最弱属性魔剣士の雷鳴轟く

相鶴ソウ

191話 片方の決着

「いたたた……だ、大丈夫? サエちゃん」

「あんたが下敷きになってくれたおかげでね ありがと」

「それは良かった で、どうする?この状況」


 奇跡的に怪我なく墜落したリュウとサエだが、周囲は槍を持った騎士団に囲まれ、いつ貫かれてもおかしくない状況。二人が正体不明なだけに躊躇しているが、いざ戦闘が始まれば逃げ道はない。


「賊相手に不覚を取ったが、次はそうは行かない 貴様らの首で名誉挽回してくれる!」


 レオにあっさりと斬り捨てられた副団長のレイティスが汚名返上を賭けて再び立ち上がった。力をほぼ使い切ったリュウと水の無いサエ。勝負は見えていると言っても過言ではない。


「俺はあと右手を竜鎧装りゅうがいそうに変えるので限界。それでなんとかコイツらを引き付けるから、サエちゃんは逃げて。それだけの力、残ってる?」

「見くびらないで、私も戦うわよ。水術系統の魔術はほぼ使える、けど無から生成するのはあんまり得意じゃないから期待しないで」

「……わかった レオがあのロンゲ男を倒すまで耐えれば……」

「来るわよ! 水術 水刃・蜂の舞!」

竜鎧装りゅうがいそうアーム


 サエの水刃が一角獣ユニコーン騎士団の足元を攻撃し、数名を立ち止まらせる。だが、全方位を囲まれている今では一箇所の足止めは無駄に等しい。リュウも拳を構えるが、右も左も前も団員が迫ってくる状況では効果が見込めない。


「諦めない……私は、もう二度と……!!」





「……フッ、お前の仲間はもう終わりだな。お前も眠れ」

「……『至天失斬烈風斬り』!!」


 リュウとサエの状況を遠目で確認し、ハルバーはレオに話しかける。だが、レオはそこを絶好のチャンスと解釈し、容赦なく攻撃した。
 ハルバーの目の前まで瞬時に移動し、斜めに斬り掛かる。銀月はハルバーの着ている鎧に阻まれ金属音をあげるだけで終わるかに思えたが、時差の様に数秒が立ったあと、斬撃を受けた所を中心に亀裂が走り、粉々に砕け散る。今まで惜しい所でハルバーを守っていた鎧がこれで無くなり、お互いにフェアになったと言える。
 とは言え現時点でレオは数か所に傷を受け、特に脇腹の傷は深く出血も酷い。異常なまでに強い精神力で無理矢理耐えているが、そろそろ体もついてこなくなり始める。


「思い切りがいい! だが、それが全力の一撃か。貰ったぞ、その首ぃ!!」

「取れるもんなら取ってみろ」


 ハルバーは槍を逆さに持ち、すぐ目の前にいるレオの頭に狙いをつける。血を流しすぎたツケが回ってきたのかレオの素早さは失われている。見え見えの攻撃ですら回避できない。


「おれの一撃……本当に鎧が防いでくれたのか?」


 若干意味不明とも取れるレオの言葉にハルバーも不審感を覚える。だがもう槍の手を止められない。その矛先が、レオの後頭部を突き抜け……


「ぐはぁぁぁっ!!」


 口から血を吐き出し、傷口からも今までの比にならないほど血が吹き出す。しばらくは立っていたが、次第にそれも叶わなくなり、握りしめた武器を地面に落とし、倒れた。


「『至天失斬烈風斬り』……たかが鎧が防ぎきれると思ったか」


 立っているのはレオ。矛先がレオの後頭部を突き刺そうとしていた一瞬のうちに、『至天失斬烈風斬り』のダメージが胴体に届いたのだ。速すぎる剣を使う者は、相手に斬られたことすら認識させない。ハルバーの強さを理解した上での逆転の一撃。鎧を砕いて終わったと思わせ、場外からの完全な不意打ち。
 レオの強さが、ハルバーの一枚上を行った。


「ぐ……」


 だがレオも既に限界は超えている。脇腹の傷は今も流血を続けている。ドサッと膝を付き、レオの霞む視界に銀月が映る。


「ここまで、か……」





 ほぼ同時刻。一角獣ユニコーン騎士団員の槍攻撃をのらりくらりと躱しながら、時折反撃をしつつ、時間を稼いでいたリュウとサエの目に、倒れる相手側の団長と崩れ落ちるレオの姿が目に入る。
 右左前後ろ、まさに四方八方から押し寄せる騎士団員を殴り飛ばし、高圧水流で押し流し、レオとサエはお互いに顔を合わせ頷く。


「行くわよ……」


 サエは次々に騎士団が押し寄せているにも関わらず、両手を地面に付け、魔力を集中させる。


「は、早くしてよ!!」


 その周囲で右腕だけの竜鎧装りゅうがいそうでリュウが暴れ、僅かな時間だがサエを守る。


「わかってる あの時みたいに……触れていない水でも操る力を!! 一瞬でいい!!」


 サエの中に渦巻く全魔力が大海のように溢れ出し、周囲に居るものを魔力そのもので押し返す。クロトが雷化・天装衣ラスカティグローマを使った時と同等かそれ以上の魔力を有するサエだからこそできる力技。


「溢れろーー!!!」


 徐々に地鳴りが大きくなり、ある一点から天に向けて地底湖が吹き出す。だが、打ち上げられた水は魔力を使い果たしたサエの制御化を離れており、状況は特に変わっていない……ように騎士団員には見えた。
 だが、実際は違う。水の吹き出した場所に立っていた男が地上にはいない。そうリュウは吹き上げられた水流に乗り、上空へ飛んだのだ。
 フリューゲルが使えないからこそ、上空へ至るにはその連携技を使うしかない。


「そこからどうするかは……知らないわよ……」


 魔力を大きく消費したサエはペタンと座り込み、水しぶきと共に右腕を大きく掲げたリュウを見上げる。


「任せてくれ 我龍弾カノン……いや、弾けろ!! 我龍殲滅弾カノン・オブ・ドラゴ!!」


 右手に収束した最後の竜の魔力がリュウにより真っ直ぐ下へ向けられる。本来ならそのままエネルギー体として落ち、爆発を引き起こすのだがこの技はそんな事はない。サエを巻き込まないために瞬時にリュウが思い付いた技。我龍殲滅弾カノン・オブ・ドラゴ
 リュウの手のひらに集まった竜の魔力が弾け、雨のように無数に分かれて地面に降り注ぐ。一つ一つは弱く、騎士団員達の鎧を貫通すら出来ないが、これだけの弾幕は脅しには十分。
 絶対的優勢に見えた一角獣ユニコーン騎士団も統制が乱れ、隙が出来る。


「うわああああああああああ!ドスン!」


 水流も消え、我龍殲滅弾カノン・オブ・ドラゴも打ち切り、最後の竜鎧装りゅうがいそうであった右腕も解除され、重力に従って落下する。大きな叫び声をあげ、最後は自身の効果音と共に地面と衝突した。


「り、リュウ……? 生きてる……?」

「な、なんとか……」


 サエの心配の声に、地面に倒れながらではあるが親指を突き立てて答える。


「ホッ……も、もっと安全にしなさいよ! 私まで巻き添え食らうところだったわ!!」

「えっ!? ちゃんと当たらないようにしてたって〜!」

「どうだか! そもそも何よ。落ちてくるときの「ドスン」って! 生身のくせに余裕ね!」

「いやいや、超痛いよ!!」

「なに、を……」


 一先ず無事を確かめ、いつもの空気感に戻る二人だが、一人の男に槍を向けられ口を閉じる。副団長、レイティスだ。


「良くもやってくれたな?」

「まだやる気なの……?」

「当然、我々の邪魔をして命があると思うな!!」

「で、でも……立ってるの貴方だけですよ?」


 周囲を見渡しても騎士団は我龍殲滅弾カノン・オブ・ドラゴで気絶し、騎士団長はレオの前に倒れている。改めて状況を理解し、徐々に焦りが生じる。


「こ、この……覚えておけ!賊め! 国に仕える我ら一角獣ユニコーン騎士団に手を出して、無事でいられると思うなよ!! 起きろ!団員よ! 撤退だ。ケルターメンに引き返す!!」


 比較的軽症の団員達は急いで馬車や馬の準備を整え、来た方向へと引き返していった。それと同時にまた二人の間の緊張が解け、疲れと共に座り込む。


「最後のセリフ、小物感たっぷりだったわね」

「小物感って?」

「そんなことよりレオは?」

「ああ、それならあそこに……」


 リュウが指さした先で、レオは倒れていた。その周囲に、レオのものと思わしき赤い液体が広がっていた。

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