最弱属性魔剣士の雷鳴轟く

相鶴ソウ

111話 絶体絶命

 クロトとイザベラ、エンリ達とレオの激闘が行われている二箇所とはまた別の場所。
 そこは特に広場にはなっていなかったが、二人の実力者が激戦を繰り広げていた。


「痕跡は消したはずだけど!」


 飛んでくる矢を自らの土盾ではたき落としているのは四魔王アリス。


「“月の女神の投擲眼アルテミス・シュス・アイ”は投擲以外にもあらゆる場面で力を貸してくれるでありんす」


 そのアリスに矢を放っているのはシエラ。神眼を全開にし、アリスを射止めんと矢を放つ。


「“月の女神の投擲眼アルテミス・シュス・アイ”……? なるほど、あなたは神眼の使い手なのね」

「だったらなんでありんすか?」


 二人の距離は二、三十メートルほど。
 自然に二人は話しているが、その間も矢の攻撃と土の防御は常に行われている。アリスは魔力を削り、シエラは弓の残量を減らしながら攻防を続ける。


「神眼は魔眼に匹敵する唯一の力。あの方の邪魔をするのはクロトではなくあなたかもしれないわね」

「魔眼……? なんの話でありんすか」


 シエラの放った矢は狙い通りカーブし、アリスの懐に入る。が、アリスの操る土塊の数は五を超えており、その程度では容易く防がれてしまう。


「ふふふ……だったらここで生かして帰すわけにも行かない。目的が別にあるとは言えここまで来たら危険でしかない……」

「だから何をブツブツと……!」


 更に五本の矢を同時に放った。
 シエラはアリスの放った殺気に警戒し、若干の恐怖心を抱きながらも怖じけずに攻撃を続ける。しかしその精度は明らかに落ちている。


 それもそのはず、シエラは魔物との戦闘しかした事が無かった。
 しかもそれはハンター隊との一方的な狩りであり、毎回安全な戦闘で今回のように対人間、それも格上の者との本気の殺し合いではなかった。
 クロト、エヴァ、レオに比べて実力は劣らないものの、圧倒的に経験がなかったのだ。本気の殺意に触れ、気持ちで負けてしまっている。
 さっきまでエヴァと一緒だったが今は一人。心の支えとなるものも今は何もない。


「もう終わりかしら? 土術 凝土弾」


 再三放たれた凝土弾がシエラの肩を掠め、背後の木に当たる。しかしそれだけでは終わらない。
 次々と迫りくる凝土弾にシエラは避けるので精一杯、それも完全に避けきれず所々に傷を負っている。


「もっと頑張ってほしいわ。さっきまでの威勢はどこへ行ったのかしら」

「……っ」

「わざわざあなたが得意な遠距離で戦ってあげてるのに……」

「舐めるな!」


 三本同時に放った矢が、一直線にアリスへ飛ぶ。だが、アリスは全く動かずにその矢を避けた。感情に任せて飛ばした矢ではそもそも狙いがそれていたのだ。


「もっとよく狙いなさい」

「黙りなんし」


 アリスはただただ歩いてシエラに近づく。シエラは何度も弓を放つが、簡単に避けられてしまう。
 お互いは距離にしてもう五メートルを切った場所にいる。
 シエラの後ろに木があり、それ以上下がる事が出来ない。だが、アリスはそんな事お構いなしと足音を鳴らしながらシエラに接近していく。


「くっ……聖術 聖なる一撃セイクリッド・アロー

「土術 土装甲」


 光を纏った矢が、ほぼゼロ距離で放たれるが、アリスは土を盾のような形に固め、ガードした。
 矢が刺さったままの土の盾はそのままアリスを守るように空中に浮いている。


「土術 土武装」


 続いて新たに固められた土は剣のような形になり、アリスの手に収まる。
 それは土から作ったとは思えぬほど鋭利な剣であり、軽装しかしていないシエラを引き裂くには十分であった。
 シエラは完全に臆し、弓を上げることも、ましてや腰のナイフで反撃する事などもはや出来ない。


「これで終わりよ。死になさい」


 アリスの手に握られた剣が空を引裂き、振り下ろされた。





「レオ、シエラの所へ行って」

「でも……」

「私は大丈夫。昔フロリエルには勝ってる」


 黒氷の暴走で……だけどね。でも……何があってもこいつフロリエルはここで倒す。
 こんなに怒りを覚えたのは久しぶりだ。最悪……黒氷の力を使ってでも勝つ。レオがいたらレオにも攻撃をしてしまうかもしれないし、シエラは遠距離タイプ。アリスと一対一じゃ不利すぎる。
 リンリはエンリが殺されたショックで気絶してるから私の邪魔はしないはずだし……リンリに代わって私がフロリエルに裁きを下す。
 たとえ敵側であっても、仲間同士で殺すなんて許せない。それも姉妹を引き裂くような事、到底容認は出来ない。


「行って! 氷術 雹絶帝砲エンペラーキャノン


 片手から生み出した氷塊をフロリエル目掛けて放つ。それと同時にレオは「ああ」と言って森へ駆け出した。
 シエラの場所はわからないけどレオの並外れた勘の良さがあれば大丈夫なはず。


「ひぇひぇひぇひぇひぇ、よくもまぁ何度も何度も私の前に立ちはだかってくれますねぇ……」


 フロリエルは雹絶帝砲エンペラーキャノンを振り払い、片手で顔を覆い俯いている。気を抜いてはいけない。この男は危険過ぎる。


「三年前、いえ、もうすぐ四年になりますか。雪山であれだけ痛めつけたのにも関わりずまた私に抗うなんて……」


 ドキンと心臓が痛いほど大きく波打ち、段々と鼓動が早くなる。確かに、初めて会った時に撃退出来たのは黒氷があったから。二度目は手も足も出ずに負けてる。今でも戦えば負けるかもしれない……


「おやおや? 震えてるのですか? ひぇひぇひぇひぇひぇ、しかし貴女の相手は後で殺してあげますよぉ」


 フロリエルはショックで気を失っているリンリに手を伸ばす。まずい、あのままじゃ殺される。


「……うっ、何……?」


 駆け寄ろうとした時何かに躓いてコケてしまった。足元を見ると白い何か……顔が……


「あ……ご、ごめんなさい……」


 エンリに躓いた私はジリジリと後ろに下がりながら謝る。だがフロリエルはそれを見逃さなかった。


「ひぇひぇひぇひぇひぇ、今ならチャンスですねぇ。闇術 痛みペイン


 フロリエルの人差し指から放たれた闇の小球はフロリエルに背を向けていた私の背中から体内に浸透し……


「う、きゃぁぁぁっっ!!」


 痛すぎる。
 皮膚が焼けるように熱くなり、内臓が悲鳴を上げてる。筋肉が収縮し、骨がギシギシと音を立てながら軋んでるような……
 痛い、痛い痛い痛い……


「さて、これでやっと大人しくなりますねぇ。ひぇひぇひぇひぇひぇ」


 視界が赤く染まって、次第に感覚が鈍く、意識が遠くなる。だめだ……このままじゃ、また……守られるだけだ……


「そうは……」

『させない』


 私の意識は完全に闇に落ち、眠りについた。だが、体は立ち上がり、フロリエルを睨んでいた。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品