最弱属性魔剣士の雷鳴轟く

相鶴ソウ

242話 戦闘開始

 ケルターメン二番通り。辺りは夜の帳が下り、人は見渡す限り居ない。
 それは時間のせいだけでなく、シルク・ド・リべルターが〈鬼帝殺し三極柱〉に狙われているという噂のせいでもある。
 今までその存在感だけで注目を集めていた三人が、わかりやすく動いているというのにも関わらず、冒険者ギルドは動かない。それは未知数故に危険であるからという事が主な理由である。三人のオリハルコン級が手を組んでいる〈鬼帝殺し三極柱〉と戦うならば同じく三人のオリハルコン級を集める必要が出る。現実的ではないし、動くに動けないというのが実際の所だ。
 無人の通りの中、一際目立つテントの垂れ幕を押し上げながら三人の人影が姿を現わす。


「奴らがいるのは?」

『五番通りダ』

「急がないと……」


 準備を整えた三人がまさに出発しようとしたその時、一陣の風が吹き抜け、三人を煽る。


「その必要はねぇよ、ザシャシャ」


 見上げると、街灯の上に人影が一つ。浴衣姿にボサボサの髪、体に対して不釣り合いなほど長い刀。
 オリハルコン級冒険者〈鬼斬り〉のベンケイ。ニヤリと笑い、三人を見下す。


「オメェらが俺らに喧嘩売ろうって奴ら……ッ!」


 ベンケイの言葉が終わるよりも早く、レオが助走をつけて街灯を垂直に走り、ベンケイに斬りかかる。だがその刀が当たるよりも速く上空に飛び、レオの射程範囲外に出る。


「危ねぇ危ねぇ」

『先手を取ラレタ。仕方ナい、こいつカラ先にヤる』


 ミストが右手の拳を上げ、ベンケイに標準を合わせる。大砲のようにミストの腕が伸び、ベンケイに迫る。


「闘影武技 滅拳・暗影」


 だが、拳がベンケイに当たるよりも先に横から飛び出してきた高速で飛ぶ影の拳がミストの腕を貫き、ミストの攻撃は不発に終わる。
 ベンケイが着地したそのすぐ後ろに燕尾服に身を包んだ〈暗殺王〉サーキンが姿を現す。


「ザシャシャ。三人たァ、なめてんのか?」

「侮ってはいけませんよ。先程の斬り込みは中々のものでした」

『ワザワザ姿を消しテタのもこの為カ。二人共、作戦どおりに行くぞ』


 ミストの声を聞くわけでもなくレオは間合いを詰め、ベンケイに斬りかかる。


至天破邪剣征流してんはじゃけんせいりゅう 薙払の型……」

「水天一碧……」


 ベンケイとレオの微妙な間合いからの睨み合い。一瞬の駆け引きとカンマ一秒に及ぶ硬直の果てにお互いの技が繰り出される。


「大凪ィ!!」

「威風!!」


 薙払の型、『横一文字斬り』の上位互換に位置する『大凪』とベンケイの超速度の居合いがぶつかり、衝撃波が周囲に走る。
 二人のパワーで叩きつけられた二本の刀はガチガチと震え、お互いに一歩も引かない。


「では私はお二人を相手にしましょうか」


 サーキンが何処からともなく取り出したナイフをミストとリンリに向ける。と同時にサーキンから放たれる殺意にリンリが一瞬怯む。
 闘志から出る殺意と実際に殺しを生業としている者の殺意は全く種類が違う。今、二人が向けられている殺意は無理矢理自身の死を想像させられる程、本能が警告を鳴らす殺意。とても常人では耐えられない。
 サーキンは〈暗殺王〉の名にある通り殺し……主には暗殺を得意とする。故に殺意と言う点で他の者よりも大きく秀でる。


『即興デハアるガ俺と合ワセラレるカ?嬢ちャん』

「や、やってみます!」


 まだ少女とはいえリンリも今までいくつもの修羅場をくぐり抜けて来ている。殺意だけでは戦闘不能にならないが、テンペスターを構えるその腕には冷や汗が流れ、若干動きもぎこちない。
 元々オリハルコン級と戦うのに緊張していたのに加えてこの殺意だ。


「ふぅぅ……行きます!」

霧世界ミストフィールド


 ミストの全身から白煙が溢れ出すように周囲に撒かれ、徐々に霧が立ち込めてくる。


「我流 虎ノ太刀!!」


 すかさずサーキンとの距離を詰めたリンリは大振りで炎剣を振り下ろし、サーキンの脳天に斬りかかる。後ろへ飛んだサーキンに刃は届かなかったが、燕尾服の裾が少し斬れる。


「届いた……?」

『反撃の隙を与エるナ!』

「は、はい! 犀ノ太刀!」


 上に飛び上がってからの突き。これも横に飛んで回避されるが、突きは地面を砕き、その威力の高さを表す。


「我流 鼬ノ太刀!」


 サーキンの逃げた方向へすかさずテンペスターを振り、炎の斬撃を飛ばす。
 再びどこからともなく取り出したナイフを投げ、斬撃にぶつける。炎が激しく燃えながら弾け飛び、相殺されてしまう。


「いい動きですね。しかし、これならどうでしょう?」


 人差し指だけを伸ばした手を前に突き出し、人差し指をクイッと上に上げると地面から影が伸び、リンリに迫る。


「……!? きゃっ……」


 目の前のサーキンに注目しすぎていただけに不意打ちに気づかず、影に四肢を拘束されてしまう。
 自由を奪われたリンリ目掛けてサーキンが拳を構える。影が拳一点に収束される。


「闘影武技 滅拳……」

『サセるカ……爆霧翔雷』

「……絶影!!」


 ミストの腕が伸び、霧に包まれた腕が爆発してリンリとサーキンを妨げる。
 しかし、サーキンの接近してからの拳を止めきれず、貫通した影がリンリへと到達し、拘束していた影もろとも吹き飛んでしまう。背中から壁に激突してしまい、地面に倒れる。


「直に受けなかったとは言え絶影を食らえばしばらくは……いえ、どうやらナメてかからないほうがいいようですね。まさか絶影を受けてなお立ち上がるとは」


 サーキンが見開いた目の先には少しふらついてはいるものの、しっかりの両の足で立つリンリがいた。何とか受け身は取っていたので最悪は避けられたが、そのダメージはとても無視できるものでは無い。


「私も役に立ちます! まだまだこれからです!!」

「最弱属性魔剣士の雷鳴轟く」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く