最弱属性魔剣士の雷鳴轟く

相鶴ソウ

194話 生者の特権

「……はぁー」


 しばらく沈黙が続き、アラン団長が観念したようにため息をつく。重くのしかかっていた緊張が急に軽くなるのを感じた。
 こういうメリハリが出来るからこそ、騎士団長なんて事が出来るんだろうな。よく考えればイザベラさんも普段の時と修行の時とではかなりメリハリがあった。


「相変わらず変わらねぇな。アルフガルノ。生きててよかった! またあえて嬉しいぜ」

「ああ、団長にガイナもまた会えたな。久しぶり」


 一瞬俺とアラン団長以外はポカーンとしていたが、すぐに“必要な演出”と気づいたのか笑い始めた。その場の空気も和み、皆が笑顔になった。シエラとリンリは若干ついていけてない様子だが、ニコニコしながら見ているので問題はないだろう。
 ともかく、俺が想定していたよりもかなりあっさりと再開は終わった。


「今まで何してたんだよ」

「あー、その話今度でいいか? 見ての通り一人で立ってもいられないんだ」

「大丈夫かよ」


 昔を思い出すように話し、俺達の再開は終わった。
 一先ずエヴァやシエラ、リンリによってもたらされた騎士団の被害を整理し、また立て直すために二人は街へ戻っていった。
 俺達も回復すべく、エヴァに支えられながら街に戻る。とりあえずはこれでいいんだと思う。シャサールの事はハデスが上手くやってくれると信じて、今は回復に専念しよう。





「ま、魔力……そうだ、俺の竜の魔力!」

「さっき使い果たしたでしょ」

「…………」

「そもそも血を戻せたとしても荒治療すぎてほんの一瞬のつなぎにしかならない
しかも傷を塞ぐ方法がない。また血が流れておしまいよ」


 途方に暮れる二人。だがこのままでは確実にレオは死ぬ。取れる手段は少ない。しかも助かる見込みは限りなくゼロに近い。どんどん焦り、思考力も落ちてくる。注意力も散漫になり、二人は気づかなかった。すぐ後ろに人が居る事に。


「あの……」

「……!」


 声をかけられてやっと気づいた気づいた二人は慌てて振り返り、レオを守るように立ち塞がる。とはいえ二人もボロボロ。戦闘になればどちらも大した役には立たない。


「あ、安心して。私は敵じゃないから」


 声色からして女性と推察できるその人は薄茶色のマントで全身を包み、フードを深く被っている為口元だけが見える。そこまで背も高くなく、年齢もリュウ達と同じぐらいに見える。


「わ、悪いけど今取り込んでるの。道を聞きたいなら別の人にしてくれる?」


 サエの返答に少しポカーンとした様子だった謎の女性もクスッと笑い、二人の奥で倒れているレオの様子を見る。


「ケルターメンの街が見える距離にあるのに道なんて聞かないわよ。それよりそんなもたもたしてたらその人、死ぬよ?」


 謎の女性の言葉にリュウとサエの間に緊張感が走る。


「そんな警戒しなくていいわ。ちょっとどいてね」


 二人をトンっと押し、レオの様子を確認する。頭のてっぺんからつま先までをじーっと睨みつけ、一番重症である脇腹に目を止める。


「癒術奥義……」

「なにを……?」

「私がする事を信じて、必ず助けるわ。生者の特権リビング・プリィヴァリィヂュ


 淡い光がレオの全身を包み込み、みるみるうちに全身の傷が消えていく。脇腹の傷ですら完治している。普通の癒術であれば傷を塞ぐことは出来ても何もなかったレベルにまで治すことはできない。魔術もそこまで万能じゃないからだ。
 だが、謎の女性が発する光はまるで時を戻すように傷を治している。


「そんなに不思議?」


 呆気にとられて見入っていたサエとリュウはその言葉で我を取り戻す。


「あ、あなた何者なのよ! 奥義まで使えるなんて、絶対ただ者じゃない……」

「確かに奥義まで使えるようになるには努力以外のものが必要になってくる。でもね、私は癒術の才能に恵まれ、それ以外を失ってるのよ」

「どういう意味……?」

「私の事はもういいでしょ。それより彼を早く安全な場所へ連れて行ったほうがいいわ」


 淡々と話す女性に対し、サエは飲み込みきれないのか食って掛かる。だが、レオを早く回復させなければならないというのも理解している。


「……レオはどういう状態なの?」

生者の特権リビング・プリィヴァリィヂュは人間が持つ自己治癒力を極限まで高める術。瀕死であっても全快にまで持っていけるとされているけど精神面はかなりダメージを受けるし、人間の域を超えるわけだからその反動もでかい。一週間や二週間は起きないと思ったほうがいいわよ」

「じゃあ、なんでそこまでしてくれるの? 貴方にとって私達なんて赤の他人。事情も聞かずに怪我人を治してくれるなんて……有り難いけど怪しいわ」

「ちょ、ちょっとサエちゃん! 治してくれたのは事実。恩人に当たるんだよ」


 目的も理由もわからずに警戒するサエに対し、リュウは心を開きかけていた。そんなリュウの言葉を目で黙らせ、サエは謎の女性の返答を待つ。


「それが私の贖罪しょくざいだから……私はもう行くわ。またどこかで……いえ、もう会わない事を祈ってるわ」


 立ち去り際に小さく呟き、そのままスタスタと歩いていってしまった。サエは一瞬止めようと手を伸ばしたが、止めた所でどうしていいかわからず手を引っ込めた。謎の女性が向かっている先には彼女自身がケルターメンだと言った街がある。


「私達もあの街へ行くわよ」

「やっぱり追うの?」

「違う! あの女のやった事が全部信用できるわけじゃない レオをちゃんとした医者に……」

「……その必要はない」


 サエの言葉を遮り、あの男は目を覚ました。

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