最弱属性魔剣士の雷鳴轟く
114話 エヴァの過去
エヴァの発した一言に、俺はしばらくただ見返す事しか出来なかった。
心の何処かでなんとなく想像していた事が、いざ言葉にして聞かされると俺の思考は止まってしまった。
「な、何言ってんだよ」
「お願い……もう……」
その瞳には嘘や誤魔化しは一切無い。心の底からエヴァは死にたがっている。
「もう二度も使わないって決めた黒氷を使った……一度目はクロトを傷つけた。これが続けばいつかクロトを……それだけじゃない、いつかクロトに嫌われるかもしれない……」
「そんな事……」
果たして軽々しく“思わない”なんて言ってもいいんだろうか。違う、そんな言葉を掛けてもなんの気休めにもならない。
こんな時……なんて言うんだ……
「生まれてから、誰にも愛されてこなかった……もう、生きる意味が私にはない。皆を傷付けてしまうくらいなら……死にたいよ……」
「エヴァ……」
……そうか、もっとシンプルでいいんだ。
俺が思った事をそのまま伝えればいいんだ。
「俺が……俺が愛してやる」
「え……」
「今まで愛されなかった分も、俺が愛してやる。怖いと思う気持ちは俺が一緒に分かち合ってやる。だがら……死ぬなんて言うな」
「…………」
エヴァが目を見開き、涙がポロリと頬を伝う。
その時、不意に覗いたエヴァの胸元から黒い石が見えた。闇の魔石……黒氷の原因であり、エヴァの父親が埋め込んだもの。何故かはわからないけれど、俺の手は不思議とそこへ引き込まれた。
そして、人差し指が魔石に触れた時……俺は夢を見ていたような気がする。長い長い、エヴァリオンという少女の人生を……
◇
私は寒い冬の日に生まれたらしい。
ハルバード家最期の代、つまり私の母上と父上は中々子に恵まれず、私は待ちに待った希望だったそうだ。私をお腹に宿した母上、そしてそれを知った父上は泣いて喜んだ。
私が女児だとわかるまでは。
当時から女公爵は存在していた。
エルフやドワーフ等の妖精族で形成された完全実力主義のエレノア公爵がそうだ。だが、女公爵に向けられる視線は不安や疎み、不信等様々だが総じてプラスな物は少ない。エレノア公爵はそれを持ち前の計算高さと人望、更には策略の上手さで黙らせた……だがそれはエレノア公爵だから、という部分も多く誰でもできるかと言われれば否定せざる得ない。
ハルバードの名に人一倍強いこだわりと誇りを持っていた父上、そしてそれに感化された母上は嘆くと同時に私を恨んだ。
女公爵というだけで名が穢れるという考えを持っていたからだ。
母上と父上は私に厳しく、冷たかった。
両親は男子でなかった事に大きなショックを受け、心に病を背負っているのだ……と、幼心の私は思ったのを今でも覚えている。
それでも、まだ十歳にも満たなかった私にはとても辛く、荒んだ幼少期を過ごしたと自分でも思う。
どうにも抑えきれなくなった時、私はよく使用人の一人で、よく世話をしてくれるレボを頼った。レボは見た目こそ白髪のおじさんだが、魔術がとても上手かった。
「ねぇ、レボ」
「なんでしょう? エヴァお嬢様」
「私は生まれない方が良かったのかな……」
「……!? ……そんなことはありません」
「でも、母上は……父上は……」
「エヴァお嬢様のお母上、お父上はハルバード公爵家を背負っておられます。そこについて回る責任や苦労を知っておられます。それをエヴァお嬢様に味合わせたくないという想いが、冷たさを生んでしまうのではないでしょうか。お父上……いえ、スザルク・ハルバード様は不器用なのです。お母上もエヴァお嬢様を愛しておられます。お二人を信じてあげてください」
「よくわからないよ」
「まだ難しかったですね。いずれ、エヴァ様にもわかる日が来ます」
「いつ?」
「そうですね……エヴァ様にも守りたい物が出来た時、きっとわかるはずです」
「うーん……」
あの時のレボの言葉は幼い私には理解出来ず、でも生まれてきても良かったんだという安心感が胸に広がったのを鮮明に覚えてる。
その後私以外の子に恵まれることはなく、私がハルバード公爵を継ぐことはほぼ決定された。最初はかなり冷たく扱われた私だったが、そうとわかると父上は私に魔術を教え込むようになった。恐らく、魔術に卓越しているハルバード家の名をこれ以上汚さないようにだろう。
けれど私は病弱で、魔術の訓練中に倒れる事がよくあった。そしてレボの言う通り、苛立ちを完全に隠し切るほど父上は器用ではなかった。次第に教え方は雑になり、出来ない私に暴力を振るうようになった。
恐怖を感じなかったといえば嘘になる。
それでも私は今まで相手にしくれなかった父上が、初めて私に対してしてくれる事に、心の何処かで嬉しいと感じていた。もちろん、魔術を教えてくれることに対して。
この時のことをレボに話すと「スザルク様はエヴァ様の事を愛しておられます」としか答えてくれなかったが……
そうして更に時は経つ。
心の何処かでなんとなく想像していた事が、いざ言葉にして聞かされると俺の思考は止まってしまった。
「な、何言ってんだよ」
「お願い……もう……」
その瞳には嘘や誤魔化しは一切無い。心の底からエヴァは死にたがっている。
「もう二度も使わないって決めた黒氷を使った……一度目はクロトを傷つけた。これが続けばいつかクロトを……それだけじゃない、いつかクロトに嫌われるかもしれない……」
「そんな事……」
果たして軽々しく“思わない”なんて言ってもいいんだろうか。違う、そんな言葉を掛けてもなんの気休めにもならない。
こんな時……なんて言うんだ……
「生まれてから、誰にも愛されてこなかった……もう、生きる意味が私にはない。皆を傷付けてしまうくらいなら……死にたいよ……」
「エヴァ……」
……そうか、もっとシンプルでいいんだ。
俺が思った事をそのまま伝えればいいんだ。
「俺が……俺が愛してやる」
「え……」
「今まで愛されなかった分も、俺が愛してやる。怖いと思う気持ちは俺が一緒に分かち合ってやる。だがら……死ぬなんて言うな」
「…………」
エヴァが目を見開き、涙がポロリと頬を伝う。
その時、不意に覗いたエヴァの胸元から黒い石が見えた。闇の魔石……黒氷の原因であり、エヴァの父親が埋め込んだもの。何故かはわからないけれど、俺の手は不思議とそこへ引き込まれた。
そして、人差し指が魔石に触れた時……俺は夢を見ていたような気がする。長い長い、エヴァリオンという少女の人生を……
◇
私は寒い冬の日に生まれたらしい。
ハルバード家最期の代、つまり私の母上と父上は中々子に恵まれず、私は待ちに待った希望だったそうだ。私をお腹に宿した母上、そしてそれを知った父上は泣いて喜んだ。
私が女児だとわかるまでは。
当時から女公爵は存在していた。
エルフやドワーフ等の妖精族で形成された完全実力主義のエレノア公爵がそうだ。だが、女公爵に向けられる視線は不安や疎み、不信等様々だが総じてプラスな物は少ない。エレノア公爵はそれを持ち前の計算高さと人望、更には策略の上手さで黙らせた……だがそれはエレノア公爵だから、という部分も多く誰でもできるかと言われれば否定せざる得ない。
ハルバードの名に人一倍強いこだわりと誇りを持っていた父上、そしてそれに感化された母上は嘆くと同時に私を恨んだ。
女公爵というだけで名が穢れるという考えを持っていたからだ。
母上と父上は私に厳しく、冷たかった。
両親は男子でなかった事に大きなショックを受け、心に病を背負っているのだ……と、幼心の私は思ったのを今でも覚えている。
それでも、まだ十歳にも満たなかった私にはとても辛く、荒んだ幼少期を過ごしたと自分でも思う。
どうにも抑えきれなくなった時、私はよく使用人の一人で、よく世話をしてくれるレボを頼った。レボは見た目こそ白髪のおじさんだが、魔術がとても上手かった。
「ねぇ、レボ」
「なんでしょう? エヴァお嬢様」
「私は生まれない方が良かったのかな……」
「……!? ……そんなことはありません」
「でも、母上は……父上は……」
「エヴァお嬢様のお母上、お父上はハルバード公爵家を背負っておられます。そこについて回る責任や苦労を知っておられます。それをエヴァお嬢様に味合わせたくないという想いが、冷たさを生んでしまうのではないでしょうか。お父上……いえ、スザルク・ハルバード様は不器用なのです。お母上もエヴァお嬢様を愛しておられます。お二人を信じてあげてください」
「よくわからないよ」
「まだ難しかったですね。いずれ、エヴァ様にもわかる日が来ます」
「いつ?」
「そうですね……エヴァ様にも守りたい物が出来た時、きっとわかるはずです」
「うーん……」
あの時のレボの言葉は幼い私には理解出来ず、でも生まれてきても良かったんだという安心感が胸に広がったのを鮮明に覚えてる。
その後私以外の子に恵まれることはなく、私がハルバード公爵を継ぐことはほぼ決定された。最初はかなり冷たく扱われた私だったが、そうとわかると父上は私に魔術を教え込むようになった。恐らく、魔術に卓越しているハルバード家の名をこれ以上汚さないようにだろう。
けれど私は病弱で、魔術の訓練中に倒れる事がよくあった。そしてレボの言う通り、苛立ちを完全に隠し切るほど父上は器用ではなかった。次第に教え方は雑になり、出来ない私に暴力を振るうようになった。
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