最弱属性魔剣士の雷鳴轟く

相鶴ソウ

65話 超級魔物の恐怖

 三段目に登ってから約一ヶ月が過ぎた。


 雪山の生活は慣れていない俺やエヴァにとっては至難を極める旅になった。
 突然襲ってくる吹雪、常にマイナスを超える凍てつく寒さ、俺達は次第にかじかんでいき、体の動きが悪くなる。
 更に長期間に渡る登山、魔物との戦闘。少しずつ余裕がなくなっていった。
 それでもハンター隊のフォローもあり、俺達は遂に、八段目に到達した。ようやく雪山での生活にもそれなりに慣れ始め、平原と同じ程度の動きは出来るようになってきている。


「ユノ、確認したロックドラゴンは一頭だけだったか?」

「はい! 私が確認したのは一頭のみです」

「そうか、一頭だけならいいが……」


 ロックドラゴンはサラマンダーと同じ超級魔物、そして亜竜。魔物狂暴化以前は大陸に一帯しか居ないとされる亜竜だったが、平原に超級がうろつく今となってはその法則もkなあらず正しいとは言い切れない。二頭三頭ならまだ良い方だ。最悪の場合数十体の群れが現れないとも言い切れない。


「しかし私が確認したロックドラゴンは通常種よりもかなり大きく感じました」

「大きい?」

「はい、通常のロックドラゴンはでかくても体長十メートルを超える種はいませんでした
しかし、今回発見したロックドラゴンは目測でも二十メートルは超えていたように見えました」

「そんな巨大種が……」

「二十メートル……実感がわかねぇな」

「うむ、クロト。この間戦った雷獣・トゥルエノティーグルの約三倍だ」

「三倍……!?」


 あの虎ですらかなりデカかったのにあれの三倍って……


「腕がなるなぁ!」


 レオはむしろ嬉しそうだ。


「この人数差なら大丈夫だよ」


 エヴァもそこまで深刻には考えてないっぽいな。
 まぁでも確かに、いくら相手がでかくてもここにいるのは狩りを生業とするハンター隊総勢四十名。プラス俺達。
 勝てる見込みは十分にある、か。さっさと倒して、ヘレリル公爵領に……




「グオオオオオオオオオオオオオオオ」




 突然地を揺るがす咆哮が辺り一帯に響き渡る。
 なんの前触れもない出来事に俺達を含め全員が一瞬にして統制を失う。


「……落ち着け!! 全員戦闘態勢に移れ!! 相手は間違いなくロックドラゴン!! 周りにロックドラゴンの姿が確認できないという事は奴が現れるのは恐らく……」


 ロック。安直に考えるなら地竜。つまりは地面こそが奴のテリトリー。てことは……・下か!
 考えに至るとほぼ同時に前方一メートル先の雪が盛り上がる。
 と言ってもホワイトオークやホワイトベアーとは比べ物にならない程の地響きを伴う隆起だ。すぐに俺達が立っている辺りもすぐに雪が崩れ始める。


「まずい! 下がれ!!」


 俺は咄嗟に瞬動術を後ろに向かって使い、近くにいたエヴァとシエラを抱えて後方に飛んだ。
 アイリスやハンター隊もすぐさま後ろへ飛び退き隆起から逃れる。
 全員が隆起範囲から出るのを待っていたかのように雪が吹き飛び、遂にそれ・・が現れる。
 全長は二十メートルを超え、皮膚は名前の通り岩石のような鱗に覆われている。後ろ足は太くがっしりと大地を捉えている反面、前足は小さく爪が鋭い。小さいと言っても一振りで人二、三人は吹き飛ばせるだろう。地中で暮らすうちに退化してしまったのか翼は無く、巨大なしっぽは雪を散らし、大地を抉っている。
 更に頭部に生えた二本の角は牛のように曲折している。


「こ、これが……ロックドラゴン」


 アイリスはロックドラゴンを見上げながら目を見開いている。今まで戦ってきたサラマンダーやトゥルエノティーグルとは格が違う……
 超級とか、巨大種とか、そう言う話の次元じゃない。
 ハンター隊も逃げ出しこそしないものの恐怖に飲まれている。
 レオはロックドラゴンを見上げて笑っているが、その顳顬こめかみには冷や汗が流れている。強者と出会った事の喜びと、本能的な恐怖とが競合しているんだろう。
 エヴァも予想よりはるかに大きいドラゴンを前にし、かなり怯えてしまっている。
 さっきまでの勝てそうな雰囲気はもはや微塵も残っていない。
 実力はまだ未知数。だが登場に関して言えば完全にロックドラゴンの勝ちだった。

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