最弱属性魔剣士の雷鳴轟く

相鶴ソウ

162話 ウェヌス盗賊団

「マスターボウ!? なんだよ、ビックリしたな……」

「あらぁ?ごめんなさいね〜」


 こいつわかってて入ってきただろ……
 しかし慌てた様子で入ってきたようにも見える。エヴァも離れ、マスターボウと向かい合う。


「どうかしたのか?」

「ここを出るって聞いて慌てて来たのよーん」

「あ、ああ、そうか。できるだけ早くここは離れるつもりだ」

「そうなのねん。目的地はケルターメンだわよね? だったら私達と行きましょぅ〜」


 そういえばナイアリスが道中に何かあるって言ってたよな。〈シルク・ド・リベルター〉と居れば問題ないとも言ってたか。


「ケルターメンにはどんな道を通るんだ?」

「そうね〜、ここセントレイシュタンから南下するとアルバレス公爵領に入るんだけれど、入ってすぐにクエイターンという街が見えのねん。そこを経由して更に南下、次は大魔森の手前にあるカサドルを経由して西へ進めばケルターメンにやっと到着するって感じで着くのよ」

「そのケルターメンって街に直接は行けないのか?」

「ちょうどその進路を塞ぐようにとある山があるの……そこに奴らは潜んでるのよ」

「奴ら?」

「ウェヌス盗賊団……二年前から急激に力を付け、今では帝国が手を出せない程の盗賊団になっているわ」


 ウェヌス盗賊団……どこかで聞いたことがあるような。


「ほら、キンミー村でユーノ盗賊団のアグリアから聞いたよ。ウェヌス盗賊団って名前」


 そうか、あの時に聞いた名前だったのか。
 とはいえ俺達もそれなりには強いし、リンリ、リュウも加わって戦力は十分だと思うが……


「とにかくその盗賊団は絶対に関わっちゃだめなのよ」

「そんなに強いのか?」

「強い上に厄介なのよん。そのクエイターンとケルターメン間にあるアジトはアルバレス支部といってウェヌス盗賊団の支部なんだけど……そこに手を出すと本部が動き出すのよ」

「本部?支部? なんだそれ」

「ウェヌス盗賊団はね〜、いくつかの支部を持っていて、仲間意識が強いから支部がやられれば必ず本部が報復しに来るのよ。だから会ったら無抵抗で逃げ延びなければ負けなの」

「その本部ってのはそんなに強いのか?」

「そうなのよねん。本部で構えている最強の二人、そのうちの一角が副団長のハザック・エードラム……昔冒険者をやっていてその称号はオリハルコン級。〈煌龍〉のハザックと言えばわかる人もいるはずよん」

「知ってる……!」


 エヴァが何かを思い出したように呟く。


「〈煌龍〉……アジェンダ達が現れる前はその名をずっと轟かせていた最強の冒険者。数年前に当然引退したって聞いてたけど……」

「そう、そのハザックよ。更にその上に立つ団長は〈毒蛇〉のゼノンと呼ばれていて……」

「ちょっと待ってくれ……副団長ですらオリハルコン級最強の実力者なのにその上がいるのか?」

「そ、彼が大陸最強と囁く人も多いわ〜! 身近な例で言えばゼノンはデルダインレベルの実力者よ。まぁ使う技が技だけにって感じなんだけど……」


 なるほどな……支部に出会ってその場は凌げたとしても話を聞く限り本部からの報復が待っている。そして本部が来ればもう勝ち目はない。勝っても負けって事か。


「でも気になる事もあるな」

「うん、そんなに強いならどうして国が動かないの? いくら強いとは言っても帝国には三大将軍や、最後の手段として七老会だって居るでしょう? 戦力的には勝てると思うんだけど……」

「そうね〜」


 マスターボウはその細長い体を更にくねらせて顎に手を置き、んーっと考える。


「明確な理由はわからないけれど、私達の予想では理由は三つ。一つ目は魔族の襲来によって戦力を分散させている為、ウェヌス盗賊団にまでかまっていられない。二つ目はウェヌス盗賊団がまだ何もしてこないから」

「何もしてこない?」


 話を聞く限りではかなりの悪行を重ねているからこそ恐れられているんじゃないのか?


「そうなのよね〜 確かに略奪もするし人さらいもするわ。でもその件数が月に一人や二人、多くても三人程度なのよね 加えてその多くが冒険者であり、彼らの縄張りに入ったせいで対象となった者ばかり……」

「縄張りに入って刺激しなければ比較的安全な盗賊団って事?」

「そうなるわね。とは言ってもウェヌス盗賊団から仕掛ける事がゼロってわけではない……ただ魔族と比べるとその脅威性が低いのよ」


 なるほどな。魔族がいなければ今頃は淘汰されていたが、そういった運……いや、そこも計算している頭脳も持ち合わせている。ますます敵に回すのは分が悪い。何よりこっちにメリットがないからな。


「三つ目は戦力の温存。ウェヌス盗賊団と戦えば帝国側も戦力を大きく削られる可能性がある。から今は無視しているんじゃないか……というのが私達外の人間による推察よ。昔、帝国でハンターっていたじゃない?」


 確か……ハデスが言っていたグレイド達の元仲間で、地獄の秘宝を持ち出して暴れていた辻斬りだよな。
 最近は滅多に聞かないし、忘れていたけどどうしたんだろう。


「あれもしばらくは帝国も追っていたんだけど魔族の攻撃が本格化してきた頃から手を引いたわ。ま、居場所がわからない相手に割いてる時間は無いってことね」

「じゃあハンターがどこにいるかわかったら帝国は動くのか?」

「どうでしょう……五分五分だと思うわ。今、魔族と戦争しようって話が出てるらしいし、戦力を割くかどうか」


 戦争……あまりいい単語ではない。できれば戦争が起こる前に俺達で大魔人らを叩ければ……
 とはいえ今は目の前の事をやるしかない。ひとまず目的はケルターメンへの到着。全員生存で着けば上等な方だろう。


「そうそう、話は戻すけど私達と行きましょん。ウェヌス盗賊団も縄張りに深く立ち入らなければオリハルコン級は狙っては来ない。私達と居れば一先ずは安心よ」


 確かに〈シルク・ド・リベルター〉と居れば安全だろう。万が一戦闘になったとしても、だ。仲間を危険に晒してはいけない。仮にもリーダー的立ち位置なのは俺だ。エヴァもいる。
 だが、それでも……それでも自分達の力でやってみたいと思っている自分もいる。


「クロト?」


 考え込んでいると長い沈黙に耐えかねたのかエヴァが顔を覗かせながら不思議そうにこっちを見る。そうだ、エヴァを守らなければならない。絶対に危険には……そもそも俺達の旅に同行させているのに……いや、今回は規模が違う。少なくとも団長のゼノンって奴は今までで最強の敵であるデルダインと同格。
 出会わない可能性も……駄目だ。色々な思考が飛び交って頭がぐちゃぐちゃする。


「クロト!」

「ん……あ、ああ」

「クロトのやりたいようにやればいいよ。多分……だけど、他の皆も同じ事考えてる気がする! 特にレオは」


 その言葉で俺に頭にかかっていたもやの様なものが晴れていく。


「はは……そうかもな……マスターボウ、俺達は自力で行くよ。ケルターメンまで」

「本気なのん? 見つかればそこで……」

「その時はその時だ。危険から逃げてても仕方がない。それに、いつまでも人の力を頼ってばかりじゃダメなんだ。自分達で何とかしてみせるよ」

「さっすがクロトちゃんねぇ〜〜! ここへ来る前に雨刃ちゃんに『アイツラガ一緒ニ来ルトハ思エネーガナ』って言ってたのがよくわかるわぁ〜! それなら十分注意して、ケルターメンでまた無事に会いましょん!」

「ああ、そうだな!」

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