最弱属性魔剣士の雷鳴轟く

相鶴ソウ

67話 岩石の鱗鎧

 アイリス、エヴァがロックドラゴンに強襲をかけてる間に俺は全速力で走り、ロックドラゴンの腹下に滑り込む。
 下が雪ってこともありよく滑る。
 雪を撒き散らしながら俺は一番脆そうな部分を探す。流石と言うべきか、腹にも薄い鱗がびっしりと生えている。
 と言うかこんな図体がでかいとどこが脆いか探すのも一苦労だ。だが、いつまでもここにいるわけにはいかない。いつ俺に気づいて攻撃されるかわからないからな。


「とりあえずは適当にやるか。雷帝流 刀流雷撃」


 テンペスターをロックドラゴンの腹に、適当に突き刺す。
 鱗は意外にも柔らかく多少の抵抗はあったが、すんなり刺さった。ロックドラゴンは特に動きも吠えもしないという事は、ほとんど何も感じてないんだろう。
 俺はテンペスターに雷を流し、多方向に展開する。


「グァァァァァァァァ」


 体内に電流が駆け抜け流石のロックドラゴンも痛みに吠える。
 電撃は通る。俺の攻撃は有効打に成り得るだろう。
 このまま内側を破壊すれば……と考えてると後ろで何かが落ちる音がした。雪のボフッという音が。


「レオ!!」


 レオ?
 次の瞬間今までロックドラゴンの影になって暗かった周りが明るくなった。


「クロト! 逃げて!」


 逃げるったって……
 上を見るとはるか上空にロックドラゴンが居た。いや、そんなはずはない。あいつの翼は退化しているし、この巨体で飛ぶ方法なんてあるわけが……
 見ているうちにどんどんロックドラゴンの影は大きくなっていく。直後、ロックドラゴンが落ちてくる。
 俺の立っている場所よりも前に落ちたおかげで踏み潰されることはなかったが、勢いで体が吹き飛ばされる。


「……ッ!」


 気づいた時には俺は雪に埋もれてうつ伏せに倒れていた。
 顔を上げるとロックドラゴンはどうだと言わんばかりに尻尾をドンドンと叩きつけている。


 周りを見るとさっきまで周りにあった木々はなぎ倒され、ハンター隊もバラバラに散ってしまってる。体を起こせてるのは極少数だ。
 俺はエヴァ達の居る所まで飛ばされたらしい。なんとか体を起こし、周囲の被害を確認する。
 アイリスとシエラは後ろでお互い支え合っている。レオは体が動かないのかうずくまるような体制のまま動いていない。エヴァはそのすぐそばに倒れている。
 とは言え、俺も立つのだけでギリギリだ。体の節々がギシギシと音を立てている。足にも今のダメージと一ヶ月に渡る雪山登山疲労で溜まっている。
 こんな一瞬で戦況を変えられるなんて……


ふと気づくと右手に持っていたはずのテンペスターが無くなっている。ロックドラゴンに刺したのは覚えている。つまりまだ腹に刺さっているか、もしくはさっきの衝撃でどこかに吹き飛ばされてしまったか。
 仕方なくシュデュンヤーを抜き、後の心配をする。


「クロト! 話がある!」


 振り向くとアイリスがシエラを支えながら俺に話しかけてきていた。俺はロックドラゴンに背を向けないようにしつつ、すり足で下がる。
 レオやエヴァがいる位置まで下がると改めてアイリス達の方を向く。


「アイツの弱点が少しずつ見えてきた」

「本当か?」

「ああ、体がでかい事もこれで説明ができる。レオとエヴァリオンはどうだ? 動けるか?」


 俺は両脇で倒れている二人を見る。


「問題ねぇよ……」

「……私もまだいけるよ」


 レオとエヴァが起き上がる。それでもかなり無理をしているはずだ。
 普段の二人ならこの程度でへばったりしない。それもこれも雪山と言う環境が起因している。二人とも辛うじて立ってはいるが、二度三度攻撃を食らえばどうなるかわからない。


「よし、三人はなるべく奴の鱗を攻撃してくれ」

「鱗?」

「ああ、おそらく奴は岩石そのものを全身に纏っている」

「なに?」

「何度か鱗を攻撃したときにポロポロと崩れたり土煙が舞ったりした。それに、ただ一体しか存在しないとされている七頭のドラゴンにこんな特異個体がいるのはおかしい。全身に分厚い鎧を纏っているならこの大きさも納得できる……かもしれない」

「腹下の鱗は柔らかかった。もしそれが正しければ本当の鱗はそう硬くないはずだ。勝機はまだまだあるぞ」


 勝機は……本当にあるのか。
 こいつはまだまだ本気を出しているようには見えない。この戦い、そう簡単には終わらせてくれないだろうな。

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