最弱属性魔剣士の雷鳴轟く

相鶴ソウ

145話 反撃の地装衣

「開け、地獄の門よ!来い……地獄の豪雷ごうらい獄化・地装衣インフェルノトォール モード雷神!」


 体中を雷が取り巻き、獄気で黒く硬化。雷の鎧を纏い、莫大な魔力が体を駆け抜ける。テリア山で使って以来二回目の獄化・地装衣インフェルノトォールの発動。
 地獄の門から獄気が永久的に体へ流れ込み、体の中で魔力へ変わる。まだ体が感覚を覚えている。これだけの力を身に纏ってもあいつに勝てるかどうか……いや、勝たなければ死ぬ。死ぬわけには行かない。


「……なんだそれは」


 三人とデルダインの戦いが停滞した一瞬を狙って間に割って入る。三人も限界に近い。この状態も長くは保たないが、やれる事は全部やる。


「まぁ食らってみろや化物 豪雷術――」


 右手に通常の雷丸と大きさは変わらないが、通常とは比べ物にならないエネルギーを秘めた雷丸を生成。
 そのまま地を駆け抜け、デルダインの眼前で地を蹴り飛翔。ほぼ真下にいるデルダインに向けて右手を突き出す。


「――雷光らいこう御神楽之劍みかぐらのつるぎ


 右手から放たれた豪雷が巨大な剣へと形を変え、デルダインに降り注ぐ。衝撃で砂煙が舞い、地面が砕ける。砂煙が地上を覆い、デルダインの姿が隠れる。
 今の一撃でやられてはいないだろうが、少しは効いただろう。俺は砂煙が舞っている内に地上へ降り、リンリに駆け寄る。雷砲が直撃したレオの方が重症だろうが、恐らくは大丈夫。姿は見えないが“音”はする。


「クロトちゃん!」


 滑り気味に半壊のブルーバードなだれ込み、カウンター裏にリンリを寝かせる。そしてその手に握られたテンペスターを取る。


「ナンダ?ソノ姿」

「まぁ、これはまた説明するさ 雨刃も無事か?」

「無事……デハナイガナ」


 半壊のブルーバードには、カウンターに背をつけ、荒い息を吐いているヴァラン。あとはマスターボウと雷を受けた雨刃。
 視界の左端には銀月を杖のようにしてフラフラと立ち上がるレオ。そのもう少し右側には膝をついているがまだ戦えそうなアジェンダ。
 そして砂煙の中、輪郭だけが見えているデルダイン。どうやらあの攻撃でも元気らしい。


「……本当に筋がいいじゃないか」


 煙の中から出てきたデルダインは多少土等で汚れてはいるが、目立った外傷はない。傷はできないとしてもあれだけの攻撃を食らっているのに全く疲労が見られない。


「マダマダ来ソウダナ」

「至天、破邪……剣征流 突破の型 『突き立てる……牙ァ』!!」


 レオが最後の力で駆け抜け、突きを放つ。対するデルダインはそれを片手剣で容易く防いだ。


「あのままじゃまずい……雨刃、レオを助けろ!」

「任セロ」


 俺はレオを雨刃に任せ、一直線にデルダインへ向かう。
 デルダインはもう片方の片手剣でレオに斬りかかってるが、それでもまだ間に合う。今の俺はさっきより数倍速い。


「……ん?」

「雷光・御神楽之劍みかぐらのつるぎ!!」


 地を駆けたまま、再び右手から雷の剣を放出。デルダインへ伸ばす。先程よりもかなり小さく、威力も低い。だが注意を引くには十分だろう。


「フンッ!」


 案の定狙いをレオから俺へ変え、片手剣を俺に向かって振り下ろす。その隙に雨刃の糸でレオの胴体を巻き取り、ブルーバードの方へ引っ張る。ほぼ気絶しているみたいだ。


「一つ一つに全力を込めろ。中途半端な技を使うな」


 さっきの御神楽之劍の事だろうが、こっちはそんな事言ってられない。
 レオが居なくなった事で注意は完全に俺へ向いている。気を引き締めてやらないと死ぬ。


「雷帝流――」

「その姿、雷は半減するみたいだな。ならば、これでどうだ?」

「――白黒雷多連斬撃!!」


 右手に持ったテンペスターで右上から左下への袈裟斬り。続くシュデュンヤーでの左上から右下への袈裟斬り。その間に元の位置に戻しておいたテンペスターで横一文字斬り。次を仕掛ける前にテンペスターを元の位置に戻し、二本でダブル袈裟斬り。返す刀で今度は上へダブル逆袈裟斬り。
 ここまでで三秒も経っていないだろう。だが、デルダインは全ての攻撃を片手剣で防いでいる。


「まだ、まだァ!」

「雷転移」


 次に斬り込む前にデルダインは上空へ移動。まずい。体が前のめりになり過ぎて追えない……!


「雷槍! 雷槍、雷槍、雷槍、雷槍――雷槍ッ!」


 次々に投げられた雷槍が回避の出来ない俺へ降り注ぐ。
 俺の周囲へ雷槍が突き刺さり、最後の一本が俺の背中から腹へ抜けて俺を貫通する。そして考える間もなく大爆発。俺の体は大きく宙を飛んだ。





 ここまでの戦況。
 ブルーバード、デルダインの雷槍により半壊。その瓦礫によりナイアリスが負傷。
 リンリ、レオが雷を受け気絶。ヴァラン、蹴りを食らい棚へ衝突。戦闘続行不可。アジェンダ、雨刃。共にダメージが蓄積されているが戦闘続行。
 マスターボウ、今のところ無傷。しかし魔力の消耗が激しく疲弊。
 クロト。獄化・地装衣インフェルノトォールを使うが、雷槍に貫かれる。ダメージ大。


 そしてデルダイン。ここまで無傷無双の無敵。





「ガハッ……ゴホッゴホッ……ここは」

「起キタカ」


 俺はブルーバードのカウンターに背をつけて気絶していたらしい。幸いにも獄化・地装衣インフェルノトォールは解けていない。
 現在は雨刃の百本の惜しみない剣舞とそれに合わせてアジェンダの攻撃、風の為目には見えないがマスターボウの魔術も発動しているだろう。強者三人による同時の本気攻撃で流石のデルダインも攻撃する隙がない。
 三人とも限界が近いだろうが、今までで一番追い詰めているとも言える。


「俺、どれだけ気絶してた?」

「一分弱ダ」

「……悪い、すぐに戦闘に戻る」

「少シ休メ。今グライシカ休メナイダロウ」


 雨刃の好意はありがたいが休んでる暇はない。


「あいつの正体が掴めた。一旦下がってきてくれ」

「……? 紅の伝説アジェンダ!俺ノ攻撃二合ワセテ下ガッテコイ」

「わかった!」 


 百の片手剣は一旦攻撃をやめ、空中で十対一個の回転刃に変化する。そして雨刃の動きに合わせて回転しながらデルダインへ迫る。


「唯一ノ技ニシテ奥義……」


 回転刃は地面を削り、デルダインの右前左前右後ろ左後ろの四方向から迫ってくる。


「暴殺」


 更に上空からは二個の回転刃がデルダインへ向かっている。
 デルダインが注意を引かれている隙にアジェンダは後ろへ下がり、荒い息を付きながらも少し休憩している。


「これもまた筋がいい。ならば……奥義 霹靂怒号」


 デルダインの体が若干光り、デルダインを中心に全方位へ雷が一瞬ではあるが迸る。六個の回転刃は雷の圧力に負け、全て弾かれる。


「クッ……螺旋刃」


 今度は三個の回転刃が大きくスイングしながらデルダインの左半身へ迫る。


「鬱陶しい 雷砲」


 左手から放たれた雷砲で三個の回転刃は撃ち落とされてしまう。


「上ダ! ……乱舞!」


 最後の回転刃が不意打ちで上空からデルダインの体を縦に斬り裂いた。雷化・天装衣ラスカティグローマの力で傷は付かないが、体が半分に割れ驚愕の表情を浮かべている。
 直後全ての片手剣が巻き取られ、雨刃のマントへ帰ってくる。


「……やるな」


 デルダインは自分の顔を抑えながら少しだけ笑みを浮かべてこっちを見ている。


「デ、正体ッテノハナンダ?」

「弱点でもあるの?」

「ああ、あいつは恐らくアンデッド。四魔王の一人に操られている」

コメント

  • 330284 ( ^∀^)

    雷神?他にも何かモード見たいのが有るのかな?

    1
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