最弱属性魔剣士の雷鳴轟く

相鶴ソウ

237話 何でもあり

「久しぶりに来たか、冒険者。だが、お前達も大したことはなさそうだな」


 会って一言目がこれだ。確かにもう何十人の冒険者をなぎ倒してきたわけだからあまり期待していないというのはわかるが……


「人は見かけによらないもんだぜ」

「フッ、ならば見せてみろ。もう説明はいらんだろ?」

「膝さえつかせればいいんだろ」

「ああ こっちは一人、丸腰だ。そっちは四人で来な! 武器でも魔術でも何でもありだ!」


 なるほど、相当自信がある……というよりは全力で来てくれなければ力を計りきれないって事だろう。だが、いくら巨体でも女性は女性。流石に全員でかかるってのは……


「俺一人で行こう。武器は使わないが、魔術は使わせてもらう」

「ほう、余裕だと?」

「いやいや、レヴィアタンに四人で挑もうってんだ。一人でそれぐらいできなきゃそっちも不安だろ?」

「言うねぇッ!!」


 数歩歩み寄り、その巨体をいかんなく発揮した鋭い拳が飛んでくる。咄嗟に顔の前で腕を交差させて受け止めるが、その衝撃に体が沈む。ギリギリと腕が悲鳴を上げる。
 巨体の割に速い。そのくせパワーはしっかりある。


「皆、下がってろ!」


 後ろで見守る三人を後ろに下がらせ、全身から放電。異変を感じた女はすぐに腕を引っ込めて警戒態勢を取る。


「なるほど雷か。そういえば名乗ってなかったね。私はスーサ・シエティ……よろしくッ!」

「俺はクロト。こちらこそッ!」


 飛んでくる拳に雷拳をぶつけて応える。雷拳を使ってやっと互角。単純な身体能力じゃ勝てないかもしれない。


雷撃大砲プラズマキャノン!」


 拳が離れたその一瞬の隙に巨大雷丸を飛ばすも相手は上空に飛んで回避。一瞬視界から消えた事で見失い、スーサの着地と共に背後を取られていた。


「……ッ!」


 横になぎ払われる女の剛腕をなんとか防御姿勢で受けようとするも、受け止めきれずに体が宙に浮く。衝撃でまだうまく動かない腕に無理をして空中で体を一回転させて着地し、すぐさま攻撃に転じる。


「雷槍!!」


 手のひらから投げた槍がスーサに直撃し爆発を起こす。が、舞う砂煙の中何でもないという風にスーサが姿を現す。速度も力もタフさも頭一つ抜けてる。雷化・天装衣ラスカティグローマを使ってないとはいえ押し切れないとは……


「やるねェ……私に一撃入れれたのはお前が初めてだよ」

「そりゃ光栄だ。まだまだ行くぞ」


 お互いに距離を詰め、拳を何度も打ち合わせる。どちらかが入れた拳にカウンターで打ち込み、どちらかの隙が出来ればすぐさまそこに拳をねじ込む。


「雷転移!」


 瞬間的にスーサの後ろへ回り込み、右手のひらに雷を収束させる。スーサのガラ空きの背中に右手を当て雷を流し込む。


雷撃ライトニングボルトッ!!」


 流石のスーサもこの電圧には耐えられないか、黒い煙を上げながら遂に膝を付く。最近は雷化・天装衣ラスカティグローマ獄化・地装衣インフェルノトールに頼り切っていた部分があるから、良い運動になったな。


「大丈夫か? 約束通り船に乗せてもらうぞ」

「フフッ……面白い、面白いな」

「ん? そりゃどうも……」

「おいお前。あれをもってこい」


 スーサは近くで見ていた一人の団員に命ずると、その団員は急いでテントの中に入り、何やら布に包まった大きめの物を重そうに引きずりながら持ってきた。
 一体なんだろう。大きさは俺の体の半分ぐらいある。形状的には斧に見えるな……斧?


「船には乗せてやる、約束だ。だが少し楽しくなっちまってね……もう少し付き合ってもらうぞ!」


 振り返りざまに凪払ったそれはやはり斧で、両刃の刃が残光のみを残す。咄嗟に後ろに引いて居なければ体を真っ二つにされていたかと思うと冷や汗が出る。


「ちょ、そんな事してる場合か!」

「骨の無い奴らばかりで飽き飽きしていたとこだッ!!」


 嵐の如く無差別に何度も振られる斧を仕方なくシュデュンヤーを抜き受け止める。いや、受け止められてはいない。軌道をずらして直撃を避けているだけだ。


「あっぶねぇな 雷帝流……」

「ハァァッ!!」

「稲妻剣・獄ッ!!」


 斧とシュデュンヤーがぶつかり、その衝撃が地面に走る。素手の時もそうだったが凄まじいパワー。本気で打ち合っているのに押しきれない。


「雷砲ッ!」


 片手で作り出した雷丸を無理矢理下に打ち出し、お互いに後ろへ下がる。正面でぶつかってもしょうがない。ここは……


「雷帝……りゅう?」


 気づくと俺の右腕は天を向いており、持っていたはずのシュデュンヤーは宙に舞っている。砂煙で視界が悪くなった一瞬のうちに俺に接近して武器を弾いたのか……?


「ッ! ……雷化・天装衣ラスカティグローマ!!」


 雷化し、もし斧による攻撃を受けても大丈夫な様に構える。
どうやらスーサもかなり無理をした動きだったらしく、刹那の間こちらを睨みつけるばかりで体は動いていない。
 遠くに落ちたシュデュンヤーを拾いに行けばこの冷戦状態が崩れ、後ろからやられる。


「エヴァ!!」


 呼び掛けと同時に一歩踏み込んで雷崩拳を打ち込むも、斧でガードされ大したダメージにはならない。
 だが一瞬行動を封じれればそれで充分。後方から空を切るような音を確認し、若干後ろに注意を向ける。


「クロトッ!」


 流石エヴァ、名前を呼んだだけで理解してくれて助かる。


「ああ!」


 エヴァが作り出した二本の氷剣をノールックで受け取り、勝負を決めにかかる。一歩目を踏み出すと同時に獄気硬化を剣にかけ、二歩目を踏み出すよりも早く攻撃に移る。


「雷帝流 氷雷多連斬撃ひょうらいたれんざんげき


 怒涛の連撃を浴びせ、スーサの防御態勢が崩れた隙に両方の剣で斧を抑え、地面に叩きつける。お互いに武器は塞がっているが、抑えている側の俺からはいつでも切り返しの攻撃が出来る。
 とは言ってもこれで諦めてくれると助かる。


「そろそろ止めに……」

「スーサ、そこまでよ。あまり団員クルーを困らせちゃダメ。それにお客様にもね」


 いつの間にか俺の隣に立っていた女性が俺とスーサの間に手で区切りを作り、戦いを諌める。スーサが武器を握る手から力を抜いたので、俺も武器を下ろし、女性に従う。
 スーサと並んでいるせいもあるが随分小さく、華奢に見える。細い体からはただ単に痩せているだけって印象は受けない。もっとうこう、衰弱に近い何かだ。


「すいません。お客様」

「い、いえ……」


 誰なんだ? この人。

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