最弱属性魔剣士の雷鳴轟く

相鶴ソウ

46話 勝利と帰還

「開け……地獄の門よ!! 来い! 焦熱地獄!」


 右手のあざが光り、地面に巨大な魔法陣が俺を中心に展開される。


「な、何だ……」


 炎の剣を持った男が突然の巨大な魔力に戸惑い周りを見渡す。炎の剣はあと数センチで俺の頭に届く、というところで止まっていた。
 ゴゴゴッという音と共に大地が割れる。


「ひぇひぇひぇひぇひぇ。これは予想外」

「こんな力を手にしておるとは」


 地面の隙間から炎が飛び出し、敵を葬らんと踊る。
 炎は魔王全員に襲いかかる。それぞれ応戦するが、地獄の炎はその程度では止まらない。


「ちっ……退くぞ」


 この炎はまずいと悟ったのか男は他の三人を振り返る。


「それしかありませんねぇ」

「クロト、また会おう」


 それだけ言い残すと四大魔王は影となり消える。


「エヴァ!」


 俺はなんとか立ち上がり後ろでぐったりしてるエヴァを抱きかかえる。早く連れて帰らないと……だがその前にこの戦いを終わらせる。
 呼び出された炎は標的を失い無駄に宙を舞っている。恐らく俺が呼び出した際に魔王を標的としたためだろう。エヴァやアンデットを無視している。
 俺は右手を突き出し炎を操ろうと試みる。このまま放置しておけば俺達も焼かれるだろう。


「行け 標的はあのゾンビ共だ!!」


 すると炎はまるで骨を投げられた犬のようにアンデット達へ向かっていく。そして門を攻めることで必死なアンデット達を包み込み、燃やしていく。


「成功した…… おい、エヴァ! エヴァ!」


 よほど疲れていたのか全く目を覚まさない。
 炎はアンデット達を燃やし続け、その炎の餌食になっていないアンデットはもはやいない。アンデット達もなんとか抗おうと武器を振るが、炎にそんなものは効かず、空を振るばかりだ。
 この程度の知性しかないアンデットにこの状況をどうにかする術はないだろう。


《アルギュロス!》


 俺はエヴァをギュッと抱きかかえ、アルギュロスに念話を飛ばす。このままじゃ俺もエヴァも保たない。
 とりあえずここは地獄に引き返そう。


《主!》

《地獄へ引き返す。グレイドたちを連れて南の門まで来い!》

《御意!》


「閉じろ、地獄の門よ!!」


 俺は右手を地面につけ、地獄の門を閉じる。と同時に炎は消え、アンデットだった燃えかすだけが残る。
 なんとか倒した……と喜びに浸る間もなくどっと疲労を感じ、瞼が落ちる。地獄の力、絶大な力故に疲労がすごい。雷術と比べても別格だな……





「よくぞ帰った。グレイドよ」


 宮殿に戻ったグレイドは事の一部始終をハデスに報告していた。


「は!」

「して、クロトとエヴァリオンはどうした?」

「現在、戦闘での傷と疲れを癒やしています」

「そうか……目覚め次第ここへ連れて来てくれ」

「は!」





 目を開けるとそこには見慣れた天井。そうか、帰ってきたのか。
 痛む身体に鞭打ってなんとか起き上がる。


「クロト様」

「ん? ああ、グレイドか」

「お身体はどうですか?」

「全身いてーな」

「地獄一の名医に見てもらったのですが、それが最善だと」


 魔術とはいえ万能ではない……か。


「にしてもこの身体のだるさや痛さは異常だな」

「地獄の門を開いた影響かと。まだ慣れぬ身体であれほど強大な焦熱地獄を呼び出せば、身体にもかなり負担がかかるかと……」

「強大? そこまででかい地獄は呼び出してないぞ?」

「何をおっしゃいます。街全体を覆い、街の中のアンデットもほとんど倒してしまったではないですか」

「な、そんなにか?」


 目の前の魔王を退けるのに必死で見れてなかったが、そんなでかい地獄を呼び出したのか……


「地獄は想いに応える力です。クロト様の強い想いがここまで巨大な地獄を呼び出したのだと思います」

「そうか……あ、そうだ。エヴァは?」

「クロト様よりも早くお目覚めになられ、今は体がなまるとアシュラ様の所へ」


 アシュラ。ほんの数時間外に出ていただけだが、なんだか懐かしく感じるな。


「あのおっさんのとこか」

「はい。そういえば、ハデス様が起きたら来てくれとおっしゃってました」

「そうか、エヴァが帰ってきたら行くよ。それまでは、まだ寝かせてくれ」

「了解しました。では、おやすみなさいませ」





 場所は変わり、地上。コムラ公爵領ヴァント。
 数週間前に総勢五万を越えるアンデット集団に襲撃された傷が今も生々しく残っていた。


「おい!そこの木材取ってくれ!」

「誰かー!こっちにも木材頼むー!」


 しかし、人々はたくましく、復興の目処は着々と立っていた。
 救援に駆けつけた天馬ペガサス騎士団とドラゴン騎士団もその地にとどまり、復興の手伝いをしていた。


「エイナ、そっちはどうだ?」

「なかなか進まないわ。被害が大きすぎて、どこから手を付けたらいいか」

「片っ端からやるしかないだろうな」

「アラン団長!」

「あぁ?どうした!」

「西門に魔物多数。今の状態ではすぐに打ち破られてしまいます!」

「くそ……俺達で食い止めるぞ 来い!アイリーン!」

「わかったわ」


 白髪の女魔術師が後に続く。


「はぁはぁ……エイナさん!」

「マナ!」

「なんとか避難所に集まる怪我人たちの治療が終わりました……」

「ほんと! じゃあ少し休憩して、あなた達も建て直しに回ってちょうだい!」

「はい!」





 数日眠り、動ける程度まで回復した俺はハデスに呼ばれ、大広間に来ていた。
この場にいるのはハデス、その娘クリュ。
 そして俺、エヴァ、アルギュロス 後は戦いに出た黒鬼隊のやつらだ。


「まずは、長期戦ご苦労であったな。クロト、エヴァリオン」

「ああ、乗り切れたのはこいつのおかげだ」


 俺は右手のあざを擦る。


「うむ。ここからではあるがお主らの活躍は見させてもらった。よく成長しておった。地獄の門も問題無く発動できたようだしな」

「ああ、だが、思ったよりもでかいのを呼び出したみたいで、街にも被害を出しちまった」

「初めてでは仕方あるまい。幸い、焦熱地獄による怪我人はおらんかったようだし、クリュも初めての時は街を一つ滅ぼしたもんだ」

「ちょっと、父上!」

「ハッハッハッ、悪い悪い。あとは身体と鍵を慣らしていけばすぐにコントロール出来るようになる」

「ああ」

「さて、無事帰還したことを祝して宴会だ!!」


 ここに来て二年。ハデスの気まぐれでちょくちょく行われるこの宴会はもはや恒例行事と化していた。俺がここに始めてきた夜にも宴会があったが主役は俺やエヴァにも関わらず、ブルーバードで培った接客と造酒の腕を見込まれずっと走り回ってたのを覚えてる。
 さて、今日もまた走り回ることになるかな……

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