最弱属性魔剣士の雷鳴轟く

相鶴ソウ

77話 心眼のクニノト

「相変わらず無駄な話をベラベラとしているのかのぉ」


 そこへ老人の声が割り込む。
 声のした方を見ると、いつの間にか扉の前に二人の老人が立っていた。
 一人は背の高い老人で、両目には深い傷が付いており、塞がっている。腰にさした剣からはただならぬ気配がする。その隣に立っている老人も見た目こそただの老人だが、その周りには白いモヤが漂っている。


「……っ! これはクニノト様! トヨクモ様! いらしていたのですね」


 デルタアール国王が驚き、慌てて言う。
 この二人は七老会のリーダー格。心眼のクニノトと天雲のトヨクモ。


「それで……つまらない事、と言いますと……?」

「魔王の事もハンターとやらの事もそう悩む必要はあるまい。公爵間が協力し、それぞれが対策を練ればこんな問題、屁でもないじゃろうに」

「し、しかし……何分未知数な事も多く……」

「恐れるな!! 相手を恐れていつまでも下手に出てちゃぁ民は守れんじゃろうがい!」

「は、はっ! その通りです!」


 クニノトの威圧感にその場にいた全員が臆し、動けなかった。
 そこからの話はかなりスムーズだった。すぐさま公爵間での協力体制が出来上がり、対策がどんどん練られていく。
 デルタアール国王はドラゴン騎士団にハンター捜索の全権を任せ、ファリオスは指名手配の二人を追い、レボとヴァールハイトは各地の襲撃された街の救助を行うことになった。


「大陸中の冒険者達の力も借りましょうぞ。徴兵も行う。これは、戦争ですぞ……」


 ブルックスの一言に周りの雰囲気もあり、皆が頷く。


「オリハルコン級冒険者パーティ〈シルク・ド・リベルター〉に要請を依頼しましょう。大陸の士気を上げ戦闘面でも助けになるでしょう」


 それに反応するようにレオ公爵、バージス・レオが反応する。
 オリハルコン級冒険者パーティ〈シルク・ド・リベルター〉とは、アジェンダと同じくオリハルコンの称号を持つマスターボウをリーダーとする冒険者チームだ。


「おお、〈シルク・ド・リベルター〉か! あやつらなら頼りになる」

「後もうひと押し欲しいですね」


 バンリが興奮したように口を開く。


「うん? なにか案があるのか?バンリ」

「はい、実は……」





「兄者、本気なのか?」


 帝会終了後、バンリの部屋にファリオスが訪れた。


「ん?」

「俺とオリハルコン級冒険者〈紅の伝説 アジェンダ〉の一騎打ちと言うのは」

「まぁ、まだアジェンダにも連絡を取っていない以上なんとも言えんが……」

「内輪で戦ってる場合じゃ……」

「違うぞ、ファリオス。俺が提案したこの超決闘イベント、その真の目的は何もお前もアジェンダの強さを比べるものじゃない。冒険者の中でトップレベルの実力を持つアジェンダと帝国最強のお前が戦えばかなりハイレベルな戦いを民衆に見せる事ができる」

「それが、何か……」

「帝国はまだまだやれるというのを見せれる。それが民の士気に繋がり、帝国の士気に繋がる」

「なるほど。確かに、言われてみれば」

「これから徴兵をするにしても民の士気が低ければ志願する人も減る。今はとにかく、帝国の力を見せなければいけない」

「流石だ、兄者。そういう事なら俺も協力する」

「頼むぜ、ファリオス」





「とまぁ、帝会ではこんな事を話した」

「なるほど……」


 色々と気になる単語が出てきたな。
 超決闘イベント。剛力将軍のファリオスとアジェンダの一騎打ちの決闘か……


「とにかく、お前たちの事をファリオスは追っている。誤解が解けるまでは注意しろよ」

「ああ、わかった」


 ロックドラゴン、そしてグラキエースドラゴンを倒した俺達はテリア山を一ヶ月で下りつつ、傷の手当をしていた。現在は傷もかなり治り、ふもとの集落で休んでいる。
 ハンター隊からも死者が数名ではあるが出たらしく、明日の夜に鎮魂の儀式があるらしい。
 かく言う俺達もかなりの深手を負った。俺は、特に目立った傷は無いものの、獄化・地装衣インフェルノトォールによる疲労とダメージの蓄積があり、ロックドラゴンに投げ飛ばされた時のダメージもまだ抜けてない。肋骨が数本折れたらしいが、シエラがほぼ完治状態まで回復してくれた。
 それでも受けたダメージを消す事は出来ないから、安静にしてろとの事だ。
 レオもかなり重症。何度も投げ飛ばされたせいで全身の骨にヒビが入っており、おまけに奥義である神薙麒麟暴かみなぐきりんのあかしまを使った疲労が凄まじく、今も寝込んでいる。
 エヴァは比較的俺たち二人に比べると軽症だったが、謎の魔術のせいで魔力の急激な性質変化が起き、それによる消耗のせいで体がうまく動かないらしい。


 因みに俺達の事を救ってくれたマルスは一足先にブルーバードに行っているとだけ告げ、山を降りてしまった。
 まぁまた会えるだろうし、いいか。


 俺達は体を癒やすことを最優先に、激闘の数日間を忘れ、ゆっくりと休む事にした。

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