最弱属性魔剣士の雷鳴轟く

相鶴ソウ

98話 地獄解放

 雷化・天装衣ラスカティグローマの物理無視が効かないのは謎ではあるが、今は考えている余裕はない。


「やるしかない……」


 今までの戦いではあえて使ってこなかったが、伝説級相手に悠長な事は言ってられない。
 まずは周りのホブやスペルを潰す!!


「開け!! 地獄の門よ。来い! 等活地獄!」


 右手のあざが黒き光を放ち視界を黒く染める。
 次第に光は弱くなり、再びエンペラーオーガやホブゴブリン、スペルゴブリンが何事も無いように現れる。
 俺が味わってきた地獄の中で、等活地獄は最悪だった。比較的“痛み”を与えてくる地獄が多いのに対し、この地獄は変化球。自我を失い、敵味方の区別すら出来なくなる催眠地獄。


「お、おい! お前達、何をしている!」


 ホブゴブリンはお互いに殴り合い、スペルゴブリンは無差別に火球を放つ。この地獄は仲間同士を殺し合わせる最悪の地獄。


「ぐのぅ! ガキめ!! なにをしたぁぁぁっっ!!」

「ちょっとした地獄巡りだ。お前もすぐに連れて行ってやるよ」


 今日は魔力を使いっぱなしだ。
 次が最後になる。だが開ける地獄の門は同時に一つまで。次の地獄を開けば、さっき開いた等活地獄の門は閉じる。
 そうなればホブやスペルが意識を取り戻し、俺に攻撃を仕掛けてくるだろう。


「おぉらぁぁ!!」


 目の前にまで迫ったエンペラーオーガが巨拳が俺に向けて……だが、巨拳は俺には当たらなかった。
 燃え盛る炎柱が俺の視界を覆い、エンペラーオーガとの間に立ち塞がる。


「な、なんだ……」

「大丈夫か!雨刃さんと一緒にいた……ブロンズの!」

「あ、ああ……」


 向かって右側から現れ、俺を助けてくれたのはフーバ・ガイエン。
 〈三首の鬼クワトロデビル〉のメンバー、ラフ・ユリハカとドダラ・チナヤカも居る。


「少し遅かったようですね。ランシエ」

「そーでもねーだろう。ブロンズの坊主が粘ってくれたお陰で」


 フーバ達の近くから〈蒼紅そうくあしぎぬ〉の二人も現れる。レオ達も加えればあの数のホブやスペルも相手に出来る。


「フーバ!」

「あぁ? なんだ!」

「俺がこのオーガをやるから、残ったホブゴブリンやスペルゴブリンを頼む!」

「……わかった! だがそのオーガ、ただのオーガじゃ……」

「頼んだぞ!」


 俺は再び右手の甲に刻まれた地獄の鍵に魔力を集める。
 八つある地獄の内、俺が開ける地獄は七つ。最後の地獄である無限地獄だけは、俺じゃ開けない。
 だが、その一つ下の地獄を開く事は出来る。その地獄はどんな強者でも耐える事の不可能な地獄。クリュが盗賊団を滅ぼし、俺がヴァントにてゾンビを全滅させた焦熱地獄の更に上の地獄だ。


「おのれ、ガキが……舐めた真似を!」

「行くぞ!エンペラーオーガ! 開け! 地獄の門よ!! 来い……全てを燃やし、全てを溶かし……全てを退ける第七門、開放! 大焦熱地獄!!」


 俺が右手を地面に叩きつけると同時に鉄の杭が地面、丁度エンペラーオーガの股下から突き出る。
 鉄の棘は股から脳天に向けて一直線に伸び、エンペラーオーガを串刺しにする。


「まだ……だぞ……」


 続けて鉄の棘から更に細かい棘が全身を突き破るように飛び出し、エンペラーオーガを縛り付ける。


「ぐ、ぐおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ、な、なんだこれは……」

「大焦熱地獄……でも、俺が味わったのとは少し違うな」


 俺は自分が味わった大焦熱地獄を思い返しながら、そのおぞましさにすぐ考えをやめた。
 棘で串刺しにされたエンペラーオーガはそれだけでも死にそうであったが、大焦熱地獄は止まらない。足元から吹き出した黒い炎がエンペラーオーガをなぶる様に全身を這いずり回り、エンペラーオーガを焼く。


「う、ぐおぉぉ……うぐぁぁぁぁ……」


 全身を這いずり回る黒炎にエンペラーオーガはなす術も無くただ焼かれる。
 だから使いたくないんだよな。地獄の鍵。アンデッド相手ならまだしも、生身の生物相手ってなると……だが、一度出た黒炎は対象を焼き尽くすまでは止まらない。俺の意思でも。
 次第にエンペラーオーガの皮膚は焼け焦げ、爛れて落ちていく。肉は焼け落ち、血は燃え尽き、骨は黒く炭化する。


「クソがァァァァァァ」


 エンペラーオーガは最後の断末魔を残し、物言わぬ燃えカスと変わった。


「はぁ……はぁ……これで……良かったんだ……」


 周りの状況も優勢だ。
 大焦熱地獄の門を開いた事で等活地獄の効果は消えたが、ホブゴブリンやスペルゴブリンは正気を取り戻す前に半数がフーバや〈蒼紅そうくあしぎぬ〉のベポやランシエによって倒された。
 残る半数も現在掃討中だ。


「クロト……! クロト!!」


 この声は……エヴァか? でも……俺はそろそろ限界だ。
 エヴァの声を最後に俺は気を失い、そのまま倒れた。
 後は……任せた……

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