最弱属性魔剣士の雷鳴轟く

相鶴ソウ

57話 いざ行かん

 俺達は傷の手当と休息をませ、アルテ・ロイテの家に来ていた。


「大変申し訳ありませんでしたっ……!!」


 アルテ・ロイテは俺達が入ると同時に両手と膝を地面に着け、頭を下げる。たしか東洋に伝わる文化の一つで土下座って言ったかな。
 前にレオが言ってた。


「事情はだいたいわかってるつもりだ。謝る必要はない」

「し、しかし、私は……」

「村を守るために最善を尽くした、それだけだろ。そもそも俺達は生きてるし、あんたらも生きてる。一先ずはそれで良かったじゃないか」

「あ、ありがとうございます……」


 再びアルテ・ロイテは頭を下げる。
 事実、別に大して気にしてはいない。コイツらにだって守らないといけないものはあるし、俺の仲間も無事だった。そりゃ多少ムッとはしたが、結局俺達の今の実力を見るにはいい機会だったし。ここは水に流すとしよう。
 その後俺とエヴァはアルテ・ロイテの家を出てレオの待つ村の広場に向かった。





「ここ一年、二年でこの大陸はかなり変わったのよ」

「変わった?」

「ええ、あちこちで魔族による襲撃、魔物の凶暴化。盗賊界もかなり不安定な状態よ」


 まてまてまて、情報量が多すぎるぞ……


「魔物の凶暴化?」

「ふん……何も知らないのね。原因はわからないけど、各地で魔物の凶暴化が起こっているの。今まで大魔森にしかいなかったような魔物もそこら中で確認されてて、帝国もあちこちに騎士団やら兵士を派遣してるけど、まるで追いつかない」

「そうだったのか」

「三大将軍も魔族迎撃にいっぱいいっぱいで、魔物討伐にまで手が回らないみたいだし、各街の冒険者ギルドが今必死で依頼を出してるよ」


 地上に戻ってからは森に近づいていない事もあって魔物には遭遇してなかったし、全然知らなかったな。


「盗賊界が不安定ってのは?」

「ふん……関係ないお前らに話すような事じゃないんだけどね。三年前、ミネルヴァ盗賊団というこの大陸でも最強と言われていた盗賊団が壊滅した。誰がやったとかはわからないけど、そのせいで大きく盗賊界の勢力図が変わったの」

「ミネルヴァ盗賊団……三年前か」

「知ってるの?」

「いや、続けてくれ」


 三年前、たしかクリュを取り戻す為に一つの盗賊団と戦った。まさかあの盗賊団がミネルヴァ盗賊団ってわけではないよな……


「私達ユーノ盗賊団とミネルヴァ盗賊団は姉妹盗賊団として共存していたんだけど、中には今までミネルヴァ盗賊団の抑止力で勢力を拡大出来なかった盗賊団も居るのよ。ミネルヴァ盗賊団がいなくなったのをいい事にそいつらが暴れだした。そのせいで勢力図は大きく変わって、混乱してるってわけ」

「なるほどな。盗賊界にも色々あるんだな」

「まぁね。今ではあちこちで縄張りが張られて獲物の取り合い。特に強いのはウェヌス盗賊団ね」

「ウェヌス盗賊団?」

「ええ、私達と滅んだミネルヴァ盗賊団が姉妹盗賊団だとは話したでしょ。実は姉妹は姉妹でも三姉妹なの」

「三姉妹? なるほど……そのもう一つの姉妹が」

「ウェヌス盗賊団。ミネルヴァ盗賊団が壊滅してから急激に成長し、今では大陸で一番の勢力を誇る盗賊団よ。配下の盗賊団も多いし、南に行くことがあれば気をつけたほうがいいわ」

「わかった。いい話を聞けたよ」

「ウェヌス盗賊団をたかが盗賊団と甘く見ない方がいいわよ。今じゃ国もそう簡単に手出しできない組織に成長してるんだから」

「肝に銘じておく。……それと、一つ頼みがあるんだが」





 それから数日後。十分な休息と治療を取った俺達はキンミー村を出ることにした。
 腹の傷はまだ完治してないが、旅を続ける分には特に支障はないレベルまで回復している。戦闘はまだ勘弁だがな……


「旅人様ぁぁ! 本当にありがとうございました」

「ああ、これからも元気でな。アグリア、ラディ、くれぐれも頼んだぞ」

「ふん……任せておきなさい」


 アグリア達、ユーノ盗賊団にはキンミー村の警備をしてもらう事にした。
 正直盗賊にこんなこと頼むのもどうかと思ったが、実力もあるし物分りも良さそうだったから頼むことにした。村で共同生活をするって事になれば飢えて盗みをする必要もないし、ウェヌス盗賊団を恐れて盗賊業からは抜けたいとボヤいているのを聞いていたし、悪い選択ではないだろう。


「じゃあ、またな!」

「次会う時までにもっと強くなっておけよ」

「ばいばーい」





「クロト、次はどこに?」

「ヘレリル公爵領に向けて、もう少し北上してハングル公爵領に入る」


 ハングル公爵領……三年前合宿で登ったテリア山のある公爵だ。ハンター隊もいるはずだし、懐かしい場所だ。あの場所で俺とエヴァは帝国と決別することになってしまった。


「でも、その前に」

「ん?」

「少し寄り道したい」

「おれは構わねぇよ。どこに行くんだ?」

「俺の故郷……リブ村に」

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