味無価値な時間を過ごし、エリを理由に殺しを正当化していた。今まで何故気づかなかったんでしょう」


 泣きそうな顔で悔いるサーキンを何も言えずに見ていたリンリがふと横を向いたサーキンと目が合う。


「なぜかお嬢さんを見ていると、エリを思い出す」


 懐かしむ様にリンリの顔を見て、微笑む。そこに〈暗殺王〉の名残はなく、一人の孫を想う男の顔だった。


「無駄ではなかったと思います。サーキンさんが悪人を殺した事で助かった人達も居たはずです。それに最初は敵同士でも今はこうして話すことが出来てます。この出会いが全て無価値なんて思いたくありません」


 リンリの言葉にサーキンもハッと目を見開く。そして少し救われた様に笑い、頬には一筋の涙が溢れる。
 最愛の姉を失った日から、クロトやシエラに様々なもの、目には見えないものを受け取ってきたリンリは、ようやく渡す側の人になることが出来た。少なくとも、闇の道を手探りで進み続けるサーキンにとっては紛れも無い救世主になったわけだ。


「どうか私達に力を貸してください。私達は国の為に戦っているわけではありません。私達のリーダーの目的のために戦っています」

「……もちろんだとも。この老骨が役に立てるのならば、心の臓が止まるその時まで尽力しましょう」


 サーキンの快い返事に、思わずリンリも笑みが溢れる。
 〈暗殺王〉の討伐、加えて説得まで成し遂げたのだ。今のリンリは達成感に満たされている。


「まさかサーキンまで負けちゃうなんて……これは私達の完敗ね」

「ザシャシャ、だが良い強者を見た。オレも力を貸してやる。負けた上に勝者の望みも無視したともあればオレの名に傷がつく。だが、一つ約束しろよ。全部終わったらもっかい勝負だ」


 三人目のオリハルコン〈女帝〉リエラと、そのリエラの担がれたベンケイも合流する。


「ああ、いつでも叩き斬ってやる」


 レオがニヤリと笑うと、ベンケイもニヤッと笑う。いがみ合って居た者同士、戦いを通して奇妙な友情関係に発展していた。これにはサーキンですら驚いたような顔をしている。


「具体的に私達はどうすればいいの?」

「そりゃうちのボスに聞いてくれ。おれは詳しいことは知らん」

「げ、あの黒髪の子かぁ……私の魅了を初見で打ち破った子よね」

「リエラが苦手意識を持つとは珍しい」

「ザシャシャ、こりゃ天敵だな」

「うちの姫さんがいるのに魅了しようってのは無理な話だ」

「ほんと自信無くすのよ。貴方達〈魔狩りの雷鳴ディアブロ・トニトルス〉ってほとんどの人が魅了効かないんだもん」

「もしかして今も……」


 激戦を通してひねくれ者だった三人を説得し、軽口を叩けるまで関係を良好にしたレオ、リンリ、ミストは間違いなく「救世主」であった。そんな六人を朝日が照らす。夜が明けたのだ。


「みんなぁー!!   大丈夫でありんすかー!?」


 そこへ、シエラが駆けつける。戦いの音が止んだからだろう。


「シエラ!」


 リンリも嬉しそうに声を上げる。未だ体をほとんど動かせていないのだが……





「さぁ! 準備はいいかしら!」

「う、うん。多分」

「クロト、昨日の事……」

「ああ、向こうは大丈夫だ。こっちはこっちの戦いに集中しよう。行くぞ!」


 テントの垂れ幕をめくり、朝日が照りつける海岸へ向かう。
 レオ達の心配も勿論あるが、とりあえずは目の前の事だ。レヴィアタン騒動はおそらく一筋縄じゃ行かない。気合い入れて行こう。

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