最弱属性魔剣士の雷鳴轟く

相鶴ソウ

211話 トップ2の本気

 落雷が落ちた時、その振動と閃光、そして音が轟く。地面は揺れ、閃光が目を焼き、耳をつんざく轟音に手をそむける。
 今、私が感じたのはまさにそれだ。
 目の前をバッと光が照らし、気づいた時には毒大蛇キングコブラの腕は木っ端微塵に吹き飛んでいた。最初は落雷が本当に落ちたのかと思った。でも違う。雷は、下から上に駆け上っていった。


「……クロト」


 毒大蛇キングコブラを纏ったゼノンの足元でクロトは立っていた。
 でもだいぶ姿が違う。さっきまでは黒い雷で出来た鎧を着ていたけど、今は同じく黒い雷で出来た着物のような服を着ている。
 体は雷化しているのかどうかわからないほど生身に近いけど、よく見ると歪んでいるから多分雷化している。まばたきをしたその瞬間にクロトの姿が消え、気づけば私はお姫様抱っこされていた。
 あまりにも急で反応が遅れたが、こんな状況なのに顔が赤くなるのがわかる。


「随分待たせたな」


 私をちらりと見る事も無くゼノンを睨みつけている。そんなクロトの様子になんとなく違和感を感じる。


「オレの毒を受けて死なないのか……? グ……ッハッハッハッ!面白えなんだその姿」

「…………」


 無言で私を降ろして数歩前に出る。
 その降ろし方もかなり雑で、違和感は確信へ変わっていく。この姿は多分獄化・地装衣インフェルノトォール第二のモード、“閻魔”。


「出来るように、なってたんだ……」


 私が知ってる限りではモード閻魔はハデスと修行しててかなり苦戦してた。
 何でも要領よくこなすクロトは獄化・地装衣インフェルノトォールも簡単に身に着けた。それにハデスも驚いていたけど、このモード閻魔は半年近く失敗が続いたモード。
地獄で成功したのは二回だけ。その二回とも……


「……! そっか……そうなんだね、クロト」


 その二回とも獄気に深く触れすぎた影響か暴走を引き起こしていた。
 今のクロトの様子は地獄で見た暴走とはどこか違う。多分、暴走状態に中途半端な理性が働いて不安定な状態になってる。だから私を助けたのに妙な冷たい態度。行動がちぐはぐになってる。


「クロト!」

「邪魔になる。下がってろ」


 クロトの言葉に若干胸が痛む。でも事実として今の私じゃ邪魔になる。
 折角、氷纏・姫装束イエロ・プリンセスコートが発動できたとしても効いてないんじゃ仕方ない。


「行くぜ……?」

「来いィ」


 毒大蛇キングコブラの全身から細い管状に毒が伸び、クロトを狙う。しかし、それはクロトが全身から放った黒雷に弾かれ、バラバラに分散する。
 モード閻魔は地獄を支配するハデスの力を取り込んだ姿。地獄の瘴気、つまりは獄気を魔力に変換せずにそのまま雷に混ぜ合わせて作られる黒雷は毒であろうとも弾き飛ばし、破壊する。クロトの攻撃に、ゼノンの毒は耐えられないと思う。


「私も今のうちに戦う準備しなきゃ」


 それは果たしてゼノンとの戦いか、はたまたクロトとの戦いになるのか。
 確実に言えるとすれば、今のクロトに勝てる者がこの場に居るかどうか、定かではないという事だ。





 術名を言い終えると同時にハザックの背後に大量の魔法陣が浮かび上がる。各々がレオを捉え、光出す。


「さらば……」


 一斉に光線が放たれた。その射程内に居た全てのものは焼け、爆発し、消え去る。
 威力を強め過ぎたせいでレオが立っていた地面ごと大爆破し、高熱で焼かれたせいか、赤く燃え跡が残っている。


「フッ……貴方は強かったですよ。おそらく、今まで戦ってきた中で上位に入るレベルで……」


 レオを消し、この場に驚異が消えたハザックにとって、もはやこの場は警戒するに足りなかった。その為すぐには気づかなかった。自分の脇腹が引き裂かれ、血を吹き出していることに。


「ぐあ……誰だ」


 咄嗟に振り返るとそこには焼け焦げて消えたはずのレオがいた。


「『怒・虎武璃』」


 どこにも外傷はない様子で刀身の半分以上が既に失われた銀月を鞘へ仕舞う。その様子を見ながらハザックはありえないという風に首を振る。


「おかしい……わたしの術より早く動いたということですか……光速ですよ? 人間に出せる速さでは……」


 ハザックの目は長年の経験からほぼ光の速度でも捉えることが出来る。実際、カサドルの街を焼いた時、クロトに奇襲されたがそれも目で捉えていた。そのハザックが目で捉えられないとしたら浄化の殲滅光ピュリフィケーション・ホロコースト・エードラムが発動した瞬間、光が視界を遮ったその瞬間のみと言うことになる。


「あぁ、そうだ」


 レオは何かを言いたいのか振り返り、ニヤリと笑う。


「お前、大したことないな」


 よく見ると全身から焦げたような煙を出し、若干ふらついている。


「食らっていたのか……? 食らったのになお立てるのか!?」

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