最弱属性魔剣士の雷鳴轟く
131話 一難去ってまた一難
「雷撃!!」
俺の右手から高電圧の一撃が放たれるが、ボーンマンは特に聞いた様子も無く片手で受け止めた。
「やっぱり効かないのか……どうなってるんだ?お前の体」
「…………」
「……おい、どうした?」
「…………はっ!」
「え?」
「い、いや、なんでもないボーン。いい一撃だったボンよ」
「もしかして……雷を無効化できるんじゃなくてただの……我慢?」
「そ、そんなわけ無いだろう……ボボーン……」
「だよなー」
ただの我慢なんかで雷撃を受け止められたら流石にショックだ。しかし休憩を挟んでから五戦やったが、三敗二引き分けってところだ。
そもそも打撃の殆どを完封してくる時点で厳しい。おまけに雷術も全然効いていない様子だし……
「おーい、クロト!」
「ん、シエラか」
ブルーバードからシエラとリンリが出てきた。
リンリはあの夜以降、よく顔を出すようになった。ずっとシエラにくっついてるが、恐らくは姉を亡くした悲しみを埋めようとしてるんだろう。
酒場の手伝いも始めたが、これが中々受けがいい。まぁ基本飲んだくれのおっさん共だし、女の子ってだけで嬉しいのかもな。
「どうしたんだ?」
「そろそろリハビリをしたいとリンリが言ってるでありんす。接近戦は苦手でありんすから、クロトに頼もうかと思ったでありんすよ」
「ああ、そういう事なら俺は全然いいぞ」
「あの、シエラ……」
リンリがシエラの影に隠れながら袖をクイクイっと引っ張る。
「なんでありんすか?」
「あの紫の髪の人はどこですか?刀を持った……」
「レオの事でありんすか?」
「レオなら街に仕事をしに行ったぞ」
「ほっ……」
少し安心したように胸を撫で下ろしている。
そういえば先の戦いではレオにボコボコにやられたらしい。可哀想に、トラウマになってる。
「あの人の強さは異常すぎます。そもそもあれだけの攻撃を受けて……ぶつぶつ」
まぁ、ずいぶん調子が戻ってきたみたいでよかった。暫くは気にかけてやらないとな。
「リハビリをするってなら付き合うぜ。おい! 雨刃!」
「究極、運命、厄災、審判、悪夢……ブツブツ……ブツブツ……」
まだ言ってたのか……
俺の黒帝流や雷帝流の技名は基本的に本で呼んだ名前を採用してるけど……一から考えるのは大変そうだ……
「しかたない、俺がやろう」
「お願いします」
◇
セントレイシュタン冒険者ギルド前にて。レオの刀はダダンの首をほんの少し斬って止まった。
衝撃のせいで風が駆け抜け、髪を揺らすが首は繋がっている。ダダンはヘナヘナと座り込み、恐れるようにレオを見上げる。
「う、うわぁ……」
そのまま一目散に走り出し、パーティメンバーもそれにつられて一緒に走っていった。
実に呆気ない。レオは心の中でこんな簡単に戦意が喪失した事を情けなく思いながらもミスリル級も大したこと無いなと一人で満悦に浸っていた。
「レオ! 大丈夫?」
「ああ、全く問題ない」
「そう、でもすごいわね……あのダダン相手に」
「言うほど強くなかったぞ」
「炎帝を使ってあそこまで渡り合えるのは中々のものよ」
「何度か体中から炎を出したのは謎だったが……」
「ああ、あれはね……」
レオとダダンとの戦いの中、何度か突然登場した不可解な炎。
詠唱も無く、体のどんな部分でも、それこそダダンが認識できない死角からの攻撃をも止めたのはダダンの力ではなくパーティメンバーの力だ。
つまり、レオの攻撃に合わせてダダンのパーティメンバーが炎術を発動し防いでいたのだ。
「……だからパーティメンバーが見きれない程の攻撃では炎は出なかったし、最後は私が抑えたから出なかったよ」
「なるほどな……助かった、ありがとう。しかし助けてもらわなかったら最後の一撃も防がれた、か……まだまだだな」
「なにか目標があるの?」
「最強」
「……最強」
既に最強の部類に片足を突っ込んでいる……という言葉をナイアリスは押し殺す。
言ってもレオが納得するはずがないし、そもそもレオが目指しているのは将軍やオリハルコン級冒険者のレベルだろう。生半可な強さでは満足できないみたいだし……
「じゃあ次の超決闘イベントは行くの?」
「……んー、クロトに合わせる。おれ達のリーダーだしな」
「あ、でも今からじゃチケット取れないかもね」
「チケット?」
「うん、入場するにはチケットが必要で、それも完売したって噂よ。全国から人が集まってるみたい まぁ今までこんなイベント無かったし、みんな浮かれてるのはわかるけど……」
レオとナイアリスはギルド内の掲示板を眺めながら超決闘イベントについて話し合う。そこへ一人の男が倒れ込むようにギルドへ入ってきた。
服装からして行商人らしいが、所々から流血しており、“何かがあった”という事は一目瞭然だった。
すぐさまギルドの受付嬢が駆け寄り、手を差し伸べる。
「た、助けてくれ!」
「落ち着いてください。どうされました?」
「お、俺達は南東のディルという街から荷物を届けに来たんだ。だが、途中の森でオ、オーガに出会ったんだ」
「オーガ?」
「オーガっつってもそこまで強いわけじゃねーだろう」
「そもそもこの辺りにオーガは出ないぞ」
周りの冒険者たちは若干訝しげにその行商人を見る。
「ほ、本当なんだ! 馬車を腕の一振りで破壊して、俺以外の仲間は……」
目に涙を浮かべながら悔しそうに握り拳を握る行商人を見て、周りの冒険者達も憐れみの視線を投げかける。
「とにかく落ち着いてください 依頼を発注すれば……」
「おれが受ける」
「ちょっとレオ?」
「あ、あなたは?」
「ゴールド級冒険者のレオだ」
「わ、私も一応冒険者よ」
「……悪いがゴールド級じゃだめだ オリハルコンを、〈紅の伝説〉を呼んでくれ!
そうかミスリルの〈地獄の炎帝〉を!」
「……ではレオさん、ナイアリスさん。この依頼、よろしくお願いします」
受付嬢は行商人を無視して依頼をレオとナイアリスに任せた。
本来なら依頼者の希望通りオリハルコン級、もしくはミスリル級の冒険者を待つべきなんだろうが、この受付嬢も見ていたのだ。レオとダダンの戦いを。
実力は十分。加えてこのナイアリスがこの間アイゼンウルブスで起きたゴブリン襲撃事件を解決した一人である事も知っていた。
レオについてはクロトが伏せた為わからなかったが、〈舞姫〉のナイアリスと言えばその名は結構通ってる。
実は迷子になっていただけなのだが……
「この方達は先程ミスリル級冒険者パーティのリーダー、ダダンさんを倒していらっしゃいます」
「ダ、ダダンを……」
「よろしいですね?」
「は、はい……どうか、どうかよろしくお願いします。ほ、報酬は……」
行商人が報酬の話をする為に顔を上げると、そこにはもう二人の姿はなかった。受付嬢が依頼を頼んだ段階で既にギルドから出ていた。
行商人が襲われたという森の場所も、オーガの特徴も何も知らずに……
俺の右手から高電圧の一撃が放たれるが、ボーンマンは特に聞いた様子も無く片手で受け止めた。
「やっぱり効かないのか……どうなってるんだ?お前の体」
「…………」
「……おい、どうした?」
「…………はっ!」
「え?」
「い、いや、なんでもないボーン。いい一撃だったボンよ」
「もしかして……雷を無効化できるんじゃなくてただの……我慢?」
「そ、そんなわけ無いだろう……ボボーン……」
「だよなー」
ただの我慢なんかで雷撃を受け止められたら流石にショックだ。しかし休憩を挟んでから五戦やったが、三敗二引き分けってところだ。
そもそも打撃の殆どを完封してくる時点で厳しい。おまけに雷術も全然効いていない様子だし……
「おーい、クロト!」
「ん、シエラか」
ブルーバードからシエラとリンリが出てきた。
リンリはあの夜以降、よく顔を出すようになった。ずっとシエラにくっついてるが、恐らくは姉を亡くした悲しみを埋めようとしてるんだろう。
酒場の手伝いも始めたが、これが中々受けがいい。まぁ基本飲んだくれのおっさん共だし、女の子ってだけで嬉しいのかもな。
「どうしたんだ?」
「そろそろリハビリをしたいとリンリが言ってるでありんす。接近戦は苦手でありんすから、クロトに頼もうかと思ったでありんすよ」
「ああ、そういう事なら俺は全然いいぞ」
「あの、シエラ……」
リンリがシエラの影に隠れながら袖をクイクイっと引っ張る。
「なんでありんすか?」
「あの紫の髪の人はどこですか?刀を持った……」
「レオの事でありんすか?」
「レオなら街に仕事をしに行ったぞ」
「ほっ……」
少し安心したように胸を撫で下ろしている。
そういえば先の戦いではレオにボコボコにやられたらしい。可哀想に、トラウマになってる。
「あの人の強さは異常すぎます。そもそもあれだけの攻撃を受けて……ぶつぶつ」
まぁ、ずいぶん調子が戻ってきたみたいでよかった。暫くは気にかけてやらないとな。
「リハビリをするってなら付き合うぜ。おい! 雨刃!」
「究極、運命、厄災、審判、悪夢……ブツブツ……ブツブツ……」
まだ言ってたのか……
俺の黒帝流や雷帝流の技名は基本的に本で呼んだ名前を採用してるけど……一から考えるのは大変そうだ……
「しかたない、俺がやろう」
「お願いします」
◇
セントレイシュタン冒険者ギルド前にて。レオの刀はダダンの首をほんの少し斬って止まった。
衝撃のせいで風が駆け抜け、髪を揺らすが首は繋がっている。ダダンはヘナヘナと座り込み、恐れるようにレオを見上げる。
「う、うわぁ……」
そのまま一目散に走り出し、パーティメンバーもそれにつられて一緒に走っていった。
実に呆気ない。レオは心の中でこんな簡単に戦意が喪失した事を情けなく思いながらもミスリル級も大したこと無いなと一人で満悦に浸っていた。
「レオ! 大丈夫?」
「ああ、全く問題ない」
「そう、でもすごいわね……あのダダン相手に」
「言うほど強くなかったぞ」
「炎帝を使ってあそこまで渡り合えるのは中々のものよ」
「何度か体中から炎を出したのは謎だったが……」
「ああ、あれはね……」
レオとダダンとの戦いの中、何度か突然登場した不可解な炎。
詠唱も無く、体のどんな部分でも、それこそダダンが認識できない死角からの攻撃をも止めたのはダダンの力ではなくパーティメンバーの力だ。
つまり、レオの攻撃に合わせてダダンのパーティメンバーが炎術を発動し防いでいたのだ。
「……だからパーティメンバーが見きれない程の攻撃では炎は出なかったし、最後は私が抑えたから出なかったよ」
「なるほどな……助かった、ありがとう。しかし助けてもらわなかったら最後の一撃も防がれた、か……まだまだだな」
「なにか目標があるの?」
「最強」
「……最強」
既に最強の部類に片足を突っ込んでいる……という言葉をナイアリスは押し殺す。
言ってもレオが納得するはずがないし、そもそもレオが目指しているのは将軍やオリハルコン級冒険者のレベルだろう。生半可な強さでは満足できないみたいだし……
「じゃあ次の超決闘イベントは行くの?」
「……んー、クロトに合わせる。おれ達のリーダーだしな」
「あ、でも今からじゃチケット取れないかもね」
「チケット?」
「うん、入場するにはチケットが必要で、それも完売したって噂よ。全国から人が集まってるみたい まぁ今までこんなイベント無かったし、みんな浮かれてるのはわかるけど……」
レオとナイアリスはギルド内の掲示板を眺めながら超決闘イベントについて話し合う。そこへ一人の男が倒れ込むようにギルドへ入ってきた。
服装からして行商人らしいが、所々から流血しており、“何かがあった”という事は一目瞭然だった。
すぐさまギルドの受付嬢が駆け寄り、手を差し伸べる。
「た、助けてくれ!」
「落ち着いてください。どうされました?」
「お、俺達は南東のディルという街から荷物を届けに来たんだ。だが、途中の森でオ、オーガに出会ったんだ」
「オーガ?」
「オーガっつってもそこまで強いわけじゃねーだろう」
「そもそもこの辺りにオーガは出ないぞ」
周りの冒険者たちは若干訝しげにその行商人を見る。
「ほ、本当なんだ! 馬車を腕の一振りで破壊して、俺以外の仲間は……」
目に涙を浮かべながら悔しそうに握り拳を握る行商人を見て、周りの冒険者達も憐れみの視線を投げかける。
「とにかく落ち着いてください 依頼を発注すれば……」
「おれが受ける」
「ちょっとレオ?」
「あ、あなたは?」
「ゴールド級冒険者のレオだ」
「わ、私も一応冒険者よ」
「……悪いがゴールド級じゃだめだ オリハルコンを、〈紅の伝説〉を呼んでくれ!
そうかミスリルの〈地獄の炎帝〉を!」
「……ではレオさん、ナイアリスさん。この依頼、よろしくお願いします」
受付嬢は行商人を無視して依頼をレオとナイアリスに任せた。
本来なら依頼者の希望通りオリハルコン級、もしくはミスリル級の冒険者を待つべきなんだろうが、この受付嬢も見ていたのだ。レオとダダンの戦いを。
実力は十分。加えてこのナイアリスがこの間アイゼンウルブスで起きたゴブリン襲撃事件を解決した一人である事も知っていた。
レオについてはクロトが伏せた為わからなかったが、〈舞姫〉のナイアリスと言えばその名は結構通ってる。
実は迷子になっていただけなのだが……
「この方達は先程ミスリル級冒険者パーティのリーダー、ダダンさんを倒していらっしゃいます」
「ダ、ダダンを……」
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