最弱属性魔剣士の雷鳴轟く

相鶴ソウ

217話 頼み

「ゼノン……」


 最悪なタイミングで起きやがった。しかも回復早すぎだろ。
 団長の姿が目に入り、俄然勢いを増しながら盗賊団も迫る。こっちはもう戦えないのが三人。残り四人も万全では無い。


「うおおおおおおおお!!」

「ちょっと待てっつってんだろーがぁぁぁ!!」


 ゼノンの両腕から毒が噴射され、団員達の足元に命中する。上手く当たらないように調整はされており、誰もその餌食にはなっていない。が、団員達は面食らった様子で呆然とぜノンを見ている。


「ちょっとそこでじっとしてろ!」

「「「は、はいぃぃ!!」」」


 俺達を確実に倒すには団員で囲むのが一番なはずだが、性格的に考えれば「オレ以外に倒されるなんてごめんだァ。やるなら俺の手で」なんて言い出しそうだ。
獄化・地装衣インフェルノトォールはもう使えない。雷化・天装衣ラスカティグローマでやるしかないか。


「リュウ、サエ……さん?   まだ行けるか?」

「サエで良いわよ。やらなきゃ死ぬんでしょ」

「本当は全力で逃げたい……」

「おれもまだいけるぞ」


 レオも名乗りを上げるがかなり無理しているのは目に見えてわかる。
 おまけにライラックの話では数日前に生者の特権リビング・プリィヴァリィヂュの反動で本来数週間寝込むところを無理矢理精神力で耐えているって聞いたし、『狂鬼零刀』を抑え込んでることも相まってもう限界ギリギリなはずだ。
 身も心もいつ限界を迎えてもおかしくない……


「レオは寝てろ 雷化・天ラスカティ……」

「んァ? ちょっと待テ。もう戦う気はねぇよ」


 ゼノンは両手を挙げて降参するように頭を振る。
 その言葉と仕草に張り詰めたような空気と気の抜けた空気が混ざり合って中途半端な空気が流れる。


「…………え?」

「ぐがぁーー」


 レオが抜刀の構えを取ったまま前に倒れ、そのまま眠りにつく。あの戦闘狂が敵前で眠るとは……これはマジできてたらしいな。


「え、戦わない?」

「あァ 良い物を見せてもらったからな。ラファームの野郎を殺ったことは何があっても許さねぇが……」


 ゼノンの凄みの効いた声にリュウはビビってサエのすぐ後ろに隠れた。


「それでお前ら殺しちまうのも惜しいと思ってな」

「急な心変わりだな……いや、有り難いから特に逆撫でする気は無いが。一体何がそんなにお前の心を変えたんだよ」

「愛だ」

「……?」

「愛だ」


 おおよそ体中から人でもなんでも溶かす液体を放出して襲いかかってくる奴とは思えない言葉に俺達全員摩訶不思議なものを見るような視線でゼノンを見、察したゼノンがもう一度言う。
 こいつはこれだけ恐れられて、国からも厄介もの扱いされてるのに、なんか仲良くなれそうな気がしてきた。


「……ああ、そうか。じゃ……」

「いや待てェ! その明らかにもう早いとこ切り上げようって態度やめろ!」

「あ、バレた」


 冗談はさておき真面目になんのことかわからない。


「クロトとそっちのちっこいのとの愛はもはや言わずもがな。それにお互いがお互いの為に最善を尽くす仲間愛……俺の目指した仲間というものに限りなく近い完成形がお前らなんだ」

「確かに。そちらの少女二人……名前をお聞きしても?」

「し、シエラでありんす」

「リンリ……です」

「シエラとリンリ、二人のコンビネーションも間違いなく本物。そういった面では完敗と言わざる得ません」


 マジ、か……この二人にここまで言わせられるとは思ってなかったというか、そもそも想定もしてなかった。


「元はと言えば仲間を庇うための戦いだったしな、お前らにとっては。仲間の為にそこまで出来る奴はそういない。人間なんていつだって自分が可愛いんだからな」


 ゼノンの言葉に少しサエが反応する。そういえばこの娘の事、可哀想な目にあった女の子程度にしか知らないんだよな。多分俺達より年下……だとは思うけど。


「俺達は俺達の目的の為に戦ってるだけ……なんだが、そう言ってくれて悪い気はしないな。今度は是非とも単純な力比べで戦いたい」

「オォ、そりゃいいな。今度こそ本気の技、見せてやるよ」

「あれで本気じゃないのかよ……」


 正直、閻魔を使ったから勝てたが雷神では厳しかった。閻魔の制御がまだ出来ないうちは封印か……


「あ、そうだ。ゼノン」

「ああ?」

「認めてくれたって認識で間違ってないなら、せっかく力を持つ奴と仲良くなれた次いでってわけじゃないけど、お前達に折り入って頼みがある」

「ああ?」

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