最弱属性魔剣士の雷鳴轟く

相鶴ソウ

76話 帝会

 時は遡り、アイリス達ハンター隊とクロト達が再開するよりも二ヶ月ほど前。


 エルトリア帝国城。
 東西南北に塔をもち、それぞれの塔を繋いだひし形の城壁を持つ、大陸唯一の城。東西南北の塔を四副塔、中央にそびえる城本体を本城塔という。本城塔には王の間や大臣の部屋といった重要な部屋が多く存在している。その中でも王の間の上に七老の間という部屋が存在する。





 場所はエルトリア帝国城、本城塔の最上階。七老の間。
 そこには国の重鎮であり、最高戦力の一角、七老会がいる。それぞれが三大将軍に匹敵、あるいは凌駕するほど力を持つ。


「ひっひっひ。オホトノジや、クニノト達はどこに行った?」


 そこには四人の人影があった。
 チャイナドレスを着た背の低い老婆は筋骨隆々の渋顔の男に話しかける。この老婆はアヤカシコネ。七老会の一角にして元暗殺者。


「……さァな」


 オホトノジ……筋骨隆々で渋顔。見た目は四十代前後だが、実は八十を超えている。肉体強化を極めており、七老会の中でもトップレベルの強さを誇る。


「クニノトとトヨクモはたしかに帝会が開かれるとかで、それに行ったんじゃなかったかしら?」


 そこに一人の女性が口を開く。
 見た目は二十代だが、こちらもオホトノジと同じく八十を超えている。今は引退しているが昔は四つの神越術を使うことが出来、大陸一の実力を持っていた。


「おお、イザナミ。それは真か?」
 
「そのはずよ。ウヒヂニは用があるってどこかへ行ったわ」

「そりゃァ、ご苦労なこった。あんなつまんねェとこに行くタァ相当暇なのカねェ。ん?そういやイザナミィ、あのガキ共はどこ行った」

「神人衆の事? 知らないわ。誰か見た?」


 神人衆しんじんしゅう。イザナミの弟子でイザナミの持つ四つの神越術をそれぞれ受け継いだ神童達。
 赫炎かくえんのカグツチ、黒炎のアマテラス、錯乱のツクヨミ、そして神器のスサノオ。それぞれが己の名を模した神術を使う。


「……街へ出ると言っていた」


 そこへ細身の男が答える。
 オホトノジやイザナミと違って八十代の姿そのもので、細い体は蛇を思わせる。この男はツノグヒ。結界術の創造者と言われている。


「そう……何事も無ければいいのだけれど」

「アのガキ共なら問題ねェだろ。俺らと同等程度の力はある」

「だからこそ心配なんじゃない。あの子達が力を使ったら街の一つや二つ消し飛ぶわよ」

「ひっひっひ。それはその時考えればええじゃろ。それより帝会の内容は……やはり?」





 王の間より一つ下の階に設立された大会議室。
 そこに集うは国の重鎮をはじめとするこの大陸を代表する者達。十二公爵のうち、エルトリアを除く十一の公爵。エルトリア帝国を代表するデルタアール国王、ブルックス大臣。そして騎士団代表からアラン 三大将軍のファリオス、レボ、ヴァールハイト。


「皆の者、よくぞ集まってくれた。早速だが、今回話したいのは魔王についてだ」


 円卓を囲む十六人の顔をそれぞれ見ながらデルタアールが話し出す。


「今現在、この大陸全土において魔王からの攻撃が行われておる。五年前、エルトリア城下町で行われた『心臓狩り』。その半年後にはアルバレス公爵領の襲撃。その後も各公爵領への攻撃が始まり、その後間もなくエルトリア学園の生徒を死に至らせた。一年前には大規模なヴァント襲撃とあまりにも……あまりにも目に余る」

「同意見でございます」


 シルバス公爵 ワイズ・シルバス。銀髪にメガネをかけている。


「でもどうするのです? 現状、三大将軍をはじめとする国の最高戦力が対応に走り回っても追いつかない、接触さえできない魔王にどうやって……」

「しかも厄介なのはあいつらの駒だ。痛みも感じず、死にもしないアンデット軍団。そんなの相手に戦えってのもまた無理な話だ」


 続いて口を開いたのはハングル公爵 アイリス・ハングル。そしてアルバレス公爵 バンリ・アルバレス。


「うむ、アイリス、バンリの言ったことも一理ある。今のところ判明している魔王はこの二人、雷撃ライトニングボルト雹絶世界シルバー。ヴァント攻防戦において、天馬ペガサス騎士団によって目撃されている」

「しかし、魔王は四人居たはずでは? その手配書が流れてから、襲撃してくるのはその二人に似た格好をした二人組ばかり……しかし、その手配書が回る前は四人全員の姿が確認できています。私も、そのうちの一人である女の魔王を見ています。これではまるでその二人が魔王だと思わせるためにわざとやっているように思えます」


 三大将軍の一角、剛力将軍ファリオスがアルバレス公爵領襲撃の際、戦ったアリスの事を伝え、更に推測を述べる。


「それはあり得るかもしれん。という事はこの二人は魔王ではないのか……?」

「そんな事はもはや問題ではないかと存じます」

「む? ヴァールハイト。それはどういう事かね?」

「はい。人数がどうであれ、その手配書の二人がヴァントを攻撃していた事に変わりはありません。最前線で追うべきはその二人ではないでしょうか?」

わたくしもそう思いますぞ〜」


 ヴァールハイトと大臣、ブルックスの言葉に、何人かは頷く。しかし数人は納得できないように顔をしかめている。


「真偽をはっきりさせるのは現状無理でしょう。わらわたちがこれから何をするのか、どう対処するのかを話し合うべきでは?」

「うむ、ティアナの言う通りだ」


 ティアナ……エレノア公爵で、十二公爵の中で唯一の妖精族のエルフ。
 小規模な公爵ながらも種族の違いによるアドバンテージがあり、他の公爵には引けを取らない。元々は大魔森に生息していたのだが、部族間の争いから逃れてきた妖精族を十二英雄であるアフロディテが受け入れたことがエレノア公爵の始まりである。


「やるべき事は多い。大陸に迫る魔王、最近では姿を見なくなったが、ハンターの事も気になる」

「相変わらず無駄な話をベラベラとしているのかのぉ」


 そこへ老人の声が割り込む。
 声のした方を見ると大会議室に一つしかない扉の前に二人の老人が立っていた。

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