最弱属性魔剣士の雷鳴轟く

相鶴ソウ

144話 王の猛攻

「襲撃者!一つだけ聞きたい……本当にデルダイン王なのか!」

「――如何にも……我が国の子らよ。だが、〈王〉の称号は昔の物。我は命令を遂行する。……邪魔をするなら消えてもらうぞ」


 デルダインが初動もなく一瞬で消え、アジェンダのすぐ上に現れる。いつの間にか腰の剣を抜いており、それを真上から叩き落とす。
 アジェンダは機敏に反応し、斧をクロスさせて受け止めたが、衝撃で周囲に風が吹き抜け、アジェンダの足が地面に食い込む。


「水術 水刃・蝶の舞」


 ヴァランの手から三日月形の水刃が回転して放たれる。デルダインは片手でアジェンダを押さえつけたまま、もう片方の手で剣を抜き、水刃を十字に斬って受け止めた。


「こ……のっ!」


 アジェンダが剣を押し返し、デルダインは不意に体勢を崩して空中に放り出される。


至天破邪剣征流してんはじゃけんせいりゅう 突破の型 『虎武璃とらぶり』!!」


 そこへすかさずレオが虎武璃とらぶりを浴びせる。が、デルダインは再び瞬間移動で消え、レオの攻撃は空を斬り裂いた。
 相当な圧力がかかっていたアジェンダは少しふらつきながらも辺りを見回しデルダインを探す。そして右を向いた瞬間に左からデルダインが現れ、容赦なくアジェンダの腹へ蹴りをねじ込んだ
 強烈な雷を纏った蹴りは、アジェンダとその延長線上にいた雨刃を巻き込んでに蹴り飛ばし、二人は壁へ激突した。
 だが、同時にチャンス。攻撃の直後ならいくらなんでもかわせないだろう。


「雷術 雷撃大砲プラズマキャノン!」

「嵐術 風圧大砲!」


 俺の巨雷丸とマスターボウのトルネードが合わさり、デルダインを包み込む程の巨大な嵐撃と化す。
 嵐撃は地面を削りながらデルダインへ直撃。そのまま森へと貫通し、砂煙を舞い上がらせて収束した。だが、煙の中から現れたデルダインは片手剣二本をクロスしてガードしており、ダメージは殆ど受けていない様子だ。


「薙払の型 『狂乱の太刀』!!」

「我流 熊ノ太刀!」


 レオは向かって右からガード体勢のデルダインへ無差別四連撃を放つが、それをデルダインは片手剣一本で全ての斬撃を打ち砕く。
 炎を纏ったテンペスターによる縦の斬撃も、片手剣で軽く受け止められ、逆に弾き飛ばされる。


「数が多いな」


 仁王立ちで俺達を順番に見ながらデルダインが呟く。
 強い……いや、強すぎる。戦闘が始まってまだ三分前後しか経っていない。全員でのほぼ同時攻撃にも全く遅れを取らず、全て防いでいる。おまけに俺とマスターボウの同時攻撃でも傷一つ付いていない。本物の化物……


「少し、削ろうか……雷化・天装衣ラスカティグローマ


 詠唱と共になんのモーションもなくデルダインは雷化した。
 そうだ、俺の雷術は殆どデルダインの伝記を読んで身につけた。つまり……俺の使える技は相手も使える。雷化・天装衣ラスカティグローマだって例外じゃない。
 天装衣は滅んだ魔術。現代で使える人が殆ど居ないだけで過去の人間ならば使えて当然……雷化・天装衣ラスカティグローマの存在だってデルダインの伝記から読み解いたもの。まずい……本格的に勝てない。


「……ッ!」


 デルダインがリンリに向かって雷となり一瞬で駆け抜け、リンリを通り過ぎる。デルダインが通った後には地面が黒く焦げ付き、リンリの全身にも雷が流れる。
 ほんの一瞬のうちにリンリは黒い煙を上げながら倒れた。


「……リンリッ!」


 助けようと思った時にはもうやられていて、デルダインへ攻撃しようと思ったら消えている。
 直後、後方から破壊音が聞こえ、振り返るとヴァランがローキックでカウンターごと吹き飛ばされていた。


「嵐術 風陣牢・絶!」


 マスターボウの魔術で風が巻き起こり、デルダインの周りを圧縮して閉じ込めようとするが、雷となって既に上空へ逃れている。
 だが、それをも先読みしデルダインに接近する影があった。


至天破邪剣征流してんはじゃけんせいりゅう 突破の型 『突き立てる牙』!!」


 真下から空中のデルダインへ迫るレオ。デルダインの一瞬の隙を突いたが、デルダインの腹は物理を無視し、虚しく貫通する。


「雷砲」


 手の平から落雷の三倍レベルの雷が放たれ、レオが雷に包まれる。
 初歩的な技である雷砲でこのレベル。俺の雷撃大砲プラズマキャノンより威力がある。おまけに攻撃する相手には打撃を与えるが、攻撃してくる相手には雷の性質で回避する。完全に術を使いこなしている。


「やぁってくれたなぁっ!」


 地上へ降り立ったデルダインへ復帰したアジェンダが斧を振り回し、激しく攻め立てる。
 連続の斧による斬撃は一本の片手剣と物理を無視する体で完封されている。


雷化・天装衣ラスカティグローマ!!」


 アジェンダに加勢するべく俺は雷化する。同じ技で対抗できるかはわからないが迷ってられない。


「代われアジェンダ! 雷術 雷砲拳」


 ちらりと背後を見て意図を読み取ったアジェンダが、最後にデルダインの片手剣を弾いて横に逸れる。そこめがけてマックススピードの雷砲拳を突き出す。
 両者の体に雷が駆け抜け、衝撃は地面へ。爆発が起き、辺りに砂煙が舞って視界を奪う。


「クロトッ!」


 砂煙の向こうからアジェンダの声が聞こえる。
 常人ならこれで吹き飛ぶ。だが、拳から伝わる感触でなんとなくわかる……こいつ、まだ……


「来るな!」


 砂煙が少しずつ収まり、輪郭がぼやけて見える。そして徐々に見えてくる。その場から一歩も動かず、片手で俺の一撃を受け止めているデルダインの姿が。



「雷にしては筋がいい……だが、弱い」


 まずい、逃げられ……


 考える間もなく俺は宙へ飛んでいた。手の平から再び雷砲が放たれたのだろうか。俺の視界が真っ白に染まり、やがて真っ黒になる。
 暫くは浮遊感があったが、やがて背中から引きずられるような感覚がした。恐らくは仰向けに地面へ落ちたのだろう。


「……グ、ゴホッ……ゴホッゴホッ」


 全身が痺れ、口からは血が吹き出す。
 俺の雷化・天装衣ラスカティグローマは咄嗟に発動したが速度と魔力重視にしてある。物理無視にすれば幾らか戦えるだろうか……
 いや、恐らくは無駄だろう。相手が強すぎる。


「これは……」


 ふと右腕を動かすと何かに触れた。見るとそれは倒れて気を失っているリンリだ。手にはテンペスターが握られている。ちらりと皆の方を見るとアジェンダ、雨刃、マスターボウの三人がデルダインに猛攻を食らわせていた。
 だが、それでも雷の速度に追いつかず翻弄されている。


「……ハァ……ハァ……おい、リンリ。大丈夫か」


 右手を少し動かしてリンリの額をトントンと叩く。反応はない。
 全身を雷に打たれて完全に気絶している。息はしているようで死んではいない。良かった。


 再び目を向けるとアジェンダが蹴り飛ばされた。だがマスターボウの魔術で衝撃を緩和されたのか途中でスピードを緩め、再びデルダインに向かっていく。
 そうしている間に雨刃に雷が浴びせられ、膝をつく。


「開け……地獄の門!」

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