最弱属性魔剣士の雷鳴轟く

相鶴ソウ

236話 優しさとは

「そんな事言われて黙ってられるはずもなく……だがあの女は恐ろしく強く、俺達は誰一人あの女に一撃をくらわすこと出来ずに敗北した」


 次第にプライドも何もかなぐり捨てて十数人で同時に挑んだ連中も居た。だが、それでもあの女には敵わなかった。桁違いに強い女が勝てなかったレヴィアタンに勝てると思う者も次第に減り、街を去る者が徐々に増えた。
 それでもここまで来て引き下がれないという者たちが多く、何度も挑んだ。
 だが、ついぞあの女に一撃を入れれる冒険者は現れず、次第に金も尽きた冒険者がこのギルドにたむろするようになった。
 この街では海中の魔物を討伐する依頼や、海賊団の手が回らない時に漁を護衛する依頼が多く、稼ぎ口は少ない。こうしてどんどんと八方塞がりに陥り、今に至るというわけだ。


「オリハルコン級ともなればなんとかなるんだろうが、〈風神〉はめっきり姿を見なくなったし、〈正体不明の霧〉はもとより宛てにならん。〈紅の伝説〉も今は姿を隠しているらしいし……かといってミスリル級ではあの女に勝てん」

「ふーん、わかったわ! ありがとう!」

「あ、ありがとうございます」

「おう、なるべく早く帰りな」


 冒険者に礼を言い、二人はずんずんと下り道を下る。


「とにかくクロエヴァと合流よ!」

「うん! ……クロエヴァって何?」





「超強い海賊団の船長に多くの冒険者達か。先を越されるという心配はなさそうだな」

「あんさんらもレヴィアタン討伐に?」


 話を聞いた年配の漁師さんが不安そうに尋ねてくる。


「ええ、そのつもりです」


 エヴァが笑顔で答えるも不安そうな顔は消えない。


「昔はレヴィアタンも大人しくていい魔物だったんだがねぇ。数年前からだったか、突然周期的に暴れるようになったんだ」


 数年前、大魔人らの影響で魔物が狂暴化したあたりだろうか。例え元が良い魔物でもこのまま漁が出来なければこの街の人たちが困る。元に戻す方法がわからない以上は倒すしかない。


「何とか大人しくして見せます! 待っててください!」


 エヴァが大きく手を振り、俺も一礼してその場を離れる。まずリュウ、サエと合流しよう。


「冒険者ギルドに行くか。二人がそこにいるかはわからないが、何かしらの情報は得られる」

「その必要もないみたい。ほら」


 エヴァの指さした方を見るとサエとリュウが全速力で坂を下ってきている。丁度よか……これぶつかるんじゃ……





 時同じくしてケルターメンでは。


「二日間奴ラノ動向ヲ伺ッタガ、場所ガ特定デキン」

『元々人前に姿を現すことこそガ稀ダカラナ』

「旧冒険者ギルドに赴いて正面から挑むしかないだろう。その為に準備してきた。勝手に引き下がった私達が言うのもなんだが、そっちはそれで戦力が足りるのか?」

「ああ、ベンケイはおれ一人で十分だ」

『サーキンの技ハ強力ダガ仮にも同じ称号の持ち主ダ。そレに嬢ちャんリンリも来テくレるんダろう?』


 全員の視線が一カ所に集まり、その視線の先で少女が緊張したように姿勢を正す。


「は、はい。私も何かの役に立たないと……」


 奴隷時代からの影響か、リンリの思考の根本には常に捨てられることへの恐怖があり、役に立たなければならないという思いもここから来ている。シエラやみんなのおかげでそれが表に出る事は殆ど無くなり、本人ですら無意識の領域にある為気付いていないが……


「お前達こそいいのか? そいつ〈風神〉の仇を取れなくても」


 レオの言葉に二人は顔を合わせる。


「もちろん私達の手で出来る事なら……」

「ダガ足手マトイニナルヨウデハ意味ガ無イ」

「……そうか。俺は少し修行に出てくる」

「修行ってどこに……!」


 リン達の気持ちを汲み取ってかそれだけ言うとレオはリンリの止める声も聞かずに外へ出て行ってしまった。


『中々気難しいようダナ』

「あれはあれでレオの優しさなのだ」

『うむ、決行ハ明日の夜。伝エテおいテもラエるカ?』

「は、はい!」


 ミストの頼みを受けリンリは急いで外へ出る。





「俺達が聞いた話と殆ど変わらないな」


 猛ダッシュで下り坂を降りてくるリュウとサエをなんとか受け止めた後、お互いに情報を交換していた。


「じゃあやる事はもうわかってるわよね!」

「ああ、それで海賊団っていうのはどこに居るんだ?」

「離れの入り江よ! こっち!」


 サエに導かれるがまま進むと、街から出て少し歩いたところに街からは影になって見えない入り江が見えてきた。そこには大きな帆船が二隻も止まっており、陸地にはテントがいくつか張られている。
 どうやら普段はああやって生活しているらしい。


「しかし思ったよりもでかい海賊団だな」

「でも見て、外にいる人達は女の人ばっかりだよ」

「女海賊団……怖」


 見張りに立っていた団員の一人と思わしき女性が後方のテントに何かを伝え、中から巨漢……いや、恐ろしく巨大な女が出てきた。遠目に見ても俺の二倍はあるんじゃないだろうか。


「く、クロト……」

「ん?」

「に、睨んでない?あの人……」

「いや……気のせいだろ」


 出てきたと思いきやギロリと俺達を一瞥し、腕を組んで仁王立ちしている。来るなら来いと言わんばかりの風貌。やっぱり睨んでるかな?

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