最弱属性魔剣士の雷鳴轟く
118話 夜空の星
その夜。
ブルーバードは確か、ヘレリル公爵領の中心に栄えるセントレイシュタンのすぐ近くにあったよな。
最短で行けば明日の昼には着くだろう。帰るのは三年……とちょっとぐらいか。ヴァランやレッグ、元気かな。エリックやビリーも。忘れてたけどマルスもブルーバードに帰ったんだったよな。アジェンダとも久しぶりに会えるかもしれない。
超決闘イベントに出るんだったよな。会ったら一度勝負してほしいところだ。
「クロト、見張り変わるでありんすよ」
「ああ、頼む」
俺は毛布に包まり、木の幹にもたれ掛かる。レオは毛布もかけずに銀月を抱えながら目を閉じている。熟睡してるわけじゃないだろうけど、よく眠ってるように見える。
四魔王との戦いからまだ一日も経ってない。全員かなり疲労してる。
少し寝て、またシエラと見張りを変わってやろう。
「……ん?」
寝ようと落ち着いたところで、違和感を感じ思わず目を開けた。
「どうしたでありんすか?」
「いや、今まで寝る時はエヴァがくっついて来てたから……」
「寂しいんでありんすか?」
普段あまりそういう顔はしないシエラだが、今はにやぁっと広角を上げこっちを見ている。シエラもこんな表情するんだな。
でも、そうだな……
「……寂しい、かな」
エヴァとリンリはあまり動かすのも良くないというシエラの意見で、二人は馬車の中にいる。
そういえば俺、必死だったとはいえエヴァに愛してやるなんて言ったんだよな。その気持ちは嘘ではないし、エヴァの事は好きだが、我ながらくさいセリフを吐いたな。
エヴァ以外に聞かれてないのが唯一の救いだ。そーいえば返事聞きそびれたな。
まぁいいか、次目覚めた時で……
色々な思想を巡らせるうちに俺は気づかぬ内に眠りについた。
その後日の登る三時間程前に目を覚まし、シエラと見張りを交代していたレオと交代した。
「…………」
じっとしているのもなんだか気持ちが悪かった俺は馬車の中を覗く。
イザベラさんとエンリには全身、エヴァとリンリには顔が出るように毛布をかけている。外が寒い今の時期じゃなかったら腐っていたかもしれない。
二人も寒くないだろうか。
……少し、歩こうかな。
俺はじっとしているのも嫌で、野営地を少し離れ森を歩いていた。と言っても見張りを放棄するわけにはいかないので常に耳を集中させ、野営地周辺を常に警戒する。
空を見上げると数百、いや数千を越える星が夜空に散っていた。
昔よく聞いた話、死んだ人は星になって空から見守ってくれる、と。だが、俺はその話を聞くたびに、見守ってくれなくていいから生きていてほしい、と思う。
「綺麗だな」
◇
ヘレリル公爵領のほぼ中心に位置する『セントレイシュタン』。エルトリア帝国城下町に次いで繁栄してるとされる都市。その北側には昔クロト達が壊滅させた盗賊団が根城にしていた山があり、その山を挟んだ高台にブルーバードはあった。
距離にすれば十分十五分の距離ではあるが、山に隠れてしまっているのと、山から魔物が下りてくる危険性を考え、あまりそちら側に近づく者は居ない。故に知る人ぞ知る、秘密の酒場……というコンセプトで経営しているのがブルーバードだ。
「レッグ、そこの雑巾取ってくれ」
ブルーバードの頭にしてオーナーのヴァランだ。スキンヘッドの強面で、怖がられやすいがそこまで怖くない。水術、波術を自在に使い実力も確か。
「ほらよ」
ヴァランの呼びかけに答え、雑巾を投げたのはブルーバードのバーテンダー、レッグ。紫の髪をつんつんに尖らせ、サングラスを掛けた男。
信用した相手にしか酒を出さないというポリシーを持っており、商売に向かないその性分を直せと何度もヴァランに注意されている。
また、情報屋としても有名でずっとバーカウンターでグラスを磨いているにも関わらず、大陸の端から端まで、あらゆる場所の出来事を把握しており、またその根幹の部分すらも熟知している。
尚、情報源は不明である。
二人は現在ブルーバードの掃除中である。
昼間は空のブルーバードも夜になれば満席になるほど賑わう為、仕入れや掃除は昼間のうちからやるのだ。
従業員は二人しかおらず、臨時で働いていたクロト達も今はいない。だが、従業員としてではなく客人として、今はマルスが奥で寝ている。
「さて、次は……と」
ヴァランがテーブルを拭き終え、窓の掃除に入ろうとしたところでドアが開き、扉の上部に括り付けてある鈴が音を立てる。
「いらっしゃい、悪いがまだ開いてねーぞ」
ヴァランは来客に背を向けたまま窓を拭き続けている。レッグは既に来客を確認し、特に何も言わずにグラスを磨いている。
「そりゃ、悪いな」
来客の声に僅かながら聞き覚えのあったヴァランはもしやと一瞬期待を抱くが、すぐに違うと思い直し、振り返りもせずに窓を拭き続けている。
「悪いと言えば俺達は客じゃないぞ。相変わらず汚いな、この酒場は」
思わず振り返ったヴァランは懐かしい姿を見た。
真っ黒な髪にボロボロの服、腰には剣が二本。一本はヴァランのよく知る鞘の赤い剣で、もう一本は見たことのない黒い剣だ。その後ろには刀を持った紫髪の青年と弓を担いだ青髪の女性が金髪の女性と白髪の女性を背負っている。
「クロトか!」
「久しぶりだな。ヴァラン、レッグ」
ブルーバードは確か、ヘレリル公爵領の中心に栄えるセントレイシュタンのすぐ近くにあったよな。
最短で行けば明日の昼には着くだろう。帰るのは三年……とちょっとぐらいか。ヴァランやレッグ、元気かな。エリックやビリーも。忘れてたけどマルスもブルーバードに帰ったんだったよな。アジェンダとも久しぶりに会えるかもしれない。
超決闘イベントに出るんだったよな。会ったら一度勝負してほしいところだ。
「クロト、見張り変わるでありんすよ」
「ああ、頼む」
俺は毛布に包まり、木の幹にもたれ掛かる。レオは毛布もかけずに銀月を抱えながら目を閉じている。熟睡してるわけじゃないだろうけど、よく眠ってるように見える。
四魔王との戦いからまだ一日も経ってない。全員かなり疲労してる。
少し寝て、またシエラと見張りを変わってやろう。
「……ん?」
寝ようと落ち着いたところで、違和感を感じ思わず目を開けた。
「どうしたでありんすか?」
「いや、今まで寝る時はエヴァがくっついて来てたから……」
「寂しいんでありんすか?」
普段あまりそういう顔はしないシエラだが、今はにやぁっと広角を上げこっちを見ている。シエラもこんな表情するんだな。
でも、そうだな……
「……寂しい、かな」
エヴァとリンリはあまり動かすのも良くないというシエラの意見で、二人は馬車の中にいる。
そういえば俺、必死だったとはいえエヴァに愛してやるなんて言ったんだよな。その気持ちは嘘ではないし、エヴァの事は好きだが、我ながらくさいセリフを吐いたな。
エヴァ以外に聞かれてないのが唯一の救いだ。そーいえば返事聞きそびれたな。
まぁいいか、次目覚めた時で……
色々な思想を巡らせるうちに俺は気づかぬ内に眠りについた。
その後日の登る三時間程前に目を覚まし、シエラと見張りを交代していたレオと交代した。
「…………」
じっとしているのもなんだか気持ちが悪かった俺は馬車の中を覗く。
イザベラさんとエンリには全身、エヴァとリンリには顔が出るように毛布をかけている。外が寒い今の時期じゃなかったら腐っていたかもしれない。
二人も寒くないだろうか。
……少し、歩こうかな。
俺はじっとしているのも嫌で、野営地を少し離れ森を歩いていた。と言っても見張りを放棄するわけにはいかないので常に耳を集中させ、野営地周辺を常に警戒する。
空を見上げると数百、いや数千を越える星が夜空に散っていた。
昔よく聞いた話、死んだ人は星になって空から見守ってくれる、と。だが、俺はその話を聞くたびに、見守ってくれなくていいから生きていてほしい、と思う。
「綺麗だな」
◇
ヘレリル公爵領のほぼ中心に位置する『セントレイシュタン』。エルトリア帝国城下町に次いで繁栄してるとされる都市。その北側には昔クロト達が壊滅させた盗賊団が根城にしていた山があり、その山を挟んだ高台にブルーバードはあった。
距離にすれば十分十五分の距離ではあるが、山に隠れてしまっているのと、山から魔物が下りてくる危険性を考え、あまりそちら側に近づく者は居ない。故に知る人ぞ知る、秘密の酒場……というコンセプトで経営しているのがブルーバードだ。
「レッグ、そこの雑巾取ってくれ」
ブルーバードの頭にしてオーナーのヴァランだ。スキンヘッドの強面で、怖がられやすいがそこまで怖くない。水術、波術を自在に使い実力も確か。
「ほらよ」
ヴァランの呼びかけに答え、雑巾を投げたのはブルーバードのバーテンダー、レッグ。紫の髪をつんつんに尖らせ、サングラスを掛けた男。
信用した相手にしか酒を出さないというポリシーを持っており、商売に向かないその性分を直せと何度もヴァランに注意されている。
また、情報屋としても有名でずっとバーカウンターでグラスを磨いているにも関わらず、大陸の端から端まで、あらゆる場所の出来事を把握しており、またその根幹の部分すらも熟知している。
尚、情報源は不明である。
二人は現在ブルーバードの掃除中である。
昼間は空のブルーバードも夜になれば満席になるほど賑わう為、仕入れや掃除は昼間のうちからやるのだ。
従業員は二人しかおらず、臨時で働いていたクロト達も今はいない。だが、従業員としてではなく客人として、今はマルスが奥で寝ている。
「さて、次は……と」
ヴァランがテーブルを拭き終え、窓の掃除に入ろうとしたところでドアが開き、扉の上部に括り付けてある鈴が音を立てる。
「いらっしゃい、悪いがまだ開いてねーぞ」
ヴァランは来客に背を向けたまま窓を拭き続けている。レッグは既に来客を確認し、特に何も言わずにグラスを磨いている。
「そりゃ、悪いな」
来客の声に僅かながら聞き覚えのあったヴァランはもしやと一瞬期待を抱くが、すぐに違うと思い直し、振り返りもせずに窓を拭き続けている。
「悪いと言えば俺達は客じゃないぞ。相変わらず汚いな、この酒場は」
思わず振り返ったヴァランは懐かしい姿を見た。
真っ黒な髪にボロボロの服、腰には剣が二本。一本はヴァランのよく知る鞘の赤い剣で、もう一本は見たことのない黒い剣だ。その後ろには刀を持った紫髪の青年と弓を担いだ青髪の女性が金髪の女性と白髪の女性を背負っている。
「クロトか!」
「久しぶりだな。ヴァラン、レッグ」
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