最弱属性魔剣士の雷鳴轟く

相鶴ソウ

187話 数年越しの雪辱

「ハァ……ハァ……大丈夫か?エヴァ」

「うん! 大丈夫だよ」


 全速力で裏の通りを走り抜け、北門を目指す。
 滑るようにして門をくぐり、街の外へ出る。さっと周囲を確認するとフォルトゥストのすぐ近くで赤い鎧を着た集団の集まりが見えた。ドラゴン騎士団だ。


「行くぞ。ハンターは俺がなんとかする。しばらくの間ドラゴン騎士団を止められるか?」

「任せて! 腕がなるよ」

「よし、雷化・天装衣ラスカティグローマ!!」


 久しぶりに雷化し、エヴァを抱えて飛ぶ。
 瞬時にドラゴン騎士団の頭上に到着する。見るとハンターとそれを囲むようにドラゴン騎士団が並んでいた。ハンターもドラゴン騎士団も久しぶりだ。だが、それはそれ、これはこれだ。
 悪いがハンターはここで止めさせてもらう!


「ちゃんと捕まってろよ。雷砲!」


 エヴァを右手で抱え、左手の平から雷砲を繰り出す。威力は抑えてあるが、両者の間に打ち込むことで動きを止められるだろう。砂煙が煙幕となっている間に地面に降り、エヴァを降ろす。
 シュデュンヤーを抜き、俺はハンターを、エヴァはドラゴン騎士団に向かう。
とはいえドラゴン騎士団も一筋縄というわけには行かない。ハンターだけに気を取られているわけには行かない……が、正直ハンターが未知数だ。
 エヴァには頑張ってもらうことになるかもしれない。


「な、なんだ!」

「ハンターの仕業か!」

「ん? あれを見ろ!」

「誰かいるぞ。ハンターの仲間か!」


 騎士団が憶測を次々と口にするがハンターの仲間ではない。だが、ハンターは俺達に任せてもらう。


「……!? まさか……いや、そんなはずは……」

「お、おい……もしかして……」


 アラン団長とガイナが何かに気づいたように震えた声でつぶやく。
 そらそうだ。雷化・天装衣ラスカティグローマが使えて黒髪と金髪の二人組。どうしたって俺達に繋がるだろう。


「ク、クロト……?」

「ハルバードの……生きてたのか?」

「話は後だ。ハンターは俺に任せてほしい」

「な、何を言っているんだ。俺達の仕事だ、どけ!」

「なんだお前、赤き騎士とやらせろ。邪魔だ」

「ハンター、ゼラさんが待っている。その腕ちょん切ってでも刀を返してもらう……そしてゼラさんの所へ帰れ!」

「あァ?」


 シュデュンヤーを向け、ハンターを諭そうとするが、全く何も感じてないらしい。本当に自我が失われてるんだな。後ろではドラゴン騎士団、主にアラン団長とガイナが何か言っているがとりあえずは後だ。


「行くぞ。稲妻剣・獄!」


 黒雷を纏ったシュデュンヤーを振り下ろし、ハンターの『狂鬼零刀』にぶつける。
 なるべく体を傷つけずに倒したい。甘いかもしれないが、ゼラさんを見たあとでこいつを傷つけられない。


「その刀だけは返してもらうぞ」

「カァァ、赤き騎士よりも歯ごたえがありそうだなァ!」


 お互いに剣と刀をぶつけ合い、一歩も引かずに衝突し続ける。
 パワーもスピードもハンターの方が上だ。恐らくは『狂鬼零刀』の力だろう。なんとか雷の力で凌いでいるが、いつ押し負けてもおかしくはない。


「雷千剣! 続けて雷斬砲!」


 手数でハンターの動きを一瞬止め、続く雷斬砲で一気にハンターを押す。流石のハンターも受け止めきれずに地面を削りながら後ろに下がっていく。


「やるな」

「エヴァに長いこと負担はかけたくない。早急にケリをつけさせてもらう」





「エヴァリオン……本当に生きていたのか……」


 クロトとハンターの戦いが始まってすぐ、ガイナが信じられないように呟く。久しぶりにガイナの姿を見て、涙が出そうになるけど、今はグッと我慢。


「ガイナ……積もる話もあるけど取り敢えずハンターは私達に任せてほしい」

「そうは行かない。アルフガルノの様子を見るにハンターを活かしたまま無力化する気だろう。それ駄目だ、あれだけの重罪人を無罪で放免はできない」


 私の言葉にアラン団長が反応する。


「ちょっと待ってよ団長。そもそも最弱と悪魔が生きてること自体おかしいじゃない! 偽物かもしれないわ!」



 どこかで聞いたような声がしたと思うと、団員達の間から白髪の女性が現れた。気の強そうな目で私を一瞥し、アラン団長の方を向く。この人は……


「確か……魔術指導をしていたアイリーンさん」

「ふん、悪魔に覚えられてても何も嬉しくないわ」


 久々に悪魔にという言葉を聞き、その言葉が昔を思い出させ心にグサッと痛みのようなものが蘇る。でも、今はそんな事で止まってられない。


「相変わらずですね」


 悪魔という罵りに対抗するように、できるだけ感情を殺した冷めきった目と言葉をアイリーンさんに返す。その態度に数年前とは違うという事を無意識に感じ取ったのか、アイリーンさんは少し恐れるような目で私を見る。


「……な、なによ。やるっての?」

「やったとしても無意味ですよ。私と貴女では……」

「いいわ、やってやろうじゃない……爆炎術」

「待て、アイリーン! やめろ!」

業魔炎ごうまえん!!」


 アイリーンの手から私を丸ごと包めそうな程大きな炎柱が放出され、迫ってくる。数年前だったら動けなかったかもしれない。でも、今なら……


「馬鹿野郎!」

「エヴァリオン!」


 アラン団長とガイナが慌てた様子で止めようとするが、どちらにせよ間に合わないだろう。


「……ん!」


 私は右手を横に払い、炎柱を一気に凍らせ、砕く。確かに炎は私にとって脅威だけど、この程度じゃ話にならない。


「な……そんな…… 炎と氷なら炎のほうが相性がいいのに!!」

「相性だけなら、ね。相性が悪くたって魔力量の違いによって炎が水を焼き尽くすこともあるし、氷が炎を凍てつかせる事もある」


 昔、テリア山でレイグがしてくれた相性や魔力量の話を頭に思い出させながら話す。


「な、何が言いたいのよ……!」


 狼狽えた様子で、それでも気丈に叫ぶアイリーンさんに、トドメの一言を言い放つ。


「私と貴女では、最早次元が違う!」

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