最弱属性魔剣士の雷鳴轟く

相鶴ソウ

41話 二年の時を経て

「ここの飯は不味くはないけど、美味くもないんだよな……」


 俺は日課になっているグレイドとの早朝訓練を終え得体のしれない肉の入ったスープを食っていた。まぁ食えるだけ有り難くはあるんだが、毎日毎日同じメニューで、最初の一週間で飽きた。
 瞬動術や獄気の修業を始めてからもう二年が経過し、気づけば俺は十七歳になっていた。
 地獄での訓練は順調で、獄気のコントロールを午前中にし、午後からは地獄巡りをしている。
 地獄巡りとは文字通り地獄に点在している八個の地獄を巡ることだ。そこでの苦痛、痛みを経験することでより強力な地獄を呼び出せるらしい。
 俺も最初は訳がわからなかったが半年前、修行開始から1年半が経った頃、突然ハデスに呼び出された。


「クリュの右手に宿る地獄の鍵をお主に継承する。必要な力だ、受け取れ」


 そして俺の右手には今、地獄の鍵の模様が薄く描かれている。
 俺は地獄の鍵により八大地獄を呼び出す術を身に着けているが、エヴァは地獄の冷気を操る修行をしているらしい。この前練習ついでに戦ったが、氷術のレベルはかなり上がっていた。
 かくいう俺はというと、雷術の徹底的な改善を重ね、二年前の数倍の力を手に入れた。
 早朝のグレイドとの朝一番勝負以外はハデスに直接鍛えてもらっている。ハデスははっきり言ってめちゃくちゃ強い。二年修行したぐらいじゃ全く歯が立たない。たまにアシュラも遊びに来るがあれも化物だ。
 そして今日もこの飯を食い終われば、ハデスと獄気の訓練をして地獄巡りだ。今日は大焦熱地獄に行くとか言ってたかな……


「クロト!」

「お、エヴァか おはよう」

「う、うん。おはよ」

「どうしたんだ? 元気ないのか?」

「ううん! そんなことないよ」


 最近エヴァはずっとこんな感じだ。話しかけてくるのにずーっと顔を伏せて目が合わない。体調が悪いとかかと思ったが、大丈夫だと言うし、実際修行の様子を見ているとどこかに不調があるようには見えない。地上にもこの二年一度も帰っていないから、何か不安があるとかそういう事でもないと思うんだが……


「今日の修行も頑張ろうな」

「う、うん その、あのね……訓練が……」


 エヴァが何か言おうとしていたが突然空いた扉から飛び出した声にかき消される。


「クロト! クロトはいるか!」

「ん? ハデスか」

「うむ、そこにおったか。実はな、少し地上で騒ぎがあったらしい」

「騒ぎ?」

「うむ、これをまずは見てほしい」


 ハデスが指をパチンと鳴らすと灰色の雲が円を作り景色を映し出す。
 高さ十五メートル程の壁に囲まれた中規模の街が写っている。
 特に問題はなさそうに見えた。が、よくよく見てみると街の周りの地面が動いて……違う。地面じゃない。地面を隠すほどのアンデッドの大群が街を襲っているんだ。
 街の門は固く閉ざされてはいるが、アンデッドの勢いで今にもこじ開けられそうだ。街の内部はパニック状態。住民を避難させようと兵士は動いているが、街は全方位を囲まれ、出ることは出来ない。
 兵士の中に混じってエルトリア学園の制服を着たやつもいる。何をしているのか知らないが、やはりこちらもパニック状態で、まともに兵士達も機能していない。
 驚いてハデスを見ると無言で頷き、話し始めた。


「どうやらエルトリア学園の生徒は研修旅行なるものに来ているらしい。場所はコムラ公爵領のヴァントという街だ」


 制服に入ったラインは紺。マナティア達、つまり俺達と同年代の奴らだ。てことはこの中にガイナ達も居るのか……


「行ってくれるか? 犯人は恐らく死者使いの魔族 我々の敵だ」

「ああ、すぐに行く。行くぞエヴァ!」

「え、あ、うん!」

「黒鬼隊も同行させよう。すぐに出発してくれ」





「伝令! 伝令! コムラ公爵領、ヴァントの街にて数万を超えるアンデッドを確認!至急援軍願います!!」

「く、次はコムラ公爵領か! 天馬(ペガサス)騎士団、ドラゴン騎士団!すぐに向かってくれ」

「「は!!」」




ーあとがきーーーーーーーーーーーーーー

今回は繋ぎだったので短めでした。

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