最弱属性魔剣士の雷鳴轟く

相鶴ソウ

135話 奇妙な白

「居たか? アンノウン」


 正体不明の生物、呼称アンノウンを倒す為に森に入ってから約三十分。
 特に何も発見できずに森を彷徨っていた。シエラは木の上で神眼をフル活用してもらい、俺は耳を使いながら索敵していた。リンリは俺のすぐ後ろをついて来ている。
 そもそも小さいとは言っても森。そう簡単に見つかるわけが……


「クロト、あれを見るでありんす」


 どうやらアンノウンを発見したらしい。


「約十メートル先の広場でありんす」


 言われて目を凝らせば確かにおおよそ人でも魔物でもない生物が丸まっていた。


「寝てる……?」


 どんな生物でも眠るし、不思議ではないが、イメージ的には不眠不休で暴れる化物だっただけに少し違和感。ともかく寝てるってのは有利だ。奇襲できる。


「ところで、アイツはどこ行ったんだ……」


 ここに居るべき人間を探すが見渡す限りはいない。
 何があったかは知らないが、森に入ってすぐに雨刃は消えてしまった。なんの気配も音も無く、ちらっと後ろを見た時にはもう居なかった。


「仕方ない、三人でやるぞ。俺とリンリで両サイドから同時攻撃、シエラは弓での援護射撃。あとは状況に合わせて臨機応変な対応を」

「わかりました」

「了解でありんす」

「行くぞ!」


 シエラはその場で弓を構え、俺とリンリは分かれてアンノウンの両サイドに付く。
 見た感じは三角座りをした人間にも見えるがその姿もどこか異様。全身がとにかく真っ白で、のっぺりしている。シワがなくてツルンっとしているのもまた奇妙。
 話によれば触手のようなものも出せるらしいし、そういった手数相手には雨刃が頼りだったんだが、居ないものは仕方ない。


「……」


 俺は無言でリンリに頷き、合図する。森の茂みに隠れている為、音を出さずに出る事がほぼ不可能。なのでなるべく音を小さく抑えて茂みから出る。俺はテンペスターをリンリに貸しているためシュデュンヤーだけを構えてジリジリと距離を詰める。距離にしてお互いに三メートルを切った。
 リンリと顔を見合わせ、一斉に飛びかかる。
 だが、その時にリンリの足元で枝が折れたらしく、ポキっという少し大きな音がなった。


「……っ」


 アンノウンはムクっと顔を上げリンリを見る。
 リンリは何か怯えたように顔を引きつらせたが、ここまで来たら後戻りはできない。アンノウンはリンリに手をゆっくり伸ばしている。


「怯むな!」


 俺の声に合わせるように一本の矢がアンノウンの伸ばしかけていた手を貫く。
続けて俺もシュデュンヤーを振り上げて首を狙う。
 アンノウンの動きは思ったよりも遅く、矢や俺の接近に反応しきれていない。


「……取った!」


 シュデュンヤーがアンノウンの首を捉え、真っ二つに斬り裂いた。だが手応えが妙に軽い……!


「グッ……」


 反応した時には遅かった。矢で貫かれた手とは別の腕に腹を殴られ、俺は大きく後ろに飛ばされてしまう。
 宙を飛び、木に背中を強打し一瞬呼吸が止まる。


「……ゴホッ……」


 さっきまでの弱々しく遅い動きからは想像できない程の速さと力にも驚いたが、それよりも驚く事が目の前では起きていた。
 ぼやける目でアンノウンを見ると、シエラの矢で貫かれた手も、シュデュンヤーで斬り落とした首も元通りに戻っていたのだ。まるで何も無かったかのように。
 ちらりと振り返ったアンノウンの顔には本来人間ならばあるはずのパーツがたった一つしか付いていなかった。口も鼻も無く、大きな目が一つ、顔の真ん中にあるのみ。


「シエラっ!」


 アンノウンはすぐに怯えて動きの止まったリンリに狙いをつけ、のっそのっそと歩き出した。
 すかさずシエラに声を掛けると、五本の矢がアンノウンの全身を貫通し、木に突き刺さった。貫通した体は液体の様にぐにゃぐにゃに崩れかけたが、すぐに人の形へと戻った。


「不死身……いや、そんな生物居るはずがない……」



 とにかく危ないと思い、俺はシュデュンヤーを構える。が、そこで動きを止める。
 あんなにぐにゃぐにゃと姿が変わるなら遠距離技はダメだ。貫通してリンリに当たってしまう。
 考えろ、考えろ……斬り落としても貫通してもすぐに元に戻ってしまうなら……


「雷帝流奥義 紫電一閃」


 雷を足に纏い、一気に蹴り接近。そして居合の如く早抜きで空からの落雷に合わせてアンノウンを捉える。
 触れた瞬間なんの抵抗もなく右肩から胸部を弾き飛ばす。俺は勢いが止まらず、アンノウンを飛び越え、リンリの前に転がりながら着地する。


「まだまだ……雷術 雷撃ライトニングボルト


 続く雷撃で左肩を爆散。


「もう一撃!」


 更なる一撃で再生しかけていた胸部を再び爆散。上半身が完全に散ったが、恐らくはすぐに再生する。


「リンリ! ……リンリっ!」

「あ……ごめんなさい、私」

「いいから構えろ、来るぞ」


 既に人の形を取り戻したアンノウンは指先を触手のように伸ばしこちらへ迫ってくる。だが、そういう手合は雨刃との訓練でシュミレーション済み。
 俺はシュデュンヤーを地面に突き刺して手放し、両手を合わせる。


「雷術 雷撃大砲プラズマキャノン


 高電圧の電撃がアンノウンの指ごと上半身を消し飛ばす。


「リンリ」

「はい……」

「あいつの腕を落とせるか?」

「わかりました」


 既にほとんど再生しているアンノウンにリンリが一気に距離を詰める。大きな目でギョロっとリンリを見るが、特に反応はしていない。


「我流 蟷螂カマキリノ太刀」


 鋭く細い炎の斬撃がアンノウンの腕を斬り落とし、切断面を発火。燃えた事に若干ぎょっとしながらも、燃えた腕を炎が本体へ燃え移る前に自分自身で肩の付け根を断ち切って地面に落とした。
 炎が苦手なのかそれとも……


「……ッ!」


 次の瞬間、斬られたのと逆の腕がおよそ人間の関節を無視した鞭のような動きでリンリの腹部を強打。
 リンリは投げ飛ばされ、木を薙ぎ倒すほどの衝撃で森の奥へ突っ込んでいった。あれはまずい。下手したら……


「シエラ! 頼む!」


 俺はシュデュンヤーをアンノウンに向け、シエラへ叫ぶ。アンノウンは既に腕を再生させ、ギョロギョロとこちらを見つめていた。

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