最弱属性魔剣士の雷鳴轟く
39話 修行開始
「な、力不足?」
「うむ、少し地上でのお主の戦いを見させてもらったが、確かに他の者よりは強い。だが、ゼウスと比べるとまだまだ……」
「でも、じゃあどうするんだ?」
「これより三年間でお主を鍛え上げる」
「な、そんなこと勝手に」
「すでにお主は我からの願いを受けた。これも我からの願いだ。お主には死んでほしくない」
「……わかった」
三年もちんたらしてる時間は無いんだが、事実として今の俺に出来る事はたかが知れている。帝国を潰すにも、魔族と戦うにも今の俺では力不足だ。
「よし、決まりだ。これより三年間でお主にはゼウスを超えてもらう!」
おいおい、三千年前大陸を救った英雄を三年で超える? 無理言うなよ……
「あれを」
「はっ!」
ハデスが合図すると黒鬼隊の一人がお盆をうやうやしく両手で持ちながら俺の所まで来、そして膝をついた。
お盆の中を覗き込んでみると剣があった。柄、刃まで真っ黒の剣だ。デカさはだいたいテンペスターと同じ程度。隣に置かれた鞘も真っ黒だ。
「これは?」
ちらりとハデスを見上げる。
「お主への報酬の一つ目じゃ。地獄の秘宝『シュデュンヤー』」
「…………」
俺は剣とハデスを交互に見る。
「ん? なんだ、なにか不満か?」
ハデスも俺の意図に気づかず剣と俺を交互に見る。
「うむ、なるほど。お主は用心深いな。安心しろ、そいつに呪いはない。むしろ多大なる加護をもたらす」
「加護?」
「うむ、加護とは、いくつかあるが……その剣は死者を殺すことができる」
「死者を……殺す?」
「ゾンビとして蘇らされた死者は痛みも感じず、血も肉も必要ない。故に不死。体を原型がなくなるほど消し飛ばすか、動けないようにするしか対処法は無かったが、この剣は斬ると死者の魂を吸い込み、そのままここ、地獄へ送ってくれる」
「な、そんな能力が」
「お前のために作った剣だ」
「へぇ」
「更には魂を地獄へ送れば送るほど、切れ味、そして強度が上がる。更にごく稀にその者の力の一部を吸収し、使用を可能にするが、まぁこっちはあまり気にしなくてもよいだろう」
「なるほどね。ゾンビを斬れば斬るほど強くなるから、積極的にゾンビと戦えって事ね」
「うむ、とにかく受け取れ。もらって損する物ではないはずだ」
「ああ、だがいいのか? 秘宝なんてもらって」
「うむ、それだけお主には賭けておる。アンデットは手や足を斬り落としてもすぐに元通りになってしまう。それがないと、やり合うのは厳しいだろう」
「そうか、わかった。ありがたく受け取っておく」
「うむ、修行の話は一度おいておき……とりあえずは宴会じゃ!」
「「うぉぉぉぉぉぉ!」」
「いきなりすぎだろ!!」
そんなこんなで俺は結局、地獄での三年間の修行を始めた。
◇
同時刻。
エルトリア学園寮。
銀色の髪を伸ばした少女が学園寮の一室の扉コンコンっと叩く。
「ん? 開いてるぜ」
中から太めの声が帰ってくる。
ドアを開けると、入って正面の窓際に置いてある机に向かって大男が斧を睨みつけながら座っていた。
「久しぶりね、ガイナ。……何してるの?」
「ああ、マナか。久しぶりだな。今こいつの調節をしててな」
ガイナは愛用の斧ディアバレスをコツンコツンと叩きながら答える。
「へぇ、どこか調子でも悪いの?」
「ん、いや 最近実戦的な訓練が増えたからな。いざ戦闘中に不備があったらおしまいだ」
「確かに……そういえば、進路とかどうするの?」
「俺は龍騎士団に入るつもりだ」
「え……」
「クロトもエヴァも死んでなんかいないはずだ。探しに行きたいと思ってる」
「……そう」
「君はどうするんだい?」
突然背後から声をかけられマナティアはドキッとする。
「……なんだ レイグか。びっくりさせないでよ。そうね……私は天馬騎士団に入ろうかなって」
「そうか、なら三人とも兵士になるわけだ」
「え? レイグも?」
「当たり前だ、僕は元々王子直属の騎士だったんだ。兵士以外に道なんてないさ」
「そっか……じゃあお互い頑張りましょうね」
「ああ」
「おう」
◇
「エイナさん」
「ん? 君は確か……」
「伝令兵のエイジです」
新団長として忙殺されているエイナの元へ、伝令兵の男がやって来る。伝令兵とは街から街へ、指揮官から指揮官へ情報の伝達を主な任務とする兵士で、諸事情により戦闘に参加できなくなった兵士なんかが選ばれる。
地味な役割で敬遠されてしまうが、伝令兵が居ないと戦場はまともに機能できない。重要な役割である。
「ああ、どうしたの?」
「コムラ公爵領を根城としていた盗賊団が全滅したそうです」
本当なら喜ぶべき情報に、エイナは暗い顔のまま、表情を曇らせる。
「……そう。いつも、奪われるのね」
伝令兵が去った後、エイナはぽつりと呟き、頬を伝った涙を乱暴に拭いてまた仕事に戻る。
◇
「ではクロト様にはまず瞬動術を教えます」
修行をするため俺とグレイドはハデスの宮殿の中にある中庭に来ていた。
「瞬動術?」
「はい、土煙一つ立てずに瞬時に数メートルを移動する歩術の一つです」
「なるほど、」
確かにそういう術も習得していないとこれならの戦いも厳しくなるかもしれないな。
「瞬動術を習得すれば、クロト様の雷と相まって神速の速度を得れるはずです。さらにこれからは瞬動術を基盤とした技も多く習得するので」
「よし、教えてくれ」
「はい。では、見ていてください」
と、グレイドは特に構えるわけでもなく普通に立っている。
何もしないのかと思っているとグレイドの足がピクピクと動いたかと思った次の瞬間、ふっと風が顔の横を駆け抜け、グレイドが消えた。
慌てて後ろを見ると、そこにグレイドが立っていた。
「す、すげぇ」
「まずは見様見真似でやってみてください」
「おう!」
俺は足に神経を集中し、目にも止まらぬスピードをイメージする。
右足に重心をかけ、一気に踏み込む。景色が一瞬で後ろに消える。ちらっと後ろを見ると踏み込みすぎて地面がへこみ、かなり砂煙が舞っている。
ありゃ……
ーあとがきーーーーーーーーーーーーーー
読んでいただきありがとうございます!
少しリアルが忙しいので、あとがきの方はしばらく割愛させていただきます。
申し訳ありません。
「うむ、少し地上でのお主の戦いを見させてもらったが、確かに他の者よりは強い。だが、ゼウスと比べるとまだまだ……」
「でも、じゃあどうするんだ?」
「これより三年間でお主を鍛え上げる」
「な、そんなこと勝手に」
「すでにお主は我からの願いを受けた。これも我からの願いだ。お主には死んでほしくない」
「……わかった」
三年もちんたらしてる時間は無いんだが、事実として今の俺に出来る事はたかが知れている。帝国を潰すにも、魔族と戦うにも今の俺では力不足だ。
「よし、決まりだ。これより三年間でお主にはゼウスを超えてもらう!」
おいおい、三千年前大陸を救った英雄を三年で超える? 無理言うなよ……
「あれを」
「はっ!」
ハデスが合図すると黒鬼隊の一人がお盆をうやうやしく両手で持ちながら俺の所まで来、そして膝をついた。
お盆の中を覗き込んでみると剣があった。柄、刃まで真っ黒の剣だ。デカさはだいたいテンペスターと同じ程度。隣に置かれた鞘も真っ黒だ。
「これは?」
ちらりとハデスを見上げる。
「お主への報酬の一つ目じゃ。地獄の秘宝『シュデュンヤー』」
「…………」
俺は剣とハデスを交互に見る。
「ん? なんだ、なにか不満か?」
ハデスも俺の意図に気づかず剣と俺を交互に見る。
「うむ、なるほど。お主は用心深いな。安心しろ、そいつに呪いはない。むしろ多大なる加護をもたらす」
「加護?」
「うむ、加護とは、いくつかあるが……その剣は死者を殺すことができる」
「死者を……殺す?」
「ゾンビとして蘇らされた死者は痛みも感じず、血も肉も必要ない。故に不死。体を原型がなくなるほど消し飛ばすか、動けないようにするしか対処法は無かったが、この剣は斬ると死者の魂を吸い込み、そのままここ、地獄へ送ってくれる」
「な、そんな能力が」
「お前のために作った剣だ」
「へぇ」
「更には魂を地獄へ送れば送るほど、切れ味、そして強度が上がる。更にごく稀にその者の力の一部を吸収し、使用を可能にするが、まぁこっちはあまり気にしなくてもよいだろう」
「なるほどね。ゾンビを斬れば斬るほど強くなるから、積極的にゾンビと戦えって事ね」
「うむ、とにかく受け取れ。もらって損する物ではないはずだ」
「ああ、だがいいのか? 秘宝なんてもらって」
「うむ、それだけお主には賭けておる。アンデットは手や足を斬り落としてもすぐに元通りになってしまう。それがないと、やり合うのは厳しいだろう」
「そうか、わかった。ありがたく受け取っておく」
「うむ、修行の話は一度おいておき……とりあえずは宴会じゃ!」
「「うぉぉぉぉぉぉ!」」
「いきなりすぎだろ!!」
そんなこんなで俺は結局、地獄での三年間の修行を始めた。
◇
同時刻。
エルトリア学園寮。
銀色の髪を伸ばした少女が学園寮の一室の扉コンコンっと叩く。
「ん? 開いてるぜ」
中から太めの声が帰ってくる。
ドアを開けると、入って正面の窓際に置いてある机に向かって大男が斧を睨みつけながら座っていた。
「久しぶりね、ガイナ。……何してるの?」
「ああ、マナか。久しぶりだな。今こいつの調節をしててな」
ガイナは愛用の斧ディアバレスをコツンコツンと叩きながら答える。
「へぇ、どこか調子でも悪いの?」
「ん、いや 最近実戦的な訓練が増えたからな。いざ戦闘中に不備があったらおしまいだ」
「確かに……そういえば、進路とかどうするの?」
「俺は龍騎士団に入るつもりだ」
「え……」
「クロトもエヴァも死んでなんかいないはずだ。探しに行きたいと思ってる」
「……そう」
「君はどうするんだい?」
突然背後から声をかけられマナティアはドキッとする。
「……なんだ レイグか。びっくりさせないでよ。そうね……私は天馬騎士団に入ろうかなって」
「そうか、なら三人とも兵士になるわけだ」
「え? レイグも?」
「当たり前だ、僕は元々王子直属の騎士だったんだ。兵士以外に道なんてないさ」
「そっか……じゃあお互い頑張りましょうね」
「ああ」
「おう」
◇
「エイナさん」
「ん? 君は確か……」
「伝令兵のエイジです」
新団長として忙殺されているエイナの元へ、伝令兵の男がやって来る。伝令兵とは街から街へ、指揮官から指揮官へ情報の伝達を主な任務とする兵士で、諸事情により戦闘に参加できなくなった兵士なんかが選ばれる。
地味な役割で敬遠されてしまうが、伝令兵が居ないと戦場はまともに機能できない。重要な役割である。
「ああ、どうしたの?」
「コムラ公爵領を根城としていた盗賊団が全滅したそうです」
本当なら喜ぶべき情報に、エイナは暗い顔のまま、表情を曇らせる。
「……そう。いつも、奪われるのね」
伝令兵が去った後、エイナはぽつりと呟き、頬を伝った涙を乱暴に拭いてまた仕事に戻る。
◇
「ではクロト様にはまず瞬動術を教えます」
修行をするため俺とグレイドはハデスの宮殿の中にある中庭に来ていた。
「瞬動術?」
「はい、土煙一つ立てずに瞬時に数メートルを移動する歩術の一つです」
「なるほど、」
確かにそういう術も習得していないとこれならの戦いも厳しくなるかもしれないな。
「瞬動術を習得すれば、クロト様の雷と相まって神速の速度を得れるはずです。さらにこれからは瞬動術を基盤とした技も多く習得するので」
「よし、教えてくれ」
「はい。では、見ていてください」
と、グレイドは特に構えるわけでもなく普通に立っている。
何もしないのかと思っているとグレイドの足がピクピクと動いたかと思った次の瞬間、ふっと風が顔の横を駆け抜け、グレイドが消えた。
慌てて後ろを見ると、そこにグレイドが立っていた。
「す、すげぇ」
「まずは見様見真似でやってみてください」
「おう!」
俺は足に神経を集中し、目にも止まらぬスピードをイメージする。
右足に重心をかけ、一気に踏み込む。景色が一瞬で後ろに消える。ちらっと後ろを見ると踏み込みすぎて地面がへこみ、かなり砂煙が舞っている。
ありゃ……
ーあとがきーーーーーーーーーーーーーー
読んでいただきありがとうございます!
少しリアルが忙しいので、あとがきの方はしばらく割愛させていただきます。
申し訳ありません。
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