最弱属性魔剣士の雷鳴轟く

相鶴ソウ

199話 〈煌龍〉

「レオ達、いないでありんすね」


 カサドルを東門から出て、少し離れた森近くまで来たが人影は殆どない。たまに見かける人影も行商人であったり、冒険家であったりで、レオ達ではない。
 ここ最近はアルバレス支部が壊滅したこともあり、人通りも多くなってきているそうだ。


「どんなに遅く進んだとしてももう着いていておかしくないでありんす」

「何かに巻き込まれて遅れているのかも……少なくとレオさんが居て最悪の事態になるとは思えません」

「……そうでありんすね。もう少し先まで行って見るでありんす」

「はい」





「コツとか無いの?」


 暫く特訓した後、エヴァに聞かれる。取っ掛かりは掴めたみたいだが、その先になかなか進めない。やっている事のレベルは高いし、簡単にうまくは行かない。


「俺のとはかなり原理が違うからな。強いて言うなら魔力の流れをもっと正確に感じる、とかかな?」

「やってみる」

「あんまり無理するなよ」


 エヴァの魔力が一点に集中するのを肌で感じる。
 もう連続で何度もチャレンジしてるし、魔力もそんなに残ってるわけじゃない。無理し過ぎて倒れなければいいが……


「…………?」


 ひたすらに魔力を高めていたエヴァがふと何かに引かれるように顔を上げた。そして首を傾げる。俺も同じ方向を見上げるが特に何も見えない。魔力を高めてると気配を感じ取りやすくはなるが、何かを見つけたのだろうか。


「あっちあっち」


 エヴァが指差す方、街の真上らへんを見ると確かに何か居た。丸い、光った物。円盤? シエラが出す結界やイザベラさんの聖域サンクチュアリに似てるな。


「あれは多分結界を応用させて空を飛んでるんだね」

「へぇ、シエラも出来るようになれば便利なのにな」

「才能と十二分な努力がないと出来ないものらしいよ」


 そんな事を話していると、似たような円形の魔法陣がいくつも出てくる。優に十は越えているだろうな。あの円盤の上に居る奴が出してるんだろうか。


「クロト……」

「ん?」

「すごい魔力が集まってる。なんかやば……」


 エヴァが言い終わるよりも先に爆発が起きた。街の方から建物が倒壊する音や悲鳴、空には爆煙があがり、俺たちの間を爆風が吹き抜ける。
 よく見るとさっき出てきた大量の結界から光が噴出され、街に落ちている。


「な、なにが……」

「とりあえずあの上にいる人」

「ああ、引きずり降ろす。雷化・天装衣ラスカティグローマ!! 続けて獄気硬化!」


 雷化し、右足を硬質化させて地面を蹴る。右足は地面に沈み、周囲が裂けてへこむ。そのまま上に飛び上がり、円盤の少し上で止まる。
 円盤の上に乗っているのは若い男。金髪で落ち着いた目。この男、こんな事をしているのになんて落ち着いてるんだ。いや、それよりも驚く事に俺を目で捉えている。俺がこいつの視界に入ってから一秒経っているか経っていないかのその刹那。既に肉眼で捉えている。


「……フンッ!」


 殴り飛ばそうと拳を構えるが光に巻き込まれて右腕ごと吹き飛ぶ。
 右腕の回復は後回しにしてその場で一回転。勢いを付けたところで獄気硬化したままの右足で蹴りを入れる。


「オラァ!」


 直前で手をクロスさせ、ガードされたが勢いまでは殺せず、円盤から斜めに落下。街から見てエヴァがいる場所よりも少し向こうに落ちた。
 それと同時に、展開されていた全ての魔法陣も消失し、街への攻撃も止まる。再び雷の特性を活かしてエヴァの近くに着地。それとほぼ同時にエヴァの詠唱が始まる。


「氷術 武器具現! 『天之麻迦古弓あまのまかこゆみ』 氷弓龍星群・一点氷結!!」


 手を叩くと同時に身長以上もある巨大な氷弓が現れ、エヴァのエア弓構えに対応して矢がつがえられる。そして放たれると同時に分裂。何十、何百にも分裂した弓が未だ砂煙に覆われている奴の元へ集結し、巨大な氷塊に変わる。
 多少狙いが逸れたとしてもこの氷結からは逃れられないだろう。


「なんだったの?」

「さぁ……? 見たことない顔だった。とにかくこれで街へ被害は出なくなる」


 死んではいないだろうが氷の中に閉じ込めればちょっとやそっとじゃ出れないはず……


「……中々のコンビネーション、そして魔術。“私でなかったら”倒されていたかもしれません」


 声が聞こえたかと思ったら氷塊が一瞬にして砂のように崩れ去り、中から無傷の男が出てくる。一瞬にして氷塊を消した。そして俺の蹴りやエヴァの攻撃を無傷で受け切った。そしてこの男の目。さっきは落ち着いたように見えたが今は目を合わせたくないと思う程重い。
 無意識に勝てないと思わされるほどの圧が目を見るだけでのしかかってくる。


「ク、クロト……」


 エヴァが俺の左腕をしっかりと掴む。その手、いや全身が震えている。
 俺が今まで戦った中で恐らく一番強い敵はデルダイン。そのデルダインですら感じなかった恐怖・・をこいつは持っている。
 それは単純な強さの優劣だけでは無い。今までの経験やしてきた行い、それら全てがこのプレッシャーを作り出している。


「〈煌龍〉……ハザック……」


 見た事も、会った事も無い。それでもこの男がそうであると確信出来る。

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