最弱属性魔剣士の雷鳴轟く

相鶴ソウ

202話 嵐神槍

 戦いはすぐに激化した。お互いに攻撃してはそれを避け、受け止めては反撃する。
 俺達はシエラ達と離れてしまい、お互いにお互いの戦いには干渉できない。とはいえ、ハザックとゼノンを同時に相手するよりは各個撃破の方が希望が持てるし、距離の問題が無くてもその壮絶さから横槍は不可能だろう。


「豪雷術 雷鳴の陣」


 右手を地面に付け、地中に流し込んだ獄気を掌握し、上に向けて展開する。地面から無数の稲妻が立ち上り、地から天へ放電する。
 それを躱しながら縦横無尽動き回るゼノンの行き場を少しずつ減らしていく。こうして動ける場所を減らしておけば……


「氷術 雹絶防御スフィアプロテクト!」


 予め上空から接近していたエヴァがゼノンを閉じ込める。本来は自分を中心に球形の氷を生成して防御する術だが、こう言う風に相手を中心に発動させる事で檻にもなる。
 因みにエヴァが空中を移動できるのはハザックの浮遊円盤を真似て操った氷の上に乗るという咄嗟の機転だ。


「今だ……雷帝流 紫電一閃!!」


 球形の氷に向かって全力で突進。内側から氷が破られると同時にシュデュンヤーを抜き、ゼノンの頭上に落雷の一斬を浴びせる。勢いでそのままゼノンを通り過ぎ、暫く地面を滑った後、俺の体は止まる。
 数回打ち合ってわかる。ゼノンは毒というおよそ生物が対抗しきれない力を持っていながら素の身体能力も高い。エヴァの氷を拳で砕いたり、雷の速度についてきたり……


「どうせこれ紫電一閃も効いてないんだろ?」


 砂煙が立ち上り、ゼノンの姿は見えない。ゼノンを挟んで反対側に居るであろうエヴァの姿も同じく見えない。


「いやぁ、今のは良い一撃だったぜェ……」


 頭上に上げてガードしている右腕をドロドロとした毒が覆っている。あの毒は万能すぎる。衝撃も通さないし当然の様に雷も無効化してくる。


「毒ってのは本来バグなんだよ」

「ばぐ……?」

「そう、俺の体中から発生させられるこの毒は生物を殺し、概念を潰す。もう感じてるだろ? この毒の強さは」

「ああ、触れられないってのはズリぃよな。だが、まだまだ強い術は残ってる。全部受けれるか?」

「その前に戦いは終わる。この毒は外気に触れると同時に気化し、空気と混ざる。既にこのあたり一帯は微量の毒を含んだ空気でいっぱいさ」

「無駄に長話をするとは思ったが、それが狙いか」

「常に自分の有利な状況を作り出す。立派な戦術だ」

「だが、お前の“毒術”もネタが割れてきたな」

「毒術……? クッ……ああそうか。お前は知らないんだもんな、こいつの正体」


 ゼノンは右腕から滴り落ちる毒を眺めながら滑稽そうに笑う。


「正体……?」

「オレは魔術なんて使えねーよ。属性もあんだろうが調べたことねぇし知らねェ」

「なに……じゃあその毒は……」

「勝てたら教えてやるよ!」


 ゼノンの右腕が毒に包まれる。それと同時に腕の先がドラゴンに近い生物の頭部を象る。それは本当に生きているかのように動き、毒の溶かす音と合わさってシャーと鳴いているように聞こえる。


「毒にも色々種類がある。生物の体内に侵食し、その生命活動を邪魔する毒。流行病なんかの元凶も毒だ。そしてオレが普段から好んでよく使っているこの毒は、表面から溶かし確実に獲物を狩る毒……」

「べらべら喋りすぎ」


 まさに技を放とうとしていたゼノンの下半身が凍り付き、続けざまに胴、腕、頭と凍る。


「雹術 武具顕現 『嵐神槍グングニル』」


 それだけに終わらず、ゼノンを槍の矛先のような形状をした氷が包み、更に地面から氷柱が突き上がりまるで地面から突き出た一本の槍のようになる。


「クロト!」


向こう側からエヴァが走ってくる。
ゼノンは氷の槍のてっぺん。死んではいないだろう。


「大丈夫?」

「ああ、エヴァこそ大丈夫か?」

「うん! さっきの術でだいぶ魔力持っていかれたけど……黒氷よりはマシ!」


 俺もエヴァもこの状態では長く戦えない。あの技を使うか……使ったとしても倒せる保証がない。


「そうか、とりあえず今のうちに魔力を回復させておこう。俺も少し体力を回復させる」


 ハザックとの連戦でかなり疲れてきてる。
 一瞬ではあるが今のうちに休んでおかないと……体力切れは獄化・地装衣インフェルノトォールの解除に繋がる。獄化・地装衣インフェルノトォールが解けたらもう戦う体力は残ってない。


「うん!」


 ポテンとエヴァが座り込み、目を閉じて深呼吸をしている。あっちの魔力を使うと、最後の切り札が使えなくなるからな。なるべく今回復するんだ。

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