最弱属性魔剣士の雷鳴轟く

相鶴ソウ

120話 始まりと再会の風

 目を覚ますとやっと見慣れてきた天井が広がっていた。ブルーバードの奥にある部屋の数々、その中の一つ。
 ここに来てから既に二週間が過ぎていた。俺やレオ、シエラは傷も治り、体力も回復していた。


「いてて……」


 体を起こすと全身が悲鳴を上げ、俺に痛みを訴える。この痛みは魔王との戦いでの痛みではなく、ブルーバードでこき使われた結果だ。


「さて、今日も働くかな」


 俺はブルーバードを手伝い、レオはセントレイシュタンにある冒険者ギルドで依頼を受け、こなしている。もちろん冒険者の依頼の方が金は稼げるが、今の目的は稼ぐことではないし、ヴァラン達に礼もしたいので俺はブルーバードで働いている。


「じゃあ、行ってくるな エヴァ」


 俺は隣のベッドで、未だ寝たきりのエヴァに挨拶をし、部屋を出た。二週間経っても特に目覚める気配はない。今でこそ少し落ち着いてはいるが、最初の一週間は特に死ぬんじゃないかと気が気じゃなかったな。
 今もその危険が去ったわけじゃないが少しは安心していいとドクターが言っていた。体は衰弱し、体力も落ちているが体からは生命のエネルギーを感じる、らしい。


 廊下を進み、ある一室の前で止まる。ここ二週間、何度も来た場所だ。エヴァとは別の意味で心配なリンリの寝ている部屋。
 ブルーバードに着いてから数日後には目を覚ましたリンリだが、気を失う寸前の記憶……つまりはフロリエルにエンリが殺された記憶は残っていたのだ。俺は今の状況やエンリについて一通り話してみたが、逆効果で部屋から出てくる事は無かった。
 どうしようかと手をこまねいているとシエラが『女の子同士わかり合えるかもしれないでありんす』と言って部屋に入っていった。
 それから一週間と少し。未だリンリが部屋から出てくる事は無いが、大丈夫だろうか……


「よぉ、クロト」

「お、起きたか」


 少し前の事を思い出しながらブルーバードの本体、酒場に入るとマルスとヴァランが居た。もちろんレッグもだ。


「あ、ああ。おはよう」


 人の気も知らずにこいつらは朝から酒か。いや、気にされてもこそばゆくて困るが。


「おう、そうだ。クロト」

「ん?」


 何かを思い出したようにヴァランは手を叩く。今日は少しなまった体を動かしに森へ行こうかと思っていたんだが、何か用事だろうか。


「客人が来てるぜ」





 ヴァランに言われて外に出てみると少し暖かくなってきた気持ちのいい風が吹き抜けた。天気も晴れで気持ちがいい。
 客人って誰だろう。と思いながら見渡すと、ブルーバードの敷地の中に一人の女が立っていた。赤い髪を一つにまとめ、風になびいている。肌の露出が多く、ビキニアーマーというらしい銀のそれは、太陽の光を受けてチカチカ光っている。
 巨大な斧を担ぎ、丘に立つその姿はどこかの物語に出てきそうだとさえ思う。


「久しぶりだな、アジェンダ」

「ん……あ、クロト! 久しぶりね」


 アジェンダは三年と半年前、一緒にサラマンダーを倒した仲だ。この間知った超決闘イベントにも参加するオリハルコン級冒険者。実力で言えば俺の知ってる中では上位三名に入ってくる。


「超決闘イベント、聞いたよ」

「あ、ああ……それ……なんだけどね……」

「ん?どうしたんだ?」


 急に決まりの悪そうに、関節が固まったみたいな動きに変わった。


「緊張してんだとよ」


 ブルーバードから出てきたマルスが俺にそう教えてくれる。


「緊張?」


 確かに大観衆の前で帝国最強の剛力将軍と戦うわけだから、緊張ぐらいするか……でもここまでって、紅の伝説が泣くぞ。


「これでファリオスに負けたらヘタレの伝説と呼んでやるよ」


 大口を開けて笑いながらマルスは再びブルーバードの中に入っていった。


「ぐぬぬ、マルスめ……」

「強い奴と戦えるなら戦いを楽しめばいいんじゃないか? 俺の仲間にレオって奴が居るんだが、ファリオスと戦えるなんて聞いたら踊りだす勢いだ」

「……確かに、そうかも。でも、私がファリオスと対等に戦えるか、不安なのよ」


 オリハルコン級に選ばれてる時点で実力者なのは事実だし、ファリオスとも渡り合えると思うんだがな。


「ほら、前にサラマンダーと戦った時も私だけ気を失ったし……」


 そういえばそうだったな。確か尻尾に弾かれたんだったか。今もその時と同じビキニアーマーを着けている。ビキニアーマー……


「装備から見直してみたらいいんじゃないか? 全身甲冑にしてみるとか」

「それだけは勘弁……最も動きを邪魔しないからこの鎧を好んでるのに」

「なるほど……じゃあせめて新しいものにするとか」

「なるほど……それは確かにありだな。こいつももう五年近く連れ添ってるし……」


 と、胸の部分を撫でる。よく見ればボロボロな所が目立つ。


「クロト!」

「お? 噂をすれば……レオ!」


 丁度依頼から帰ってきたらしい。また服が汚れている。


「ん、誰だ?」

「アジェンダだ。今度ファリオスと戦うオリハルコン級冒険者〈紅の伝説〉の」

「……そうか」


 何でも無い風を装っているが、レオの目に闘志が宿るのを俺は見逃さなかった。

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