最弱属性魔剣士の雷鳴轟く

相鶴ソウ

146話 霹靂神VS武雷針

「本当ナノカ?」

「ああ、デルダインが雷化・天装衣ラスカティグローマを使う前、つまりは生身の時に攻撃を受けても血を一滴も流さなかった加えていくら攻撃を無効化する雷化・天装衣ラスカティグローマでも体の修復には体力を使う。だがあいつに疲弊の様子はない。体力という概念を失ったアンデッドと特徴が一致するんだ」

「……不死者アンデッドダトシテ、ダッタラドウスルンダ?」

「アンデッドは体をバラして埋めるのが常套手段よ」

「でもそれが出来るとは思えないわよん」


 俺はテンペスターを左手に、シュデュンヤーを右手で持つ。


この剣シュデュンヤーから放たれる攻撃は不死者を殺す。つまりアンデッドを殺すことができる」

「……? ヨクワカランガ勝テルンダナ?」

「ああ、三人には俺のバックアップを頼みたい。俺の技が心臓を貫けばそれで勝ちだ」

「……わかったわ、やりましょう!」


 三人はすぐにデルダインへ向き直り、戦闘態勢を取る。
 雷化・天装衣ラスカティグローマ状態のあいつを、シュデュンヤーで攻撃して殺せるのかはわからない。だが、それに賭けるしかない。


「行くぞ……!!」


 俺はただ真っ直ぐデルダインに向かって駆ける。
 当然の如くデルダインは雷槍で迎撃してくるが、ここは三人に任せる。飛んでくる数本の雷槍をマスターボウの強風と雨刃の片手剣で防ぎきり、爆風が吹き抜けるがそれをも置き去りにして接近する。


「食らえよ化物……」

「……雷砲」


 雷槍では無理と判断したのか雷砲を放ってくる。その雷砲をすぐ後ろに付いていたアジェンダが身を呈して受けてくれる。
 電撃をもろに受け、アジェンダは転げ落ちるように倒れた。死なないでくれよ。


 チャンスは一度きり……失敗すればもう次はない……!


「雷帝流不完全奥義 雷式かみなりしき黒雷滅破こくらいめっぱ


 シュデュンヤーを薙ぎ払うと同剣からに飛び出した黒雷がまるで龍の如くうねり、デルダインへ迫る。距離ももうほとんど無い。これなら当たる。


「雷拳」


 黒雷滅破が当たる直前、デルダインはそれを素手で殴りつけ、弾き飛ばした。
 地面に落ちた黒雷滅破は力の反動で二つに分別し俺の両サイドを吹き抜け、後方でマスターボウと雨刃に直撃した。一応ガードの姿勢は取っていたが、雷は触れれば感電。ガードはほぼ意味を成さず、爆発が発生。二人共その場に倒れた。


「嘘……だろ……」


 黒雷滅破を素手で殴るなんてありえない。
 この手を防がれたら……どうする……皆を守らないと……
 勢いを付けすぎてもう足が止まらない。このままじゃデルダインに突っ込む。
 その時、ちらりとデルダインの右腕が目に入った。黒雷滅破を殴った腕は所々がポロポロと崩れていた。傷を追っていたのだ。今まで無欠だったデルダインに一撃を入れた事になる。


「……くっ、雷帝流真奥義」


 この勢いを利用して行くしかない。
 殴り返せない威力の技をぶつければまだ勝機はある。諦めるにはまだ早い。ここまで繋いでくれた皆の為に……ここは一撃入れさせてもらうぞ。


「無駄だ。雷拳」

「……雷神式らいじんしき霹靂神はたたかみ!!」


 テンペスターとシュデュンヤーをクロスする様に振り下ろす。
 両剣の動きに合わせるかの如く白と黒の雷が落下。二つの雷はお互いに巻き付き、混ざり合いながら一本の雷柱となりデルダインへ降り注ぐ。雷は地面を削り、デルダインも雷の中に囚われる。


「ハァ……ハァ……これで、どうだ」


 雷が降り注いだ時間は十秒も無かっただろう。今までにない強力なエネルギーを放出していた雷柱も次第に収まり、辺りは砂煙に包まれた。
 霹靂神はたたかみの影響で目の前には巨大なクレーターが出来、周りは一面砂煙で姿は見ないが、デルダインの音はしない。
 これなら……あるいは……


「今のは危なかったぞ」


 自然と体がグラッと揺れ、倒れそうになったところで絶望と共に声が聞こえてくる。


「……まじ、か」


 さも当然の如くデルダインはクレーターの中心で立っていた。全身がボロボロになっているが、まだまだ原型は残っている。
 雷化・天装衣ラスカティグローマは流石に解けているが、それなしでもあいつは強い。
 一方俺の方はかなりまずい。もうあと何秒獄化・地装衣インフェルノトォールを維持できるかわからない。そもそも真奥義を耐えられた時点でもう打つ手がない。


「最後まで諦めるな。這いつくばってでも敵に向かっていけ」


 こいつ……また。敵なのに何故俺にアドバイスや励ましを……いや、そんな事考えてられない。
 全身が悲鳴を上げているようだ。動くだけの力ももう残ってない。足にガクガクと震える。一歩動くだけで体が軋む。右手を振り上げるが気を抜けばシュデュンヤーを落としそうだ。
 デルダインまであと数歩。歩け、歩け……!


「ら……雷、帝流……」

「ここまでだな。武雷針ぶらいしん



 デルダインが右手を顔の前辺りまで持ち上げると、右腕の肘から先が雷が纏われる。が、ただ纏われるだけじゃない。雷が指先から伸び、巨大な一本の針のような形に変化した。
 まるで雷の手甲剣を付けているようだ。そして指先をこちらに向け、少しだけ溜めた後に突きが放たれた。雷の針の部分はそのまま俺の胸へ突き刺さり、体のそこから痺れるような感覚に襲われる。
 腕の貫通は獄化・地装衣インフェルノトォールの鎧が防いでくれているが、雷の部分は体を突き抜けている。


「飛べ」


 鎧が止めていた指先に更に力が込められ、伸ばしきると同時に俺の体は吹き飛んだ。貫通はしなかったようだが、とてつもない衝撃で吹き飛ばされ、宙を飛んだ。
 景色が急激に変わり、視界が定まらない。加えて耳元で風がなびいている。……直後、俺は頭から何かに突っ込み、気を失った。

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