最弱属性魔剣士の雷鳴轟く

相鶴ソウ

80話 生存者は二人

 光が収まると俺もシエラも無傷でその場に立っていた。
 俺は右手にテンペスターを、左手に逆手でシュデュンヤーを持っている。雷化はまだ解けていない。シエラもナイフを逆手に持ったまま立っていた。


「やはり……思った通りの男でありんすな」

「え?」

「手練同士の戦いなら剣を交えただけでお互いの事がわかるものでありんす。試すような真似をしてごめんなんし」

「それはいいが、なんの話をして……」

「お主が誘ったのではないか。ずっと悩んでおったが、やっと決心がついたでありんす。わっちもそなたらと共に行こう」

「……本当か! 嬉しいよ、よろしくな」


 テンペスターとシュデュンヤーを鞘にしまう。俺は右手を出し……


「うむ」


 シエラも右手を出してそれに応える。
 その後、盛大に宴は続き夜が明けるまで飲み、笑い、騒いだ。途中から俺はほとんど記憶が無いけど、楽しかったのは覚えてる。
 この二ヶ月程の疲れが取れていくのを実感しつつ、空が白むのを眺めていた。隣ではエヴァが完全に酔い切って、眠っていた。
 テリア山から下山中の一ヶ月、エヴァは塞ぎ込んでいた。いや、正確には今も、だが。恐らくは自分の未知の力のせいだろう。いつ暴走するかもしれない未知の力、言うなれば爆弾を抱えているようなものだ。
 それにエヴァは俺達にそれが降りかかることを懸念しているんだろう。
 俺は隣で眠るエヴァの頭を撫でながら半分ほど顔を出した朝日を見つめ、出発の準備をするために立ち上がった。





 そして夜が完全に明け、とうとう出発する時が来た。


「またな シエラ」

「今まで、本当にお世話になりんした。この御恩は、いつか必ず返すでありんす」

「ああ、楽しんでこい! クロト、エヴァリオン、レオ。お前達にも何もお礼が出来なくてすまない」

「そんな事ないさ」

「食料分けてもらっちゃったし!」

「ロックドラゴン討伐、そしてグラキエースドラゴンの撃退、我々ハンター隊だけでは遂行は難しかっただろう。本当に感謝する」


 アイリスは言い終えると深々と頭を下げた。周りに立っていたハンター隊もだ。


「やめてくれよ、俺達としてもメリットはあったんだ。お互い様って事で」

「ああ、すまない」

「またな!」

「じゃあね〜!」

「ぐがーー」

「寝るな!」


 そして俺達は馬車に乗り込み、ゴンザレスとエリザベスに引かれテリア山を後にした。





 魔族領。とある古城にて。


「命令通り大陸の各地を襲ってはおるが、なんの理由があるんじゃ?」

「今更何を言っている? リヴァ。俺達の目的は帝国を落とし……」

「それなら一気に帝国を落とせばいい。ちまちまと襲う必要は……」

「ひぇひぇひぇひぇひぇ、いいじゃないですか。人間の悲鳴が聞けるのですから」

「黙っておれ、フロリエル。お前さんの恨みもわかるが……」

「人間への怒りを忘れたのか? リヴァ」


 その時、コツコツと言う足音と共に一人の男が部屋に入ってきた。


「だ、大魔人様!」


 四魔王全員がひれ伏す。


「人間に何をされた? お前達は人間によって蹂躙された。ならば今度は我々が、人間を蹂躙する番だ。リヴァ、フロリエル……忘れたわけではあるまい?」

「ひぇひぇひぇひぇひぇ、勿論です」

「……勿論です」

「そして、リヴァ。なぜ各地を襲うのか、と聞いたな。一気に落としてしまう事も当然できるが、より多くの苦痛を、絶望を人間に味合わせる。そうしなければ我々の雪辱は晴らせない。そしてその裏でもう一つの目的も並行している。……それは負のエネルギーを集める事だ」

「負の……エネルギー?」

「そうだ。憎悪、怒り、絶望……人間の出すこれらの感情は良質な負のエネルギーとなる」


 男は懐から一つの玉を取り出した。
 半透明の玉だが、中には黒く、おどろおどろしい何か・・が渦巻いている。


「大陸に溢れる負のエネルギーはこの玉に蓄積される。そして負のエネルギーが十分に溜まり切った時、永遠の王〈永竜 エターナルドラゴン〉を作成し、我々の最大の切り札とする」

「エターナル……ドラゴン……」

「ひぇひぇひぇひぇひぇ、一体どれだけ強いのか……」

「その為にはもっと必要だ。憎悪が、怒りが、絶望が……」

「深いお考えがおありの事だったとは露知らず。失礼いたしました」


 リヴァは更に深く頭を下げる。


「構わん。少し話がある、来い。リック・・・

「はッ!」


 黒のマントを身にまとい、左頬に大きな火傷の魔王のリーダーが応える。





「その体になってから随分経つが、慣れたか?」

「はい、かなり」

「うむ。それで本題に入るが、話は二つある。一つ目は、アリスの奴隷であるエンリとリンリを殺せ」

「……! 失礼とは思いますが……何故?」

「クロト達と接触していた」

「……」

「それだけでは無い。奴らは元々奴隷紋で従えているだけの存在だが、その実力は敵に回ると面倒な次元に達している。いつアリスが死に、奴隷紋が解除されるともわからん。そうなった時に使役してきた我々へ反逆してくる可能性も無いとは言い切れない。ならば殺してしまう方が得策だろう」

「……お言葉ですが、いずれ殺すにしてもまだ戦力として手放すのは惜しい状況ではないでしょうか?」

「その心配もわからんわけではない。しかし、こちらの戦力も最早あの二人の有無に左右されない次元に到達している。折を見て魔王達にも話そう」

「……わかりました。ではあの双子はここで始末を」

「ああ、そして二つ目の話だが、リヴァとアリスの動向に注意せよ」

「……? それは一体……」

「昔、リヴァの家族は人間に蹂躙された。その憎しみから俺の配下に入ったわけだが、ここに来て少しずつその気持ちも揺らいでいる。そしてアリスだが、あいつはエンリ、リンリと長く居すぎた。死を命じれば反旗を翻して来るとも限らん。采配はお前に任せるが、あの二人の価値は双子とは別格だ。失う事は許さんぞ」

「……御意」





「アリス」

「なに?」

「大魔人様と話し、決まった事がある。突然ではあるが、エンリとリンリを……殺せ」

「……!?」

「……理由は、なんじゃ?」

「あの二人がクロト達と接触していていた事がわかった。奴隷紋があるにしても万が一もある」

「ひぇひぇひぇひぇひぇ、面白くなってきましたねぇ」

奴らクロトらをそろそろ始末せねばならない。戦闘に乗じてあの双子もそこで消しておけ。この作戦はそうだな……アリス、リヴァ。お前達で行け」

「…………」

「……わかったわ」


 アリスとリヴァは立つ上がり、部屋を出て行く。


「フロリエル」

「はい?」





「うっ……ぷ……」

「今日はいつもより盛大に酔ってるな」

「大丈夫でありんすか?」

「気にするなよ、いつもの事だ。そんな事より眠いから寝るぜ」

「さっきまで寝てたろうが……エヴァは酒に弱いのに調子に乗って飲むから」


 二日酔いプラス乗り物酔いは辛いだろうな。でもあと一週間程度は耐えてもらうぞ。
 ヘレリル公爵に行く前にまずはレオ公爵に寄らないといけないからな。路銀も不足してるし、諸々の道具もこのままじゃヘレリル公爵に着く前に尽きる。ここらで一度大きめの街に立ち寄るのもいいだろう。


「もう……無理……」

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品