最弱属性魔剣士の雷鳴轟く

相鶴ソウ

218話 地底帝国

「それを盗賊のオレ達に頼むのか?」

「確かにお前らは盗賊だけど、真に仲間を想う心があると思う。巡り巡って自分達の身を守ることにもなるはずだ」


 俺の願いにゼノンは嫌悪感よりも理解できない風に返す。もうあまりも時間も無い。こんなお願いを出来るのは後にも先にもこいつらぐらいだろう。


「……わかった、お前らももう仲間みてェなもんだ。その願い、聞いてやる」

「助かる。詳しくは……」

「いや、そこまではいい。お前らも全貌は掴めてないんだろう。あとはこっちでなんとかするさ。情報収集能力は自信があるゼ」

「わかった」


 俺もゼノンは固く握手を結び、お互いに無言で頷く。親友でも無ければ歴戦の戦友でもない。さっきまで戦い合っていた仲だが、だからこそ築ける関係もある。
 とりあえずは協力関係ってところかな。


「……ぱり、ゼノン……」


 なにか声がしたかと思い、振り返るとサエが俯き気味で何かを呟いていた。


「あァ? なんだ?」

「ゼノンなの……本当に、ゼノンなのよね?」


 顔を上げたサエは目に涙を浮かべながら真っ直ぐゼノンを見ている。その雰囲気に何か特別な事情があるのだと察し、数歩下がって道を開ける。


「あァ?   お前は誰……まさかサエか?」


 よくよくサエの顔を眺めたゼノンが絶句し、目を見開く。あのゼノンが戦いの最中以外で動揺しているのは少し意外に写る。とは言っても俺はゼノンの事ほぼ知らないし、さっきまで戦ってたせいだろう。


「久しぶりね、あの日以来かしら」

「おお、生きてたか!   こりゃ懐かしいナァ」


 口ぶりからして知り合いだったのか。世の中意外なところで繋がってたりするもんなんだな。


「ああ、悪りぃ悪りぃ。クロト、エルトリア地底帝国って知ってるか? 一部の人間しか知らない、帝国に住んでる奴らですら知らない場所だ」

「いや、知らない。なんだ?そこは」

「マァそうだろうな。今の国王ですらその存在を認識してるかどうかって話だしよ。エルトリア地底帝国は三千年前の伝説の時代から存在はしていたらしいんだが、ずっと封印されていた。が、そこへ大臣のブルックスが目を付けやがった。誰にもバレず、秘密裏に好きなことができる場所なんてあの男にとっては宝石箱みてぇなもんさ。ブルックスが邪魔だと判断した人間や、罪を被せられて死刑になった囚人なんかが落とされる。そうしていつしかエルトリア地底帝国と呼ばれるようになり、今に至るわけだ」


 そんな場所があったなんて今まで全く知らなかった。
 おまけに出来た理由も胸糞が悪い。会った事は無いが大臣の悪行もいくつかは聞いている。
 イーニアスがイザベラさんを貶めた時も恐らく加担した男だ。機会があれば必ず……いや、まずは大魔人だ。あれもこれもと欲張れば自滅する。


「オレもサエもそこが出身なんだ。ブルックスの人体実験場の被験者だった   オレは一被験者として、サエは兵器として育てられた」

「人体、実験……」

「アイツはいつか来る魔族からの攻撃に対抗できる無敵の軍団を作ろうとした。例えばどんな業火に焼かれても一切ダメージを受けない皮膚、どんな傷を受けても瞬時に回復する体、海を操る力を持つ目、どんな毒物にも対抗できる体……その殆どが失敗したわけだが成功した例もある。新薬の実験に使われ続けたオレは体内に蓄積された毒物を自在に操れるようになったし、サエの目は液体を自在に操る力を得た」


 一気に話し終えたところでゼノンはふうっと息をつく。二人にとっても良い思い出ではないんだろう。サエもどことなく苦しそうだ。


「ゼノンが毒“術”ではなかったのはそういう事だったのか」

こいつサエの水術が異常に強力だったのもか」


 いつのまにか起きていたレオがサエを顎で指しながら言う。さっき盗賊達を塵の如く吹き飛ばしていたのはサエだったのか。
 川一本操っているように見えたが……


「あれからどうしてたの?   ずっと盗賊団?」

「ああ、本物の仲間を作ろうと思ってな。初めてあったのがハザックで、その時にウェヌス盗賊団を知った」


 それから色々あったんだがなとだけ付け加えたゼノンはそれ以上語る気はないのか、口を閉じた。


「ゼノン、我々はそろそろ。これ以上は国の軍や冒険者がきます」

「そうだなァ。あのクソ共も近いからな。クロト、約束は守る。お前も頑張れよ」

「ああ、もしその時が来たら頼む」

「いつでも呼べや」


 最後にニカっと笑い、盗賊団を引き連れながら二人は帰っていった。ライラックもとりあえずはハザックに同行するらしく、二人に付いて行った。どうもライラックが知らない間のハザックの話に興味があるらしく、すぐにゼノンとも打ち解けていた。
 長く、失ったものも、得たものもあった戦いに幕が降り、結末としては一番いい形に収まっただろう。俺達も疲労は無視できない為、とりあえずはカサドルへ帰還した。

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