最弱属性魔剣士の雷鳴轟く

相鶴ソウ

64話 アルテミス・シュス・アイ

 テリア山に入ってから一週間。二段目に到達した俺達は順調に進んでると言えた。
 途中何度も魔物に遭遇したが、いずれもホワイトベアーやホワイトオークで、ハンター隊のコンビネーションと弓術があればなんの問題も無かった。
 危険もなく、安全なのはいいんだが……ただ歩いてるだけってのは楽しくない。暴れ足りない。
 なんて考えてると前の方で雪が盛り上がっている部分がある。中で魔物が寝てるんだろう。
 思った通り、俺達の足音に反応して雪が盛り上がり、中から白い毛並みのオークが現れる。ホワイトオークだ。


「前方三十メートル! ホワイトオーク出現! 全体、戦闘態せ……」

「俺一人で十分だ!」


 俺は雪に覆われている地面を無理矢理踏み込み、雷と瞬動術を合わせてギザギザに高速移動し、ホワイトオークに近づく。


雷化・天ラスカティグ……いや、雷装衣で十分!!」


 俺の速度にこそ追いつけていないもののホワイトオークはすぐに俺を標的と認め、拳を振り下ろす。


「面白い、行くぜ。雷術 雷崩拳」


 左から飛んでくる拳に右手から放たれる雷崩拳で受ける。


「グゥ……グァァァ……」


 雷を伴う衝撃がホワイトオークの腕にほとばしり、痛みに吠える。そのまま何度もホワイトオークを殴る。


「雷帝流 雷鋼剣」


 すばやくテンペスターを抜き、痛みで仰け反っているホワイトオークの胴体に雷の一撃を叩き込む。
 ホワイトオークは体を真っ二つに斬られ、血しぶきを舞わせながら絶命した。
 三年前は傷をつけるだけでもかなり苦労したけど、両断まで出来るとは。雷の質も上がってるし、単純な筋力や剣術の腕も上がってる。
 俺も強くなってるんだな。


「いっちょあがり」


 テンペスターを鞘に収め俺は皆が居る所まで戻る。


「クロト……暴れたりないのはわかるけど団体行動乱しちゃだめだよ」


 エヴァがやや困った顔で言う。


「全くだ。次はおれにやらせろよ」

「レオも乗らないの!」

「堅いこと言うなよ」

「自由すぎること言わないでよ!」


 それにしてもレオはすごい。
 コートも着ずにシャツ一枚で雪山を登ってるんだからな。動きも全然落ちてないし、どういう鍛え方したらこうなるんだよ。


「ふふ……はははっ!」


 近くで聞いていたアイリスが突然笑いだす。
 遂に壊れたか? ロックドラゴンの襲撃や“奴”の存在。楽ではない雪山登り。精神がおかしくなる要因はそれなりにある……


「いや、悪い。あまりにも自由でついついな。それにクロト、三年前とは比べ物にならないほど強くなってるな」

「地獄のような場所で鍛えてたからな!」


 本当は地獄そのものなんだが、流石にそれを言うには説明する時間が足りない。


「それは頼もしい。今度うちのシエラとも手合わせしてもらいたいな」


 シエラ……あの結界術を使える青髪の女の子か。


「ん、わっちとでありんすか?」

「シエラはハンター隊の中でもずば抜けて強くてな」

「そんなことは……」

「へぇ、それは是非とも戦ってみたいな」

「うむ、そのためにもまずはロックドラゴンだな。三段目が見えてきたぞ!」

「だからわっちは……!」


 シエラの事は無視して俺達は進む。





「氷術 武器具現 『トマホーク』 氷斧両断二投撃ひょうふりょうだんにとうげき


 空中に現れた二本の巨大な氷の斧が回転しながらホワイトベアーの胴体を斬り裂き絶命させる。


「やるな、エヴァ」

「まぁね〜」

「あれを見なんし。次が来るでありんすよ」


 シエラが指さした方を見るとホワイトオークが二体走りながら迫っていた。


「おれが殺る」

「わっちも行くでありんす」


 レオとシエラが前に出る。


至天破邪剣征流してんはじゃけんせいりゅう 突破の型 『虎武璃とらぶり』」


 レオの姿が一瞬にして消え、次にホワイトオークの首が飛び、血しぶきが舞う。その後ろにレオが現れ、二代銀月を鞘にしまう。


「見えんした、矢の道が」


 シエラはつがえていた矢を更に引き絞り……放つ。すぐさまもう一本矢をつがえ放つ。
 二本の矢は綺麗に心臓と脳天に刺さりホワイトオークは崩れるように倒れ、そのまま死んだ。
 シエラもすごいな。動いてる相手にあれだけ的確な射撃ができるなんて。


「シエラは神眼持ちなんだ」


 後ろからアイリスが話しかけてくる。


「神眼?」

「ああ、十二人の英雄が持っていたとされる眼で人理限界のその更に上位に位置し、人理限界以上の力が使える。らしい」

「へぇ じゃあ一種の才能みたいなもんか」

「うむ、シエラの眼は“月の女神の投擲眼アルテミス・シュス・アイ”」

「効果は感覚的な物で明確にはわからないでありんすがピントを合わせたところに矢を命中させられる……というか当てようと思ったら当てれるでありんす。あとは集中すればかなり遠くまでしっかり見えたりもするでありんす」

「それってものすごく強いんじゃないの?」

「神眼はかなりの魔力を使うでありんす。そう頻繁には使えんでありんすよ」

「なんにせよ強いことに変わりはない。ロックドラゴン討伐と主の鎮静、クロト達の協力とシエラや我々ハンター隊が力を合わせれば可能だ! 残りも気張って行こう」

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コメント

  • 相鶴ソウ

    ですね〜目は王道中の王道ですが……やっぱり好きだ!!笑

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  • コング“シルバーバック”

    目に特殊な力があるキャラは制限がキツいあるあるですねw

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