最弱属性魔剣士の雷鳴轟く

相鶴ソウ

134話 正体不明

「クロトちゃん、少し話があるのよ〜いいかしら?」

「なんだ?」


 特訓は一段落にして、俺達は休憩の為にブルーバード内に入った。
 そろそろ日も暮れるし、今日はもう特訓も終わりだろう。そんな折、俺はマスターボウから声をかけられた。


「みんなも集まって頂戴!」


 マスターボウの呼び掛けで雨刃を除いた〈シルク・ド・リベルター〉のメンバー全員とシエラ、リンリ、そして俺が一つのテーブルに集まる。
 雨刃は未だに必殺技を考えている。
 ヴァランとレッグは開店前の仕込みがあるらしく、忙しそうにしている。アジェンダとマルスは少し前に出かけたっきり戻ってきていない。レオと何故かレオと一緒に居たナイアリスも仕事らしく、まだ戻ってきていない。


「さっき街に行ってきたんだけど、少し厄介事が起きてるみたいで」

「厄介事ボーンか?」

「正体不明の生物が暴れてるらしいの」

「正体不明?」

「ええ、発見されたのは一昨日の夜。討伐の依頼ですぐ近くの山に来ていた冒険者が、素早く空を斬るような音を耳にして不審に思って近づいたそうなのよ」


 すぐ近くの山、と言うのは昔俺やエヴァがグレイド達と共にクリュを奪還する為に盗賊と戦った山で、ブルーバードとセントレイシュタンに挟まれるように位置している山の事だ。


「そこで見たのがまさに正体不明の生物。一見人間の様にも見えるんだけど背中や脇下から触手の様な細長い腕が大量に生えてるらしいの」

「気持ち悪いでありんすね」

「そうなのよ〜! もう話を聞いただけで鳥肌が……」

「デ、ソイツガドウカシタノカ?」


 いつの間にか戻ってきていたらしい雨刃が席につく。必殺技は完成したのだろうか……?


「そうね、そいつは夜だけに現れるんだけど、強すぎて他の冒険者が依頼をできなくて困ってるみたいなの」

「倒スノカ?」

「ええ、正式に冒険者ギルドから依頼が来たわ」

「俺ガ行コウ」

「俺も!」

「だったら私達も行くでありんすよ」

「行きます」


 名乗りを上げたのは俺、雨刃、シエラ、リンリの四人だ。戦力的には問題なさそうだが、レオが居ないのは痛手かもしれない。


「ん〜!じゃあ決まりね! 四人にお願いするわ」

「任セロ」

「おう!」


 夜にのみ出るそうなので、時間もあまりなく、俺達は最低限の準備だけをして出発することにした。





「もう一度説明していただけますか?」

「だから、コレがオーガだったんだ」

「しかし……どう見ても人間ですよ? もしこの身元がなんの罪もない一般人だったら殺人ですよ?」

「……ナイアリス、交代だ」


 エンデルを倒し、その死体を冒険者ギルドまで運んできたのだが、依頼を受けた時に居た受付嬢とは別の受付嬢の為、話が上手く進まない。


「あの、依頼人を出してもらえますか? 行商人の人なんですけど」

「……わかりました」


 受付嬢が奥へ行くとすぐに昼間転がり込んできた行商人が出てきた。因みにリザードマンは全身に重症を負っていたらしく、奥で治療している。


「あ、昼間のお二人!」

「どうも……早速ですが、あなたが見たオーガはこの人ですか?」

「はい、確かこんな感じでした」

「えぇ!? でも人間ですよ? どう見ても」

「マール、下がってて。私が聞くから」

「あ、先輩! わかりましたー!」


 マールと呼ばれた受付嬢の肩をトンっと叩いて、昼間の受付嬢と交代した。


「ごめんなさい、少し用事があってすぐ来れませんでしたが、ご苦労さまです。この方について報告をしていただけますか?」

「ええっと……」


 ナイアリスはエンデルについてわかる範囲で答え、リザードマンについてや報酬についての話などをした。
 どうやらあのリザードマンは行商人を護衛していた助っ人らしく、エンデルが街へ行かないように食い止めていたらしい。
 終始レオはボケーッとしていたが、頭の中でも実はボケーッとしていた。


 その後報酬金貨二十枚を貰い、月間冒険者雑誌『STRONGER』の記事に載せるため、記者を待ったりとレオにとってかなり退屈な時間を過ごし、二人はやっと解放された。


「レオ、お待たせ」

「ぐがーぐがー」

「レオっ! 起きてっ!」

「レオ殿、ナイアリス殿。少々よろしいですか?」


 そこへやって来たのは手当を終え、やっと目覚めたリザードマンだった。


「あの時のリザードマン……」

至天破邪剣征流してんはじゃけんせいりゅう……」

「待って、レオ!」

「……んぁ 寝てた」

「お、おはよう……」

「誰だお前」

「行商人であるジャン殿の護衛をしていたアリゲインという者である。この度は助けていただき、誠にありがとうございます」

「あ、ああ。気にするな」

「お礼と言ってはなんですが、こちらを……」


 リザードマン、もといアリゲインが差し出したのは数枚の細長い紙の束だった。


「これは?」

「レオ、これって……」

「四ヶ月後に行われる超決闘イベントのボックス席チケットです どうかお受け取りください」

「……いら」

「ありがとうございます!」


 と、レオの口を強引に封じ、ナイアリスはチケットを受けった。
 結局その後、二人はブルーバードに戻る為に冒険者ギルドをあとにしたのだが、既に二人はこの街の冒険者界では有名になっていた。
 突然現れたアイゼンウルブスの〈舞姫〉と謎の男が〈地獄の炎帝ヘル・フォース〉のダダンを倒し、オリハルコン級指名の依頼をこなしたと噂が広まったのだ。
 当然そんな事を知らない二人は呑気に帰ったわけだが……


「なんでこんなもん受け取ったんだよ」


 レオは五枚のチケットをヒラヒラとしながらナイアリスに尋ねる。


「そんなレアな物中々手に入らない! 見るもよし、売るもよし……」


「まぁ確かにあのファリオスを直で見れるならいいかもな。お前にも一枚やるよ」

「ありがとう。でも私はもう持ってるから」

「そうなのか?」

「うん、たまたまだけどね」

「そうか」


 そんなこんなで二人はブルーバードへ帰っていった。

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