最弱属性魔剣士の雷鳴轟く

相鶴ソウ

85話 異質なゴブリン達

「グギャシャァァァ」


 草むらから突然ゴブリンが飛び出して来た。
 緑色の肌に髪のない頭。目は血走っていて、牙が生えている。身長は俺達の半分ほどしかないが、俺達の身長より高く飛んでいる事からその身体能力の高さが伺える。


「はぁぁ!」


 俺は、手のひらから雷を放出しながら横に薙ぎ払う。雷が盾の様に展開され、ゴブリンはそれにぶつかり弾き飛ばされる。


「グシャァァァ」

「氷術 氷の弾丸アイスバレット


 尻餅を付いたまままだ動けていないゴブリンの胸部に氷柱が突き刺さり、ゴブリンは声にならない叫びを上げながら絶命した。


「ふぅ……」


 突然の事で驚いたが、なんとかなったな。
 それにしても氷の弾丸アイスバレットの威力が落ちてる気がする。スピード、パワー、強度や数も前の方がずっと優れていた。
 氷術を使う事に躊躇いがあるのだろうか。なるべく早くどうにかしてやりたいけど、どうしたものかな……


「とりあえず、後味は悪いが耳を削ぐか」


 倒したゴブリンの耳を削いで冒険者ギルドに提出するとそれが討伐した証拠になり、報酬がもらえると言うわけだ。
 しかし、このゴブリン……武器こそ持っていなかったが、着ている服は上等だ。ゴブリンってのは普通、全裸もしくは布切れを巻きつける程度の衣文化しか無いはず……
 シルバー級冒険者パーティが叩くらしいゴブリンの巣。おそらく群れの中でもカースト最下位に近いこのゴブリンがこんな上等な服……
 なんとなく嫌な予感がする。


「クロト?」

「あ、いや、なんでもない。行こう」

「うん」


 その後も出会ったゴブリンをひたすらに倒し、倒した数は十を超えた。
 どのゴブリンもつけている装備は上等な品でとてもただのゴブリンが着けているようなものではなかった。
 そしてもう一つ気になるのはその量だ。冒険者ギルドの様子を見るに相当数の冒険者に声をかけていた。そしてただのゴブリン退治にしては破格の報酬にその殆どの冒険者が依頼を受けていた。
 にも関わらず森の浅い部分にいる俺達の所にまで十以上のゴブリンが現れる。いくら森が広いとは言ってもこの数には若干の違和感を感じた。


「きゃぁぁぁぁぁぁぁ」


 森を歩き進めていた時、女性の悲鳴が森に響いた。
 俺達は悲鳴を聞き、お互いに顔を見合わせる。うんっと頷くと同時に悲鳴のした方向へ走り出す。
 アグリア戦以来使っていなかったが、耳に集中し、音を集める。葉のさざめく音、鳥のさえずり、冒険家の息遣い、足音。……この比較的軽い足音はゴブリンだな。
 更に範囲を絞る。
 ゴブリンの複数の足音、その中にゴブリン達に比べてかなりでかい奴がいるな。そのすぐ近くで荒い息遣い。これは人の物だ。何か小声で言っているが、ほとんど言葉になっていない。
 俺は目を開け、エヴァと目を合わせる。声のした方向は……


「こっちだ!」





 そしてその悲鳴の出処。
 そこには五、六体のゴブリンに囲まれ、大太刀を肩に担いだ人間サイズのゴブリン、ホブゴブリンがいた。三級魔物のゴブリンに対し、ホブゴブリンはゴブリンの上位種で二級魔物。
 それに襲われているのはクロト達と同じくブロンズの冒険者。男女のペアでゴブリン退治に来ていたらしく、男の方は気絶し、女に抱きかかえられている。
 とは言え、女の方も完全に腰を抜かし、目には涙を浮かべている。


「お、おねがぃ……お願いだから助けてください……」


 ホブゴブリンは真っ直ぐ女の冒険者を見つめニタニタと笑う。
 上位種が支配しているゴブリンの群れは知能的で統制の取れている群れが多い。ただ殺すだけでなく、女をさらい数を増やす。
 更には人間に追い詰められた時、人質として使ったり、時として非常食として食う時もある。
 ゴブリンは一体一体の強さは決して警戒すべきものではないが、恐るべきはその貪欲さと憎悪の強さ。
 どんな不意打ちや卑怯な手を使ってでも復讐する恐ろしい執着心。これらをあなどった冒険者が迂闊に手を出し、全滅するというケースはよくあった。
 この男女の冒険者も似たようなもので、ゴブリンならとあなどっていた結果、二級魔物であるホブに出会い、こうなってしまっている。


「グギャァァァァ」

「グ!」

「グギァ?」


 ゴブリンが襲い掛かろうとしたのをホブゴブリンが止めた。疑問を覚えたゴブリンだが、すぐにホブに道を譲った。
 ホブは人間サイズとはいえ、通常のゴブリンのサイズは、その半分。それに見慣れていた女冒険者にとって、ホブはまさに怪物。
 恐怖で足を震わせながらも、なんとか後ずさろうとするが腰は抜けて、おまけに気絶した男冒険者を担いだ状態ではとても逃げられない。ホブゴブリンは楽しそうに笑いながら大太刀を振り上げる。
 狙っているのは男の方。女は連れて帰ると決めたらしい。


「お、お願いです。助けてくださぃ……もうやめます! もう帰りますから……お願いします!」


 格下と見ていたゴブリンに頭を下げる屈辱も、プライドも投げ捨て、女は泣きながら許しをうた。
 だが、ホブゴブリンがやめるはずもなく、そのまま大太刀を振り下ろす。


「……ッ!」


 激しい金属音が鳴り響き、大太刀が男の背中を斬り裂く直前で止まった。
真っ黒な髪に黒いマントを着けた男。そしてその男の持つ、これまた真っ黒な剣がホブゴブリンの大太刀を止めた。


「ギリギリになって悪い……助けに来た!」

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