最弱属性魔剣士の雷鳴轟く
86話 “正体不明”の男
耳を頼りに草むらから飛び出すと、数体のゴブリンと、でかい……と言っても俺達と同じサイズぐらいのゴブリンがいた。
その目線の先、木の根本には男女の冒険者がいて、男の方は気絶しているらしい。女の方はなんとか意識を保っているが、完全に怯えてしまっている。
でかいゴブリンが手に持っていたでっかい刀を振り上げ、男の方目掛けて振り下ろす。咄嗟にシュデュンヤーを抜き、冒険者とゴブリンの間に割って入り、大太刀をシュデュンヤーで受け止めた。瞬動術が無意識に発動してよかった。
「ギリギリになって悪い……助けに来た!」
……そして現在に至る。
「エヴァ! こいつはなんだ?」
「多分、ホブゴブリン!」
まだ草むらの近くで立っていたエヴァがこっちに向かって走りながら答える。ホブゴブリン……確かゴブリンの上位種か。
「大丈夫か?」
俺は後ろでまだ震えている女冒険者に声をかける。
返事が無いので何かあったのかと思ったが、どうやら気絶したらしい。まあ、それはそれでやりやすいが……
「行くぞエヴァ。さっさと片付ける」
「うん!」
「一応上位種のホブゴブリンもいる。注意して……」
「ソノ必要ハ無イナ」
突然ひどくなまったような独特の喋り方の声が聞こえてきたかと思うと、十本程度の片手剣がゴブリンたちの頭上に浮いていた。
どれも金色の柄と鍔で刃は銀に輝いている。何者かは知らないが、初めて見る術だ。武器を操る類の術だろうか?
片手剣はそれぞれが別の動きをしながらゆらゆらと揺れている。
「離レテロヨ 巻キ込マレテモ知ラナイカラナ」
今まで浮いているだけだった片手剣が旋回し、ゴブリンを斬りつける。ホブゴブリンを含め総数七体のゴブリンに片手剣が襲いかかる。
一本の片手剣に手を斬り裂かれ、反撃しようとした時には別の片手剣に背中を刺されて死ぬ。一本の防いだとしても、二本、三本と数を増やして再び攻撃されればガードも虚しく体中に片手剣が突き刺さる。
ホブゴブリンは流石に他のゴブリンとは違うらしく、大太刀で一気に数本の片手剣を跳ね飛ばし、回避している。が、最初は三本だけを相手にしていれば良かったホブゴブリンも周りのゴブリンが死んでいくにつれて、相手する本数が増えていき、最終的には十本の片手剣を相手に奮闘したが、最終的には四肢をもがれ、心臓に三本の片手剣が突き刺さって死んだ。
昔エヴァが武器具現で氷剣一斉嵐撃という技を使っていたがそれに似てる。だが、スピードもパワーも桁違いに早い。一瞬にして辺り一帯を血の海に変え、ゴブリンは全滅した。凄まじい程の殺戮を目の前にし、エヴァは完全に警戒と恐怖で震えている。
とは言え、俺も流石にこれを目の前で見て恐怖を感じずにはいられない。
あまりにも一方的すぎる。自分は姿も見せずに攻撃だけを仕掛けることが出来る。勝負なら最低だが、殺し合いならばこれ程強いものはない。
「オ、生キテルジャネーカ」
片手剣は何かに引っ張られるように草むらの中に消えて行き、代わりに出てきたのはかなり奇妙な男だった。
ぱっと見は、竹笠を頭につけ、マントを着た風変わりな旅人だが、よく見るとそのマントには大量の片手剣が張り付き、歩くたびにガシャガシャと音を立てている。
顔やマントの部分から少しだけ見えている手足は包帯が巻かれており、素肌は完全に隠されている。おまけに竹笠に隠れてあまり見えないが、顔の部分は包帯で覆われているものの、大きく裂けた口と赤く光る片目だけが見えている。
もう片方の目は御札のような物が貼ってあり、隠れてはいる……が、こいつの戦闘スタイル、もといその姿は恐怖でしかなかった。
「…………」
変すぎる。
ハリネズミが擬人化してもこうはならない。見た目こそ変さ、不審さが勝っているが今の一瞬の戦闘で強さが本物なのは伺える。強者ってのは変わり者が多い事も知ってる。
が、それにしたって変すぎる。だって今まで片手剣に覆われたマントを着た包帯男なんて見たことないし……
「ン? ナンダ、怯エテルノカ?」
見かけに反して結構馴れ馴れしく話しかけてくる包帯男。
話し方には独特のなまりがあって、聞き取れないわけではないが、違和感がある。だが、助けてくれたわけだし、話も普通にしてるから見た目がやばいだけで、そんなにやばい奴じゃないのかもしれない。
「あ、ああ。悪い。少しびっくりしてな」
「ハハハ ソウカソウカ。コノ辺リハ小鬼ガ結構出ルガ、ドイツモコイツモ歯ゴタエガ無クテナ。オ前ナラ良イ勝負ガ出来ソウダ」
ん、良い勝負……?
包帯男が数歩下がってから右手を真っ直ぐこっちに向ける。するとマントに付いていた片手剣が五本、マントを離れ再び宙を舞う。薄っすらと右手の指先から白く、細い物が伸びているのが見えた。おそらく糸だ。
武器そのものを操る類の魔術、もしくは剣術かと思ったが、糸であの片手剣を操っているらしい。そんな魔術もあるのか。って、こいつ戦う気なのか?
案外良い奴かと思ったらやっぱりそういう系なのか。
「行クゾ」
さっきの戦闘を見ればどうやってもこいつには勝てない。
片手剣が宙を舞い、五本纏めて俺目掛けて勢い良く落ちてくる。
俺はシュデュンヤーを構える事も、テンペスターを抜く事ももう間に合わない。雷化・天装衣の準備をしようとするが、それでもおそらくは間に合わない。
あえて最小の動きでかすり傷で済ませ、雷化・天装衣を発動して一気に方をつける。
肉を切らせて骨を断つ、だ。
……が、俺が雷化・天装衣を発動するよりも、包帯男の片手剣が俺を貫くよりも早く、俺と包帯男の間に何者が割って入った。
腰に一本の刀を構えた紫髪の青年。
「至天破邪剣征流 薙払の型 『狂乱の太刀』!!」
その目線の先、木の根本には男女の冒険者がいて、男の方は気絶しているらしい。女の方はなんとか意識を保っているが、完全に怯えてしまっている。
でかいゴブリンが手に持っていたでっかい刀を振り上げ、男の方目掛けて振り下ろす。咄嗟にシュデュンヤーを抜き、冒険者とゴブリンの間に割って入り、大太刀をシュデュンヤーで受け止めた。瞬動術が無意識に発動してよかった。
「ギリギリになって悪い……助けに来た!」
……そして現在に至る。
「エヴァ! こいつはなんだ?」
「多分、ホブゴブリン!」
まだ草むらの近くで立っていたエヴァがこっちに向かって走りながら答える。ホブゴブリン……確かゴブリンの上位種か。
「大丈夫か?」
俺は後ろでまだ震えている女冒険者に声をかける。
返事が無いので何かあったのかと思ったが、どうやら気絶したらしい。まあ、それはそれでやりやすいが……
「行くぞエヴァ。さっさと片付ける」
「うん!」
「一応上位種のホブゴブリンもいる。注意して……」
「ソノ必要ハ無イナ」
突然ひどくなまったような独特の喋り方の声が聞こえてきたかと思うと、十本程度の片手剣がゴブリンたちの頭上に浮いていた。
どれも金色の柄と鍔で刃は銀に輝いている。何者かは知らないが、初めて見る術だ。武器を操る類の術だろうか?
片手剣はそれぞれが別の動きをしながらゆらゆらと揺れている。
「離レテロヨ 巻キ込マレテモ知ラナイカラナ」
今まで浮いているだけだった片手剣が旋回し、ゴブリンを斬りつける。ホブゴブリンを含め総数七体のゴブリンに片手剣が襲いかかる。
一本の片手剣に手を斬り裂かれ、反撃しようとした時には別の片手剣に背中を刺されて死ぬ。一本の防いだとしても、二本、三本と数を増やして再び攻撃されればガードも虚しく体中に片手剣が突き刺さる。
ホブゴブリンは流石に他のゴブリンとは違うらしく、大太刀で一気に数本の片手剣を跳ね飛ばし、回避している。が、最初は三本だけを相手にしていれば良かったホブゴブリンも周りのゴブリンが死んでいくにつれて、相手する本数が増えていき、最終的には十本の片手剣を相手に奮闘したが、最終的には四肢をもがれ、心臓に三本の片手剣が突き刺さって死んだ。
昔エヴァが武器具現で氷剣一斉嵐撃という技を使っていたがそれに似てる。だが、スピードもパワーも桁違いに早い。一瞬にして辺り一帯を血の海に変え、ゴブリンは全滅した。凄まじい程の殺戮を目の前にし、エヴァは完全に警戒と恐怖で震えている。
とは言え、俺も流石にこれを目の前で見て恐怖を感じずにはいられない。
あまりにも一方的すぎる。自分は姿も見せずに攻撃だけを仕掛けることが出来る。勝負なら最低だが、殺し合いならばこれ程強いものはない。
「オ、生キテルジャネーカ」
片手剣は何かに引っ張られるように草むらの中に消えて行き、代わりに出てきたのはかなり奇妙な男だった。
ぱっと見は、竹笠を頭につけ、マントを着た風変わりな旅人だが、よく見るとそのマントには大量の片手剣が張り付き、歩くたびにガシャガシャと音を立てている。
顔やマントの部分から少しだけ見えている手足は包帯が巻かれており、素肌は完全に隠されている。おまけに竹笠に隠れてあまり見えないが、顔の部分は包帯で覆われているものの、大きく裂けた口と赤く光る片目だけが見えている。
もう片方の目は御札のような物が貼ってあり、隠れてはいる……が、こいつの戦闘スタイル、もといその姿は恐怖でしかなかった。
「…………」
変すぎる。
ハリネズミが擬人化してもこうはならない。見た目こそ変さ、不審さが勝っているが今の一瞬の戦闘で強さが本物なのは伺える。強者ってのは変わり者が多い事も知ってる。
が、それにしたって変すぎる。だって今まで片手剣に覆われたマントを着た包帯男なんて見たことないし……
「ン? ナンダ、怯エテルノカ?」
見かけに反して結構馴れ馴れしく話しかけてくる包帯男。
話し方には独特のなまりがあって、聞き取れないわけではないが、違和感がある。だが、助けてくれたわけだし、話も普通にしてるから見た目がやばいだけで、そんなにやばい奴じゃないのかもしれない。
「あ、ああ。悪い。少しびっくりしてな」
「ハハハ ソウカソウカ。コノ辺リハ小鬼ガ結構出ルガ、ドイツモコイツモ歯ゴタエガ無クテナ。オ前ナラ良イ勝負ガ出来ソウダ」
ん、良い勝負……?
包帯男が数歩下がってから右手を真っ直ぐこっちに向ける。するとマントに付いていた片手剣が五本、マントを離れ再び宙を舞う。薄っすらと右手の指先から白く、細い物が伸びているのが見えた。おそらく糸だ。
武器そのものを操る類の魔術、もしくは剣術かと思ったが、糸であの片手剣を操っているらしい。そんな魔術もあるのか。って、こいつ戦う気なのか?
案外良い奴かと思ったらやっぱりそういう系なのか。
「行クゾ」
さっきの戦闘を見ればどうやってもこいつには勝てない。
片手剣が宙を舞い、五本纏めて俺目掛けて勢い良く落ちてくる。
俺はシュデュンヤーを構える事も、テンペスターを抜く事ももう間に合わない。雷化・天装衣の準備をしようとするが、それでもおそらくは間に合わない。
あえて最小の動きでかすり傷で済ませ、雷化・天装衣を発動して一気に方をつける。
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